はじめに-職業行為基準の意義(4)

規律委員会委員長  山本 高稔

4.最近の動向と日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)(脚注5)への期待

前述したように、日本企業および日本経済の安定的かつ持続的な成長のためには、インベストメント・チェーンの中で活動するすべてのプロフェショナルが、それぞれの持ち場で最善の努力を行うことが不可欠である。その意味では、資金の最終需要者である企業や政府など証券の発行体から情報を集め、発行体の状況や中長期的観点を含めた証券の本源的価値を分析し、その内容を資金の根源的な提供者である投資家に対して分かりやすく発信する証券アナリストの役割は非常に大きい。

証券アナリストへの役割と期待を議論するときに、近年の技術革新の進展とそのインパクトは避けては通れないだろう。つまり、AI やビッグデータを駆使することにより調査、分析、評価の自動化、標準化がさらに進み、証券アナリストがこれまで行ってきた業務が代替されていくことも想定される。セクターや個別銘柄の選別、選好度がパフォーマンスの鍵を握る運用の世界が急速に進展しているものとみられる。また、サステナビリティ情報開示の制度化を含む非財務情報の急増に伴い、テキストマイニング等の活用も不可避になってきている。証券アナリスト業務において、こうした技術革新による分析・評価の効率化、高度化を、同次元の競争相手と見るのではなく、最大限に活用することで、独自性を持った、差別化された投資価値分析につなげられ、株式市場機能の更なる活性化に貢献することができよう。

証券アナリストは、日本経済や証券市場、個別の業界や企業について深い知見を有し、それぞれの分野において中長期的な発展のためには何が必要かを熟知していると考えられる。そのため、証券アナリストには、短期的な収益予想等のみならず、中長期的観点から証券市場や日本企業の価値向上を促すうえで有益な情報を提供することが社会的に求められている。このように、証券アナリストの発信する情報に対する社会的な期待や要請が高まる中、証券アナリストに対して、それぞれの顧客への信任義務を十分に果たすよう、高いレベルでの規律が求められている。職業行為基準は、証券アナリストがこのような規律ある業務遂行を行うための最低限の指針と位置づけることができる。

企業の情報については、企業から証券アナリストへの提供と、証券アナリストから顧客への提供という2方向の情報提供が対象となるが、アナリストが証券の発行体から入手した未公開の法人関係情報を特定の投資家のみに選択的に伝達した行為に関して、アナリストの所属する証券会社に対して金融庁による行政処分が行われる事案が2015年から2016年にかけて2件発覚した。

新たな時代におけるアナリストは、中長期的な視点に基づいた企業価値の評価にとどまらず、企業と投資家の建設的な対話の架け橋となって企業価値向上に貢献するなど、より広範な分野において重要な役割を果たすことが期待されている。こうした期待に応えるため、アナリストは、高度な専門知識や分析技術などを有するとともに、自ら高い倫理観を持つことが求められるが、2019年3月および2024年3月に職業行為基準に反する事案(前述3.参照)について、それぞれ関与した会員(CMA)に対して懲戒処分を行ったところである。法令諸規則の遵守は勿論、プリンシプルをベースに、社会から求められる倫理に沿った良識に基づいて行動することが重要となっている。

本原稿を書いている最中の2024年8月5日には、円キャリー取引の巻き戻しなどから、7月11日に過去最高値の42,000円台をつけたばかりの日経平均株価が過去最大の下げ幅を記録するなどし、改めて国際金融資本市場のダイナミズムを痛感させられた。近年の地政学的なグローバルバランスの変化、物のスローバリゼーションと無形資産・サービスのグローバリゼーションの同時進行、先進国を含め世界的に膨張する債務問題の影響など、世界情勢は複雑に絡み合い、また刻々と変化しており、国際金融資本市場の動向からますます目が離せなくなっている。

日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)はもとより、CMAを目指す受講者は、このようなグローバルで起きているダイナミズムを肌で感じながら、経済、地政学、産業、技術などの最新動向にも留意しつつ、多面的に分析・評価を行うことの重要性を再確認し、職業行為基準などに十分配意して、インベストメント・チェーンの中で十分に貢献できるような証券アナリストを目指していただきたいと切にお願いする。

2024年10月

(脚注5) 公益社団法人日本証券アナリスト協会の定める試験に合格し、かつ所定の実務経験を有し、本協会に入会した者が、使用を認められる資格称号(英文略称CMA、詳細は付属資料7参照)。

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