はじめに-職業行為基準の意義(5)

規律委員会委員長  蔵元 康雄

4.証券アナリストへの期待

わが国においては、近年「貯蓄から投資へ」のスローガンの下に、資本市場を拡大し、その機能を充実するための努力が行われてきた。2007年9月から施行された金融商品取引法は、投資者保護のためのルールの徹底、利用者利便の向上、金融資本市場の国際化への対応、市場機能の向上等を目的としており、わが国資本市場の一層の発展を後押しすることになると思われる。このような中で、資本市場が十分に機能するために不可欠の存在である証券アナリストという職業は、これまで以上に重要性を増していくことになろう。

証券アナリストは投資家のために投資情報の提供、投資推奨あるいは投資管理を行っているが、これらの業務が適切に行われるかどうかは大きくは今後の日本経済、そして国民の生活にも少なからぬ影響を与える。日本経済にとっての中長期の大きな課題は、経済の活力を維持しつつ、高齢化社会を支えていくことである。このためには、21世紀を担う産業を見極め、そこに資金が適切に供給されるようにしなければならない。他方では、年金資金等高齢者の生活を支える資金の運用が適切に行われなければならない。証券アナリストは資本の流れに影響を与えることによりその両方にかかわっているわけである。

この観点から以下のようなことも大切であると考える。すなわち 昨今、公開企業の情報開示の重要性が一般に広く認識され、法令や証券取引所が要求する開示情報の量は急増しているが、その中で米国流の四半期業績の開示は、企業活動の直近の状況を迅速に開示するという点では評価できるが、証券アナリストの企業分析と評価がこれら短期の開示情報に振り回される弊害も見られるようになった。投資家の中には、一方ではこのような企業のごく短期間の変化に注目して投資する者もいるが、他方では企業の収益の成長力をやや長期で評価し投資を行いたいという投資家も少なくない。この観点からすれば、企業の投資価値をより深く掘り下げて分析し、対象企業の発展力、収益力をやや中・長期的に分析するスタンスも極めて重要と考えられる。 公開企業の側には自社の経営力、発展力をやや長い目で客観的に評価して欲しいという強い要望があり、投資家の側にはそのような企業に中・長期的に投資して成長の果実を家計の資産運用に取り込みたいというニーズがある。証券アナリストの分析・評価もこの両者の事情を十分考慮することが求められるのではないか? 数多くの成長力旺盛な企業が証券アナリストによって評価され、そのような企業に対して膨大な家計貯蓄の一部が機関投資家を経由して、あるいは直接に投資され有効活用されることで、日本経済の活性化に寄与するものと考える。

証券アナリストの社会的地位が高まり、その役割が重要になるということは、一方で証券アナリストに社会が期待し、要求するものもより大きくなり、社会的責任がより重くなることを意味する。証券アナリストは、これまで以上に専門的知識・能力を磨き、同時に、より高度の職業倫理を実践し、信頼を高めていくことが求められる。このような方向に向かって当協会の会員が努力を積み重ねていくことは、証券アナリストという職業のさらなる発展につながると同時に、セルサイド、バイサイドともに証券アナリストという職業が、20年~30年にわたり継続して行うに相応しい専門職として社会から高く評価され、社会的信用および報酬の両面からも魅力ある職種として確立されることを意味しよう。

2007年9月

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