はじめに-職業行為基準の意義(2)

規律委員会委員長  山本 高稔

2.証券アナリストの信任義務と職業行為基準

証券アナリスト教育および試験制度において、職業倫理・行為基準は、証券分析とポートフォリオ・マネジメント、財務分析、コーポレート・ファイナンス、市場と経済の分析、数量分析と確率・統計と並ぶ学習分野の一つであるが、2021年度より証券アナリスト第1次レベル講座の学習分野に加えられるのを機に、職業倫理・行為基準の第1次レベル講座のテキストが発刊された、それに伴い、「証券アナリスト職業行為基準」(以下「職業行為基準」)に加えて、これらの基準の解説と事例集から構成されている本書は第2次レベル講座のテキストと位置づけられる。職業行為基準は1987年に制定され、その後、数回にわたって改訂が行われている。職業倫理・行為基準は、1994年の通信教育講座から第2次レベルの試験科目に加えられており、1995年の第2次試験から出題されている。

このように、証券アナリスト教育および試験制度において、職業倫理の問題が重視されているのは、証券投資プロセスにおける証券アナリスト業務の重要性が背景にある。証券アナリストの発信する情報は、顧客が証券投資を行う際に、極めて重要な役割を果たしている。顧客は、証券アナリストの持っている知識や情報に裏付けられた高度な分析能力を信頼しており、証券アナリストの発信する情報は顧客の意思決定に対して大きな影響を及ぼすこととなる。

このような関係は、「信任関係」と呼ばれ、医師と患者、弁護士と依頼人などの間にも同様の関係が存在する。このとき、専門的知識を持っている側には「信任義務(fiduciary duty)」が発生し、顧客に対して忠実に行動する「忠実義務」と、専門家として注意深く行動する「注意義務」が課せられる。信任義務の具体的内容は職業によって大きく異なるため、各関連団体で、具体的な行為基準の内容を定めている。本職業行為基準は、証券アナリストが顧客との間の信任義務をどのように果たすべきかを具体的に示したものと位置づけることができる。

職業行為基準には、法令が規定するものも含まれているが、法令に規定のない基準や法令上の義務を強化した基準も含まれている。すなわち、職業行為基準は法令よりも広範囲かつ高度の義務を規定したものと位置づけることができる。この点は、職業行為基準の中核的な義務である信任義務が、契約関係を超えて「自発的に顧客のために最善を尽す」という職業上のモラルを反映していることにも表れている。

なお、金融庁では、2017年3月に「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、資金保有者と資産運用先を結びつける「インベストメント・チェーン」を構成する販売、助言、商品開発、資産管理運用等の業務において、顧客の最善の利益のために行動することを求めている。

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