プライベートバンカー資格
公共社団法人 日本証券アナリスト協会-The Securities Analysts Association of Japan
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目指すは“スーパージェネラリスト”

北山 雅一 氏 CMA

米田 それは北山先生がよく言われる、「全体最適」につながる。今の金融機関では専門家の機能分化が進み、分析能力の高い人はたくさんいるが、統合する能力のある人が少なくなっている。ジェネラリストはいらないと言われるが、むしろプライベートバンカーは金融分野のスーパージェネラリストであるべきだと思っている。
 高い汎用スキルとしてのコミュニケーション能力と複数の専門性を持っていて、顧客のニーズに合わせ商品ごとの専門家をうまく連携させることができる人だ。

北山 ジェネラリストとスーパージェネラリストとは、どう違うのか?

米田 ジェネラリストは入り口しか語れない。スーパージェネラリストは複数の専門性を持っている。例えば私なら、コーポレートファイナンスや個人運用の専門性がある。しかし商品を作る力やバックテストをする技はない。だが結果を見て判断することはできる。自分で作ることはできないが、結果としてのアウトプットについては直感的に考えておかしいと自信を持って言うことができる。タックスプランニングについても基本的な知識から、何と何を組み合わせると、どこに論点があるのか勘所が分かる。そうした専門分野がいくつか重なった総合スキルを持つ人を、スーパージェネラリストと呼びたい。
 

AI(人工知能)には置き換えられない統合力・共感力

大澤 専門性はAIで対応できるので、それを統合できる人間の力が重要ということか。

米田 加えて顧客に行動を起こさせる能力や、共感力をベースとするコミュニケーション能力は汎用スキルとしてとても大切である。

北山 恐らく今やAIなくしてファンドの運用も勝てない状況だ。戦術や分析では、そろそろAIに負ける。ただやはり、この人はどのようなお客さまで、というコミュニケーションを通して把握する部分は、やはりAIにはできないところだ。
 フィンテックの時代に入ると普通の担当者は数年中に機械的に置き換わっていくが、最後に置き換われないのがPB/WMの人たちだ。それがスーパージェネラリストかもしれない。

米田 AIにも特殊AIと汎用AIがあり、今は人間の脳のようなAIではなくて、特定の機能をつかさどる特殊AIの実用化が話題となる段階だ。アルゴリズムが書ける世界では、たとえどんなに複雑なステップでもAIの方が圧倒的に計算能力が高いので、人間はかなわない。あるオックスフォード大学の教授は600~700の職種を取り上げ、確率的にAIに置き換わるリスクを予想している。特にクレジットアナリストや、スコアリングシステムを前提とした与信判断の職種はかなり高い確率でAIに置き換わると思う。
 今私が申し上げているスーパージェネラリスト、特に顧客の心理の問題も含めて顧客の共感を形成し、顧客の主観的リスク許容度を時間をもって向上させ、合理的な投資行動を一貫して継続させることを支援する、いわば資産形成のコーチとして寄り添う、という役割は明らかにAIにはできない世界である。規模でみれば機関投資家にかなり近い水準の資金を動かせるチャンスがあるPBの仕事は、今後金融に携わる人々にとってとても重要な仕事になってくると思う。PB業務に四半世紀の間関わってきたが、ようやく面白い段階が来たという実感を持っている。
 

PBにおける大口案件増加の背景

前原 大口案件が増えている背景は何か?

米田 低金利と、事業自体から利益を上げることが難しくなっていることも要因かと思う。

北山 ミニ・アメリカンドリームがあるかと思う。
 当社は創業26年で上場したが、上場する会社は創業10年以内が多く、比較的若い30~40代の人たちが数百億円の上場株式を保有し、一部売出しをすることで数十億円のキャッシュを手にする。当社が上場した16年は、100社上場した中で、時価総額50億円の当社は下から20%くらいだ。また上場した企業の株式はオーナーだけでなく専務、常務といった役員も持っていれば、一つの上場案件につき、数十億円くらいの現金を手にする人たちが何人か出てくる。

米田 規模は大きくないが、プライベート・エクイティ・ファンドへ自らの事業を売却した結果、20~30億円の現金を一気に手にする人たちも増えている。そのような人たちからは、例えば20億円のうち、5億円程度をプライベート・エクイティで投資するにはどうしたらいいかという質問が寄せられ始めている。

北山 この10年間、IPOもあればM&AやMBOもあり、数十億円の資金を手に入れた企業経営者が結構いて、彼らの現金化した資金を、どのように社会に還元するのかが次のテーマかと思う。

前原 会社設立後10年程度で上場する企業には、業種的に何か特徴があるのか。

北山 最近でいうと、IPOはやはり情報通信系が多い。ただ、M&Aでいうと伝統的な産業が化けることがある。卸売業の方がM&Aで売却して、10~20億円の現金を手にしたりしている。

米田 同感だ。例えば北山社長は経営者だから、自社株全部は現金化できない。しかし、突然北山社長の会社を、例えばNTTデータが買収するようなことは理論的に起こり得る。ITの世界では自社でのイノベーションが難しくなり、大企業が革新的な企業を買収するという米国型のパターンがあって、こうした全体のダイナミズムが新しい富裕層を創出している。しかしその人たちは運用の専門家でもないし、知識と経験のある番頭がついているとも限らない。

北山 ペイパル創業者ピーター・ティールによる『Zero to One』という本がある。小さくても0から1を生み出すべきというフィンテックの旗手のような話だ。ペイパルスタートアップ時のメンバー7~8人が、退社して各人がフィンテックの会社を設立しZero to Oneを実践していく話だ。
 今、Zero to Oneのミニバージョン版現象が日本にはとても多い。IPOをしようと思ったけれどもそれができなくなり、30代前半で大企業に会社を売却して、10~20億円を手にする。
 逆に言うと、大企業にネタがなく、自分で作るより外から買った方が安あがりである。大企業も年間数百億円の税引後利益を獲得するなど現金は豊富にあるが、使い途として自分でリスクを取ると株主からの批判が怖いので、ある程度将来性のある会社を買った方がいいという判断になる。実際NTTデータが51%以上株主になっている会社は結構ある。

米田 公開会社と未公開会社なら、公開会社の方が買いやすい。厳しい上場時の審査をくぐり抜けており、隠れた債務がなく、価格設定についても非常に明確なので、スタンドアローンで当面子会社としてぶら下げることができる。ポストマージャーインテグレーション(PMI)リスクも少ない。私が見ている限りでは、大企業がイノベーションを行う手段として、上場したVB企業を買うケースが今後日本でも増えてくるだろう。

前原 ぶら下げるというのは、いざとなったら売れるということか?

米田 その通り。かつて上場していたなら、売れる会社が多い。それに対して未上場で赤字が出ているベンチャー事業の買収は隠れた問題が心配で、サラリーマン担当者としては買取りに躊躇することになる。
 

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