米国のミューチュアル・ファンドにおける 不正取引等を巡る問題-当局の対応-

SECは不正取引などの個別の事件の立件に努める一方で、今後このような問題が発生することを防止するためのルールの検討を進めた。2003年12月3日、その第一弾として時間外取引、短期取引等に関する以下のような新しいルール案が公表され、パブリック・コメントに付された。

  1. ミューチュアル・ファンドの売買の注文は、午後4時までにミューチュアル・ファンド自体に行われなければならないとすること
    …これは前述のように、証券会社などファンドの販売会社に4時までに注文があれば、ファンドには4時以降に伝達されても受け付けられていたことが、時間外取引が紛れ込むことを許容する要因になっていたことを考慮したものである。
  2. ファンドおよび投資顧問会社がコンプライアンスについての方針・手続きを定めそれを毎年レビューすることを義務付けるとともに、ファンドは、ファンドの取締役会に報告する主席コンプライアンス・オフィサーを任命すること
  3. 短期取引に関する対処方針などにつき開示を強化すること

さらに、SECは第二弾として、2004年1月14日に以下のようなファンドのガバナンスを改善することを狙いとするルールを提案した。

  1. ミューチュアル・ファンドの取締役会の独立性の強化を図るため、役員の75%以上が投資顧問会社から独立した者でなければならず、役員会の会長(chairman)も独立した者でなければならないとすること
    …これは、ファンドの取締役会は、手数料の水準を含む投資顧問契約の条件を交渉し、かつ投資顧問会社の活動を監視するといった重要な権限を有しているにもかかわらず、実際は投資顧問会社が影響力を有する者によって運営され、その隠れみのになっているとの批判に対応するものである。
  2. 投資顧問会社は、信任義務、連邦の証券関係法の順守義務、顧客のポートフォリオの内容についての守秘義務などを内容とする倫理綱領を制定し、役職員にそれを実践させることを義務付けること
    …顧客のポートフォリオに関する守秘義務が要請されているのは、ファンドに組み込んだ証券についての情報が漏えいされ、それに基づき時間外取引や短期取引が行われた例が多々見られたためである。

手数料問題に関して、ニューヨーク州のスピッツアー司法長官は、短期取引で立件した個別の案件処理のための和解において、手数料の水準の引き下げを盛り込みたいとして交渉を進め、州司法当局とアライアンス・キャピタル・マネッジメント社との和解で、これを盛り込んだ。しかし、SECは民事ないし刑事の訴追において、法律違反行為とは関係のない手数料の水準につき当局が介入することは適当でないとの態度を示してきた。2月11日に至り、SECは手数料問題についての対応を含め、新たに要旨以下のようなルールを提案してパブリックコメントを求めた。

  1. ファンドは、投資家に対する報告書において、報告期間中において投資家が負担することとなる費用を、当該期間における経費の実績に基づき、投資額1,000ドル当たりの絶対額を表示するなどの方法で開示すること
  2. ファンドは、4半期ごとに保有ポートフォリオの一覧表をSECに登録することとする。登録された内容はSECの情報システムであるEDGARにより、公衆が利用できるようにすること
  3. ファンドは、その取締役会が投資顧問契約を承認した理由を、判断の重要な要素となった事項およびそれに関する結論などを示して開示すること
    …これは、取締役会が投資顧問契約の締結につきより慎重な判断を行い、また投資家が投資顧問会社の提供するサービスの価値とコストを考慮できるようにするとの意図に基づくものである。
  4. 投資顧問会社が、ファンドの販売促進のため、いわゆる指定委託売買(directed brokerage)を利用して、売買委託手数料の形でインセンティブを支払うことを禁止すること
    …その理由として、SECは、証券会社が顧客にとって最適なファンドを推奨せず、適合性の原則が守られないおそれがあるという点のほか、最良執行を損なう危険がある、販売手数料について定められている上限を回避する手段になる、ポートフォリオの回転数を不必要に増すおそれがあるといった点を挙げている。
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