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PBマガジンとは

スキルアップに役立つ旬の情報を、PB資格者の方へ毎月1回ご紹介しているのが「PBマガジン」です。ここでは「PBマガジン」の中で紹介している「ちょっと気になる話題」という、手軽に読めてビジネストークにも役立つお話を掲載しています。ぜひタイトルをクリックして、ご一読ください。

※「ちょっと気になる話題」の本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です。

2022年 PBマガジン

 金融庁では、2019年の国税庁による法人税基本通達の改正に基づき、「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部を改正し、法人向け保険商品で保険本来の趣旨を逸脱した節税(課税の繰り延べ)を訴求した商品開発や募集活動を防止するよう注意喚起してきました。しかし、その後も法人から個人への名義変更による節税を目的とした名義変更プランの販売を推進していたとして、7月14日に当該保険会社に対し初の業務改善命令を発出しました。
 名義変更プランとは、低解約返戻金型定期保険等を活用し、法人から個人(役員等)に名義変更(資産移転)を行うことで、法人と個人の税負担の軽減が可能となる点に着目して、保険期間当初の低解約返戻期間中に法人から個人に名義変更を行い、当該期間経過後に解約返戻金が高くなってから解約することを前提とした保険商品です。法人の支払った保険料が損金算入されることや名義変更を行った時点での低い解約返戻金を評価額とする基本ルール、その後に個人が高額な解約返戻金を得た際の所得が、給与や賞与とは異なって一時所得となり税率が低く抑えられことを悪用したものと言えるでしょう。
 こうした生命保険等を使った名義変更による節税については、国税庁が昨年6月の所得税基本通達の一部改正でその穴を塞いだところですが、当該保険会社では、その後も年金保険を用いて再び法人向けに節税を謳った販売を行っており、今回悪質と判断された模様です。
 いわば金融庁・国税庁と保険会社との間で”いたちごっこ”が繰り広げられていましたが、今回の業務改善命令に合わせて、金融庁では、節税を目的とした保険への対応について国税庁とさらに連携を強化し、事前の商品審査段階および販売開始後のモニタリング段階の両面で情報共有するとしています。さらに広く一般にも、節税目的で販売されている保険商品や保険会社・保険代理店での保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動についての情報提供を呼び掛けています。
 法人保険の本来の趣旨は、役員の死亡などへの備えであったはずです。そして、生命保険協会のホームページにあるように、生命保険は大勢の保険契約者が保険料を負担し、それを財源として、誰かが死亡したときや病気になったときに、保険金や給付金を受け取ることができる「助け合い」「相互扶助」の仕組みによって成り立っています。ともすれば忘れられがちなこの保険の基本原則ですが、2021年度から順次始まった新学習指導要領では、中学校の社会科、高校の公民科、家庭科で民間の保険や保険会社が明示的に取り上げられるようになりました。こうした金融リテラシー教育等を通じて、保険本来の趣旨が広く理解されることが望まれます。一部の者が、保険を悪用して不当な利得を得ようとすることは、許されないでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
金融庁 「マニュライフ生命保険会社に対する行政処分について」2022年7月14日
 同  「節税(租税回避)を主たる目的として販売される保険商品への対応における
     国税庁との更なる連携強化について」2022年7月14日
マニュライフ生命News Release
    「マニュライフ生命に対する行政処分について」2022年7月14日

