第2 個人会員へのメッセージ(2)

2.株価レーティングに関する問題

(1) 米国における証券アナリスト批判の過程で一つの論点になったのが、株価レーティングのあり方である。問題点としてあげられた点はいくつかあるが、焦点は買い推奨に比し、売り推奨が少ないという批判であった。今回の調査によれば、わが国においても、米国で言われたほど極端ではないが、売り推奨が相対的に少ないという点は調査先の多くが認めている。この点に関し、当協会としては以下のように考えている。

(2) 証券アナリストは、日頃投資対象の選定を最も意識しているので、将来にわたって株価成長が期待される銘柄を探しており、したがってそのような会社にまず注目する。また、証券アナリストのメッセージを受け取る投資家の側においても、買いの情報に注意を払う者に比し、売りの情報を注視するものは相対的に少ない。これは買いの情報はすべての投資家にとって意味のあるものであるのに対し、売りの情報は既にその売り推奨銘柄を保有している者と空売りを考えている者を対象としているからである。実際、これまでわが国の機関投資家の運用戦略においては買いを基本とし、売りから入る者が少なかった。こういった点を考えると、これまで、買い推奨の数が相対的に多かったことには相応の理由があったと言えよう。

(3) しかしながら、現在多くの証券会社によりトピックス等のインデックスに対する相対評価が採用されていることを考えると、相場全体の動向にかかわらず、売り推奨銘柄は常に存在するはずである。したがって、売り推奨の割合が極端に小さい事態が生ずれば、株価レーティングに対する信頼性が疑われることになりかねない。会員には、必要な場合は積極的に売りレーティングを付ける努力が望まれる。発行会社への配慮から、本来売りレーティングを付けるべきであるのに保持のレーティングとするようなことで、売り推奨が少ない結果となるようなことがあってはならない。

(4) 多くの機関投資家から要望されているのが、株価レーティングの継続的なフォローである。すなわち、ひとたびレーティングを付けた銘柄については、継続的に当該発行会社の状況をフォローし、事情の変更があったときは適時、適切にレーティングを変更して欲しいということである。様々な理由から、事情の変更にもかかわらず、レーティングの引き下げを逡巡したり、正当な理由がなく当該会社のレーティングを止めてしまうというようなことがないようにしなければならない。 また、レーティングの定義は、すべてのアナリスト・レポートにおいて明確に記載される必要がある。

(5) 投資家はレーティングの変化には強い関心を示しており、実際にレーティングの変化により、マーケット・インパクトを生じることが多い。それだけに、レーティングの変化についての情報伝達には公平性の観点から細心の注意が必要である。これには証券会社における社内体制の整備も必要であるが、個々の証券アナリスト自身も顧客間の不公平を生じないよう十分な注意が必要である。

(注1) 会員は、株価レーティングを付すに当たって、またその伝達について以下の証券アナリスト職業行為基準の規定を十分に念頭に置かなければならない。

基準3 (1)イ(イ) 「会員は、…投資推奨を…行う場合には、…綿密な調査・分析に基づく合理的かつ十分な根拠をもつこと」

基準8 (1) 「会員は、証券分析業務を行う場合には、すべての顧客を公平に取り扱うようにしなければならない。」

基準8 (3) 「会員は、証券分析業務を行う場合には、証券の発行者等との関係において、独立性と客観性を保持するよう注意し、公正な判断を下さなければならない。

(注2) 日本証券業協会理事会決議は、株価レーティングを含むアナリスト・レポートの重要情報の管理について要旨以下のように規定している。

7. (1)会員は、次に掲げる情報(以下「重要情報」という。)について、適正な管理の徹底に努めなければならない。
a 略
b 発表前のアナリスト・レポートの内容等であって投資者の投資判断に重大な影響を及ぼすと考えられるもの
(2)略

8. (1)会員は、会員の行う自己取引について、重要情報を利用して取引が行われることのないよう適正な管理の徹底に努めなければならない。また、会員は、自社の役職員が、重要情報を利用して、一部の顧客への勧誘等を行うことのないよう指導・監督しなければならない。
(2)会員は、発表直後のアナリスト・レポートの内容を利用して行う会員の自己取引について、会員の自己の利益が顧客の利益に優先することのないよう努めなければならない。

本ペーパーで言及している日本証券業協会理事会決議「アナリスト・レポートの取扱い等について」は、同協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則」に改正されています。また、言及している条文の内容や項目が、改正等により変更になっていることもあります。留意してください。

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