第2 個人会員へのメッセージ(1)

1.調査レポートの正確性、客観性および公正性の確保

(1) 証券アナリストの作成するレポートは、正確であるとともに、公正かつ客観的なものでなければならないことは言うまでもない。すなわち、レポートの作成に当たっては、まず基本的な前提として、分析の基礎となるデータが正確であり、その出所も明確でなければならない。さらに分析の方法が合理的であり、また結論に至る過程の論理が明晰でなければならない。 また、レポートの表現が誤解を与えるものであってはならない。

(2) 昨年の夏、数値に誤りのあるアナリスト・レポート(作成者は当協会の会員ではない。)を投資家に配布した証券会社に対し金融庁による行政処分が行われるということがあった。このケースでは、レポート作成の最も基本的な部分であるデータ作成そのものにミスがあったということであり、証券アナリスト全般の信用にも係わりかねない遺憾なできごとであった。数値の誤りは、発行会社等により直ちに明らかになるものであり、レポート 全体の信頼性が失われることになる。このようなケースが繰り返されないよう、会員がまずは正確なレポートの作成に細心の注意を払うことが望まれる。

(3) 証券アナリストは、単に誤りがなく形式的な論理構成が整っているレポー トにとどまることなく、客観的なレポートの作成を目指さなければならない。レポートの作成に当たっては、自らになんらかのバイアスがないか、発行会社や社内の他部門との関係で影響を受けていることがないかを十分に内省する必要がある。

(4) また、証券アナリストは、発行会社に係る情報にできるだけ深い分析を加え、質の高いレポートの作成を目指すべきである。一昨年の米国におけるレギュレーションFDの制定以来、わが国においても発行会社は、一般投資家への情報提供を充実し始めており、その傾向は今後益々強まるものと思われる。また、機関投資家の多くがバイ・サイドの証券アナリストの増強に努め、セル・サイドのレポートを厳しく評価するようになっている。このような状況の下では、会社から入手した情報をそのまま伝えるだけというようなことがあれば、投資に関する専門家として全く評価されないことになろう。発行会社からも一部の証券アナリストのレポートは当該会社が提供した情報についての分析が十分ではないとの指摘がある。会員には、発行会社からの情報に深い洞察を行って付加価値の高いレポートを作成する努力が今後一層望まれる。

(5) 適正なアナリスト・レポートの作成が確保されるためには、所属会社におけるチェック体制が確立されることも必要である。日本証券業協会の理事会決議(注2)はアナリスト・レポートの社内審査体制の整備について規定しており、今後各社において体制の整備が進められることになる。これは歓迎すべきことであるが、会員はまずは自らのレポート作成作業が職業行為基準(注1)にのっとって適正に行われるよう自己点検に努めることが望まれる。

(注1) 証券アナリスト職業行為基準 3.(1)イ.は、投資情報の提供、投資推奨を行う場合には綿密な調査・分析に基づく合理的かつ十分な根拠をもたなければならない、とするとともに、事実と意見を明確に区別すべきこと、重要な事実についてすべて正確に表示すること、投資成果を保証するような表現を用いないことを求めている。

(注2) 日本証券業協会理事会決議(平成15年1月15日一部改正後、以下同じ)(アナリスト・レポートの取扱い等について)4では、要旨以下のような点を規定している。(以下、「会員」とは日本証券業協会の会員である証券会社のことをいう)

(1) 会員は、アナリスト・レポートに関する指針を策定する等により、アナリスト・レポートの表示内容及び評価が適正かつ合理的なものとなるよう努めるものとする。

(2) 会員は、アナリスト・レポートを使用しようとするときは、アナリスト・レポートの審査を行う担当者(以下「審査担当者」という。)を定め、審査させなければならない。

(3) 審査担当者は、アナリスト・レポートの審査を行うに当たっては、特に次の事項に留意しなければならない。

a. 略

b. アナリスト・レポートにおける表示内容及び評価が、社内の指針等に照らし、適正かつ合理的なものであること

c. レーティング又は目標株価が記載されている場合には、レーティングの定義並びに目標株価についての根拠及び達成の予想期間が明確に表示されていること

本ペーパーで言及している日本証券業協会理事会決議「アナリスト・レポートの取扱い等について」は、同協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則」に改正されています。また、言及している条文の内容や項目が、改正等により変更になっていることもあります。留意してください。

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