生命保険協会 「生命保険の基礎知識」

文部科学省 「平成29・30・31改訂学習指導要領」

 5月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合)は、4月に続き前年比+2.1%と2015年3月以来の高い伸びとなりました。ロシアのウクライナ侵攻長期化に伴う国際的な資源価格の上昇に加え為替円安も続いているため、日本銀行の今年度の消費者物価見通しも1月時点の+1.1%から4月時点で+1.9%と上方修正されています。
 東京大学渡辺努教授によれば、バブル崩壊後つい最近までデフレ状態が続いてきたのは、日本企業に価格据え置き慣行があったためだとされます。しかし、ここにきて輸入価格の高騰を受けて、さすがにコスト転嫁のために価格を引き上げざるを得なくなっており、生産財のみならず生活必需品も含め値上げが広がっています。このように広範な価格上昇は、バブル崩壊後初めてとみられます。これをもって価格据え置き慣行が解消されたと断言はできないまでも、かなり薄れたと言えるでしょう。
 国民の物価に対する見方も変化しています。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、1年後の物価について「かなり上がる」との回答割合が、21/9月8.4%→21/12月13.4%→22/3月20.4%と期を追うごとに高まっています。また、前出の渡辺教授による「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査(2022年5月実施分)」をみても、日本の家計のインフレ予想は前回調査(21年8月)では米国・欧州諸国と比べて低かったが、今回は欧米と遜色ない水準まで上昇しています。これらの調査結果からみると、企業、家計とも期待インフレ率は確実に引き上がっていると思います。
 現下の問題は、これまで政府・日銀が目指しながら実現できなかった、物価上昇→賃金上昇→個人消費増加→景気回復といった好循環につながるかです。現時点では、まだ賃金の上昇までを予想する見方は少なく、どちらかと言えば悪い円安によるスタグフレーション(景気停滞下での物価高)を懸念する声の方が大きいようにみえます。
 ただ、企業収益を財務省「法人企業統計季報」で確認すると、20年第2四半期を直近ボトムに22年第1四半期にかけて増益基調にあります。本年3月までは、物価が落ち着いていたこともあって、今次春闘での賃上げ率は2.09%にとどまりましたが、その後の情勢変化を背景に経団連調査の今夏のボーナスは前年比+13.81%と1981年以降で最大の伸びとなっています。これを一つの契機に賃金上昇が中小企業も含め広がるかが、今後の景気動向を見るうえでのポイントとなるでしょう。
 世間の関心は、物価対策として一過性の対症療法に向きがちですが、経済の循環を考えると、中小企業でもコスト転嫁が進むような環境が整い時給やボーナスのアップにつながる道筋をつけていくことが肝要だと思います。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
日本銀行 「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」2022年4月28日
 同   「生活意識に関するアンケート調査」(第89回<2022年3月調査>の結果)
      2022年4月7日

渡辺努  「物価とは何か」 2022年1月11日  講談社選書メチエ
 同   「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査」(2022年5月実施分)の結果

週刊ダイヤモンド 「特集 ニッポンの「国力」低下危機 円安の善と悪」
          2022年5月21日号

財務省 「法人企業統計調査(令和4年1~3月期)の結果」2022年6月1日

経団連 「2022年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況」2022年6月21日

 路線価などに基づいて算定した相続マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして、国税当局が再評価して追徴課税したことに対して、それを不服とする相続人による上告を最高裁が棄却しました(令和4年4月19日第三小法廷)。これまでも社会的に問題視されてきたマンション節税についての最高裁判決ですので、判決文を読んでみました。
 まず、事案の経緯を時系列でみると、
1.2009年1月、被相続人は信託銀行から6億3千万円借り入れた上で、甲不動産を 8億37百万円で購入。
2.さらに同年12月、被相続人は共同相続人の1名から47百万円、信託銀行から3億78百万円借入れた上で、乙不動産を5億5千万円で購入。
3.被相続人及び上告人は、上記1、2を近い将来に予想される相続において、相続税の負担を減免させるものであることを期待して実行。そして被相続人は2012年6月に94歳で死亡。
4.2013年3月、上告人は財産評価基本通達に基づき甲乙不動産の価額を約3億3千万円とし債務等を控除すると相続税0円と申告。
5.2016年4月、国税当局は不動産鑑定士による鑑定評価額が約12億7千万円であるとして、相続税を約2億4千万円と決定。これを不服として訴訟となった。
6.2022年4月、上告棄却。

 相続財産の評価は、財産評価基本通達に基づき原則として土地は路線価、家屋は固定資産税評価額によりますが、同基本通達総則6項に、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とあり、本件はこれに基づき不動産鑑定士によって時価評価されました。
 判決では、「評価通達に定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、(総則6項による評価に<編集子が挿入>)合理的な理由があると認められる」とし、「被相続人及び上告人らは、・・・あえて本件購入・借入れを企画して実行・・・租税負担の軽減をも意図してこれを行った・・・そうすると…本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人等との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」とされました。
 なお、いわゆるタワマン節税については、2017年度の税制改正により低層階の住戸に比べて高層階の住戸の敷地権(土地)の評価を高く補正することとなりましたが、区分所有する建物の価額には変更はありませんでした。
 今後は、マンション購入等によって意図した過度な節税対策は安易には行えないと考えるべきでしょう。ただ、今回の判決でも総則6項適用の合理的な理由について具体的な基準は示されていないことから、今後も不動産を利用した節税を巡る税制の行方や裁判には目が離せないでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
裁判所 最高裁判所判例集
 令和2年(行ヒ)第283号 相続税更生処分等取消請求事件
 令和4年4月19日 第三小法廷判決
 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91105

