米国における証券アナリストの利益相反問題-NASDおよびNYSEの規則改正(2003年7月)-

上述のように、SECは、2002年10月初旬、アナリストの利益相反に関するNASD/NYSE規則(2002 年5月承認)を更に強化する改正案の要旨を発表した。改正案は、同時期に始まった規制当局と証券大手10社間の包括的和解を目指した協議の進展とその最終内容(2003年4月28日成立)、また、パブリック・コメントを踏まえて、所要の修正の上、2003年7月29日にSECにより承認された。NASD/NYSEの規則改正の概要は、次のとおりである。

  • アナリストの報酬の投資銀行業務からの分離強化
    社内にアナリストの報酬をレビュー、承認する報酬委員会を設置し、レビューにおいては、 リサーチ・レポートの質などのアナリスト個人の実績、アナリストの投資推奨と株価との相関関係、投資銀行部門担当者を除く社内外の関係者による全般的評価(overall ratings)等を考慮すること。報酬委員会は、証券会社の取締役会に報告義務を負い、投資銀行部門の代表者を委員会のメンバーとすることはできない。また、報酬委員会は、アナリスト報酬のレビューおよび承認において、投資銀行部門全体に対するアナリストの貢献を考慮することはできない。
  • ロックアップ期間終了日前後のリサーチ・レポート発行およびパブリック・アピアランスの禁止
    証券発行の主幹事、副幹事となっている証券会社は、ロックアップ期間(発行後の価格急落を防ぐこと等を目的として、証券会社、発行会社、既存株主との間であらかじめ締結するロックアップ条項により、発行会社および既存株主が保有証券売却を禁止される、証券発行後の一定期間)の終了日前後の15日間、当該発行会社に関するリサーチ・レポート(買い推奨を行ういわゆる“booster shot”research report)の発行およびパブリック・アピアランスにおける投資推奨等を禁止される。
  • 休止期間(quiet period)適用対象の拡大
    証券発行の主幹事、副幹事となっている証券会社は、IPOについては募集開始日から40日間、また、セカンダリー・オファーについては募集開始日から10日間、当該発行会社に関するリサーチ・レポートの発行を禁止されているが、このいわゆる「休止期間(quiet period)」の適用を主幹事・副幹事会社によるリサーチ・レポートの発行のみならず、パブリック・アピアランスにまで拡大すること。すなわち、上記の所定期間、パブリック・アピアランスも禁止される。
    また、IPOについて引き受けまたはディーリング業務を行う証券会社(主幹事・副幹事以外)に対しても、新たに、25日間の「休止期間」(当該発行会社に関するリサーチ・レポートの発行およびパブリック・アピアランスの禁止期間)が適用される。
  • 投資銀行業務の顧客獲得のためのピッチへのアナリストの参加禁止
    アナリストは、投資銀行業務の顧客獲得のためのピッチに参加すること、および投資銀行業務の獲得を目的として、発行会社とその他のコミュニケーションを行うことを禁止される。これにより、リサーチと投資銀行部門との分離が更に強化されるとしている。
  • リサーチ終了の開示
    証券会社は、発行会社をリサーチの対象から外すこととした場合には、最終レポートを発行して、当該発行会社のリサーチを終了する旨を顧客に通知しなければならない。最終レポートには、原則として、最終の投資推奨またはレーティングを含んでいなければならない。
  • リサーチ・レポート発行前のレビューおよび承認の禁止対象者の拡大
    既に投資銀行部門スタッフは、リサーチ・レポートの発行前に、レポートのレビューおよび承認を行うことを禁止されているが、投資銀行部門スタッフに加えて、リサーチについて直接責任を負わないその他の証券会社スタッフ(法務またはコンプライアンスのスタッフを除く)も同様の行為を禁止される。リサーチ・レポートの内容について、レポート発行前に、リサーチ部門と投資銀行部門を含む非リサーチ部門(non-research personnel)との間でコミュニケーションを行う場合には、法務またはコンプライアンスのスタッフが仲介することが求められる。
  • 投資銀行部門のアナリストに対する不当圧力行使の禁止
    投資銀行部門は、投資銀行業務の既存・見込み顧客に悪影響を及ぼすと思われるリサーチ・レポートの発行またはパブリック・アピアランスを行うアナリストに対して、直接、間接的に不当な圧力を掛けることを禁止される。
  • 発行会社からの報酬に関する開示の強化
    既に証券会社は、証券会社自体、その関係者(affiliate)、またはアナリストが、リサーチの対象である発行会社から投資銀行業務に関して報酬を得ている場合には、その旨をリサーチ・レポートにおいて開示することが義務付けられているが、新たに、投資銀行業務以外の業務について発行会社から(過去12カ月間に)報酬を得ている場合もリサーチ・レポートにおける開示の対象とする。さらに、これらの報酬に関する開示を、パブリック・アピアランスにも適用することとする。
  • 発行会社との関係に関する開示の強化
    証券会社は、リサーチ対象の発行会社が、現在または過去12カ月間に、証券会社の顧客であるかどうかについて、また、顧客である場合には、発行会社に対し提供している業務の種類(a.投資銀行業務、b.投資銀行業務以外の証券関連業務、またはc.証券以外の業務)について、 リサーチ・レポートで開示することが新たに義務付けられる。
  • 法務・コンプライアンスのスタッフによるアナリスト監督者の個人的取引の事前承認
    リサーチの対象となっている発行会社のエクイティ証券について、アナリストを監督する者(リサーチ・ディレクター、スーパーバイザリー・アナリスト等、アナリストのレポート作成に直接影響を及ぼす立場にある者)が個人的取引を行う場合には、法務・コンプライアンスのスタッフによる事前承認を得ることが、新たに義務付けられる。
  • リサーチ・アナリストの登録、資格、継続教育
    リサーチ・レポートの作成に主たる責任を有するリサーチ・アナリスト(もしくはレポートに名前が掲載されるアナリスト)は、NYSE/NASDにリサーチ・アナリストとして登録することが新たに義務付けられる。登録が受理されるためには、NYSE/NASDが指定するリサーチ・アナリストの資格試験に合格しなければならない。さらに、登録されているアナリストは、関連規則およびレギュレーション、倫理、およびプロフェッショナルとしての責任等に関する継続教育を受けることが義務付けられる。

(なお、NYSEでは、「スーパーバイザリー・アナリスト」<リサーチ・レポートの承認を行う責任者>の資格試験・承認制度が以前から存在しているが、今回「スーパーバイザリー・アナリスト」については承認制から登録制に変更され、さらに、「リサーチ・アナリスト」の資格試験・登録制度が新たに導入された。)

【本稿は、『証券アナリストジャーナル』2002年5月、6月、10月、11月、12月の各号、および2003年1月、5月、6月、10月の各号の「職業倫理を巡って」欄に掲載された記事を再編して収録したものである。】

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