第2 個人会員へのメッセージ(3)

3. 投資銀行部門との関係

(1)米国における証券アナリスト批判の大きな論点は、証券アナリストの調査が引受部門など投資銀行部門(以下、「投資銀行部門」という。)の業務に影響されているのではないかという点であった。今回の調査によれば、日本においては、これまでのところ米国ほど深く証券アナリストが投資銀行部門の業務に関与してはいない。しかし、委託売買手数料の自由化などによりブローカレッジ部門の競争が激化している中で、証券会社における投資銀行部門の業務は、わが国においても重要性を増しつつある。その過程で、会員が様々な形で投資銀行部門の業務への関与を求められる事例は増加していくと思われる。証券アナリストとして蓄積した専門的能力を有効に活用するため、会員が投資銀行部門の要員として配属されその業務に貢献すること自体には何の問題もない。

しかし、会員が調査部門に在籍したまま投資銀行部門の業務に関与する場合には、その関与が証券分析業務の独立性・客観性に影響を与えないよう十分な注意をしなければならない。(注1)発行会社の資金調達や M&A 等を担当する投資銀行部門と投資家のために投資情報の提供・投資推奨を行う調査部門との間には常に利益相反の危険性があるからである。

(2)投資銀行部門との関係で、証券分析業務の独立性・客観性が阻害されないようにするためには、何よりも証券会社の経営者、管理者が業務の体制および運営について適切な配慮を行い、会員を利益相反が生ずるような状況に置かないようにすることが要請される。このたび制定された日本証券業協会の理事会決議は、そのために必要な措置について規定している。(注2) 法人会員をはじめとする各証券会社が決議に従い適切な措置を取られるよう強く要望したい。

(3)しかしながら、同時に個人会員自身も、調査部門に在籍して投資銀行部門の業務に従事する場合には、利益相反の可能性があることにつき十分な注意を払う必要がある。投資銀行部門の案件になんらかの形で関与した場合、その案件が成功することを望むのは当然の感情であろうが、そのことにより証券分析業務が影響を受け、発行会社寄りの内容になったり、外部から発行会社寄りと見られるような事態が生ずれば、証券アナリストの自己否定になる。調査部門の証券アナリストの評価は市場すなわち投資家によってなされるべきであるという原則をあらためて確認することが望まれる。

(4)近年、証券アナリストが企業調査の過程において、経営トップなど発行会社の幹部とコミュニケーションを行う機会が増大している。これは歓迎すべきことであるが、証券アナリストは本来投資家のために証券分析業務を行っているという立場からすれば、発行会社との間には常に良い意味での緊張関係がなければならず、いやしくも癒着と見られるようなことがないように十分注意しなければならない。また、経営者とのコミュニケーションの過程で、その会社の経営戦略などについて議論する場合には、第三者としての客観的な企業評価ができなくなったり、インサイダー情報に接する立場に自らを置かないよう十分な注意が必要である。

 

(注1) 証券アナリスト職業行為基準 8.(3)は、「会員は、証券分析業務を行う場合には、証券の発行者等との関係において、独立性と客観性を保持するよう注意し、公正な判断を下さなければならない。」と規定している。「証券の発行者等」とあるのは、発行会社のみならず、発行者のために行動する関係者、例えば社内の投資銀行部門を含む趣旨である。

(注2) 日本証券業協会理事会決議は、要旨次のように規定している。
3 会員は、アナリスト・レポートの社内審査及び保管、情報の管理、アナリストの意見の独立性の確保並びにアナリストの証券取引等に関し、必要に応じ社内規則を制定する等社内管理体制を整備し、アナリスト・レポートの作成、使用等に係る業務が適正かつ公正に遂行されるよう努めなければならない。

9(1)会員は、アナリストの意見の独立性を確保する観点から、適切な組織体制及び報酬体系を整備しなければならない。

(2)会員は、アナリストがアナリスト・レポートを執筆するに当たり、会員の引受部門、投資銀行部門、法人部門、営業部門等からの不当な干渉及び介入を受ける等、アナリストの意見の独立性が阻害されることのないよう指導・監督しなければならない。

(3)会員は、アナリストが特定の顧客の利益を考慮して、自らの独立した意見と異なる内容の表示を行うことのないよう指導・監督しなければならない。

10 会員は、引受部門、投資銀行部門、法人部門、営業部門等の役職員が、当該部門の顧客又は見込み顧客に対し、当該顧客に関するアナリスト・レポートを作成すること及び当該顧客に関するアナリスト・レポートにおいて一定の表示又は評価を行うことを約束し又は申し出ることのないよう指導・監督しなければならない。

本ペーパーで言及している日本証券業協会理事会決議「アナリスト・レポートの取扱い等について」は、同協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則」に改正されています。また、言及している条文の内容や項目が、改正等により変更になっていることもあります。留意してください。

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