週刊エコノミスト 2022年5月24日号
山崎信義 相続税の不動産評価 国税が過度な節税に❝待った❞ 
     最高裁追認も線引きは不明確

 今年に入り、オミクロン株によるコロナ感染者の急増やロシアのウクライナ侵攻に目を奪われていますが、岸田内閣が所得と分配の好循環を掲げる中、この季節、2022年の春闘の結果が明らかになりつつあります。
 連合が4月12日時点で集計した2,737組合の加重平均の賃上げ率は+2.11%、このうち300人未満の中小1,790組合の平均でも+2.06%と、いずれも2019年以来3年ぶりの2%超えとなりました。連合では、先行組合の賃上げの流れを中堅・中小組合がしっかり引き継いだ成果だと受け止めています。また、有期・短時間・契約等労働者も、一般組合員を上回る+2.34%となったとしています。その後も、新聞報道によれば、金融界については3%以上になるとの観測も出ています。
 政府は、昨年11月の第3回「新しい資本主義実現会議」で、看護・介護・保育・幼児教育などの分野で+3%の給与引き上げを表明し、令和4年度税制改正の賃上げ促進税制でも後押ししています。しかしながら、全体としては岸田首相が期待した新しい資本主義にふさわしい3%を超える賃上げには及ばないとみられます。過去をみても安倍政権では2014年以降春闘で賃上げを要請してきましたが、3%に届くことはありませんでした。
 その一方で、今春から資源、穀物等の国際商品価格の上昇に円安進行も加わり、消費財の値上がりが続いています。このため、前年を上回る賃上げが実施されても、物価上昇で相殺されて実質賃金が2%上昇することは期待できないとみられます。既にコロナ対策で財政赤字が拡大しているほか、超金融緩和も長期化しており、所得と分配の好循環をオーソドックスな財政金融政策で実現していくことは難しいでしょう。
 政府では、4月12日に第5回「新しい資本主義実現会議」を開催し、「コロナ後に向けた経済システムの再構築」を議論し、イノベーションの担い手であるスタートアップの育成のため、個人金融資産やGPIF等の長期運用資金の循環、個人保証や不動産担保によらない成長資金調達、IPO(新規株式公開)プロセスの見直しなどを挙げています。6月には、実行計画をまとめるとしていますので、今後、具体的にどのような施策が打ち出されてくるのか注目していきたいと思います。

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(参考)
連合 Press Release(2022年4月14日)
  中小組合が多く回答を引き出し「賃上げの流れ」を堅持
     ~2022春季生活闘争 第4回回答集計結果について

日本経済新聞 朝刊(2022年4月21日)
  三菱UFJ3.5%超賃上げ

内閣官房 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/index.html
  第3回「新しい資本主義実現会議」(2021年11月26日)
  第5回「新しい資本主義実現会議」(2022年4月12日)

 これまで事業承継、相続対策では、現経営者の意思能力がしっかりしていることを暗黙の前提としてきたように思います。しかし、65歳以上の認知症高齢者は、2012年の約7人に1人から2025年には約5人に1人になるとの推計もありますので、今は元気な経営者でも年齢が高くなるにしたがって、体力とともに意思能力も低下していくリスクは増大していくと考えられます。
 2020年の民法改正では、第3条の2に「意思能力」について新設され、「法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と明文化されました。これまでも判例では、そのように認められてきましたので実務には影響ないと言われます。しかし、企業オーナーの場合、意思能力を欠くと、自社株の議決権行使ができず、取締役の選任・解任、定款変更、事業譲渡などが実行できなくなります。不動産オーナーの場合は、所有する賃貸不動産について契約、修繕、建て替え、延滞家賃の督促、明け渡し請求などが行えません。
 また、認知症になると、本人確認ができなくなり、預金の引き出しなど銀行取引が難しくなることは知られていますが、さらに本年1月から実質的支配者リスト制度が創設され運用が開始されました。これは、株式会社等がマネーロンダリング等による法人の悪用を防止する観点から、その法人の議決権を保有する実質的支配者のリストを商業登記所(法務局)に登録する制度です。そして金融機関等にそのリストの写しを提出することになります。株主名簿上では、大株主であっても「当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合」は実質的支配者とはなりません。つまりオーナーが認知症になった場合は、銀行等との取引が原則としてできなくなります。
 経営者の中には、事業承継や相続の話をすると、未だに「俺を殺す気か」と反発する方もおられるようです。また、それなりに理解があっても遺言まで作成する方は少ないようです。ましてや自分が生存中にもかかわらず、認知症などで意思能力を失うことを想像することには抵抗感が強いと思われます。
 しかし、事業の存続が最優先課題であれば、オーナーの認知症リスクも避けては通れません。認知症対策として思いつくのは、成年後見制度ですが、これは認知症となった本人の財産を守ることしかできませんので、オーナーへの対策としては不十分です。そこで対策の一つとして、民事信託を利用する方法が挙げられます。信託によって、財産権と議決権を分けて、オーナーは受益者として財産権を持って配当を受領し、受託者である後継者に議決権を与えることが基本となります。ただ、その議決権の行使についてオーナーの指図権というオプションを付けることもできます。オーナーの意思能力がある間は、指図権を行使しますが、認知症になれば指図はできず、受託者である後継者が議決権を行使することになります。こうした民事信託については、まだ広く普及するには至っていませんが、今後、事業承継や相続の際の選択肢になるものと思われます。

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(参考)
内閣府 平成29年度版 高齢社会白書 19ページ
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/index.html

法務省 民法改正に関する説明資料 34ページ
https://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf

全国銀行協会 金融取引等の代理等に関する考え方
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news330218.pdf

法務省 実質的支配者リストの創設
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html

当協会 第21回PBスクール
 セッション1 事業承継対策と民事信託のかかわり方
        成田一正講師
 セッション2 認知症対策を切り口としたロイヤルカスタマーへのアプローチ 
        杉谷範子講師
https://www.saa.or.jp/pb/seminar/capacity/index.html

 中小企業の事業承継は、同族内での後継者難からM&Aの比率が高まっています。しかし、M&Aは手段であってその後の事業の成長につなげることこそが重要です。そのためには、M&A実施前の経営状況や経営課題等の現状把握(見える化)、経営改善等(磨き上げ)はもとより、M&A実施後の経営統合(PMI:Post Merger Integration)がしっかりと実現されなくてなりません。
 中小企業庁では、第三者承継に対象を絞った「事業引継ぎガイドブック」(2015年)を改訂した「中小M&Aガイドライン」(2020年)によって、それまでM&Aに抵抗感のあった後継者不在の中小企業経営者が安心してM&Aに取り組めるように後押しをしてきました。これらの施策もあって、M&Aの件数は増加しています。しかし、中小企業経営者やM&A支援機関においてはM&A契約締結自体がゴールとなってしまい、その後のフォローが不十分と言われています。こうしたことからM&A実施後の満足度をみると、期待を下回っているとの回答が24%にもなっています(中小企業白書2018年)。そして、M&Aの実施に際して、譲受側には、期待するシナジー効果の発現や円滑に組織融合できるかの心配がある一方、譲渡側には、M&A後の従業員の雇用、事業の将来性、取引先との関係維持を重視する声が多いことが分かりました(中小企業白書2021年)。
 こうしたことから、中小企業庁では、事業承継ガイドライン改訂検討会の下に、中小PMIガイドライン(仮称)策定小委員会を設置して、昨年10月から検討を進めています。小委員会はこれまで4回開催され、本年2月にはガイドラインの大枠が示されています。その構成は、序章に続く第1章総論では、なぜPMIが必要なのか、PMIの基本的な考え方、中小PMIの全体像、第2章各論では、体制、基礎編、発展編と整理されています。具体的な内容は、3月に開催予定の第5回小委員会での最終レビューと、その後の事業承継ガイドライン改訂検討会での最終確認を経て、事業承継ガイドラインの改訂と併せて公表される運びです。
 なお、これまでの小委員会で議論された資料は公表されており、アンケートや事例などが掲載されていますので、関心のある方には参考になると思います。また、PMIプロセスでの外部支援機関の役割イメージが提示されていますので(第4回)、皆さまがどのように関われるかを考える際に役立つでしょう。さらに、こうした外部の専門家をコーディネートする役割を果たす者も必要になってくると考えられます。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
中小企業庁 中小PMIガイドライン(仮称)策定小委員会(第1回)配布資料
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_guideline/001.html

同(第2回)配布資料
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_guideline/002.html

同(第3回)配布資料
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_guideline/003.html

同(第4回)配布資料
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/pmi_guideline/004.html

 年明け早々に、東京証券取引所から、本年4月の現状5市場から3市場への再編について、上場企業3,777社の移行先が公表されました。東証によれば、この再編の狙いは、①投資家にとって、わかりやすく利便性が高い市場へ、②上場企業にとって、企業価値向上への確かなモチベーションとなる市場へ、の2点にあると言います。
 注目された現在の市場第一部2,185社のうちプライム市場を選択した会社は1,841社と、約8割がプライム市場に移行することとなりました。ただし、1,841社のうち296社はプライム市場の上場維持基準(流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金)を満たしておらず、基準適合に向けた計画を開示して、成長戦略の実施による企業価値向上、政策保有株縮減や自社株消却等による流動性の改善に取り組むこととなりました。
 新聞報道などでは、今回の移行先について、「絞り込み先送り」、「改革道半ば」といった見出しが目立ちましたが、基準未達企業が明らかになり、適合計画を公表した意義は大きいと思います。本年4月期決算会社から基準未達の場合には、事業年度末から3か月以内に適合計画の進捗状況を開示するよう求められており、実効を上げるよう迫っています。約半数の118社は計画期間を3年未満としていますので、達成か未達かは注目に値します。さらに、3年以上とした企業に対する投資家の見る目は厳しくなると思います。
 また、市場再編を契機にプライム市場と東証株価指数(TOPIX)の対応関係が見直されます。新市場発足時には、既存のTOPIX構成銘柄は選択市場に関わらず全て継続採用されますが、10月末以降、流通株式時価総額100億円未満の銘柄は四半期ごと10回に分けて逓減させるとしています。第1回目の対象銘柄は10月7日に東証ウェブサイトで公表されます。今後プライム市場に上場していても、新TOPIXに採用されない銘柄も出てくると予想され、こうした面からも未達企業へ企業価値向上等へのプレッシャーが掛かると思われます。
 なお、東証では、今回のTOPIXの見直し以前から、対象銘柄を規模で区分したニューインデックスシリーズとして時価総額、流動性の特に高いCore30銘柄、それに次いで高いLarge70銘柄などを公表しています。これらの指数は、毎年10月に定期的に銘柄選定をして見直しています。
 投資家からみると、各企業の企業価値や流動性の向上への取組みと実績に注目が集まるほか、パッシブ運用のインデックス投資においても、株価指数の構成銘柄への関心が高まるものとみられます。

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(参考)
東京証券取引所 上場会社による新市場区分の選択結果
https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/results/index.html

同 株式指数の見直し
https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/revisions-indices/index.html

 明けましておめでとうございます。コロナ禍が少し落ち着きを見せましたので年末年始に帰省された方、あるいは帰省せずにふるさと納税をされた方もおられるかもしれません。お正月は故郷を思うよい機会ですので、ふるさと納税について考えてみました。
 ふるさと納税は、「納税」と言われますが、実際には都道府県や市町村への「寄附」と自己負担額2千円を除いた額が収入や家族構成等に応じた上限はあるものの所得税及び住民税から「控除」されるものです。また、多くの場合に寄附した地方公共団体からは「返礼品」が贈られます。開始時の2008年度のふるさと納税受入額は81.4億円、受入件数は5.4万件でしたが、2020年度には、6,724.9億円、3,488.8万件まで急増しています。この間には、行き過ぎた高額な返礼品競争もあり、2019年には、返礼品は寄附額30%以下の市場価格の地場産品に限定すると是正されました。
 現状、ふるさと納税は返礼品目当てが多いと思いますが、大地震の後には被災地への寄附も増えると言います。ところで総務省では、ふるさと納税には3つの意義があるとしています。第1に納税者が寄附先を選択する制度なので、その使われ方を考えるきっかけになる、第2に生まれ故郷に限らず、これから応援したい地域への力にもなれる、第3に各自治体が国民に取組をアピールすることで自治体間の競争が進み、地域のあり方を改めて考えるきっかけになる、です。ふるさと納税に関する現況調査結果(令和3年度実施)をみると、資金の使途が一任ではなく選択できるが97.1%であり、選択できる範囲も分野のみならず個別事業まで具体的になりつつあります。そして寄附者に対して寄附金充当事業の進捗状況や成果の報告等を行っている先も増加しています。税金とは異なり、寄附に際して資金使途が選択でき、その成果等の報告も受けられる点は、もっと注目されてもよいと思います。
 また、平成28年度に「企業版ふるさと納税」も創設され、地方公共団体が行う地方創生の取り組みに対する寄附について法人関係税を税額控除できるようになりました。こちらには、特に顕著な功績を上げ、今後の模範となる活動を行った企業や地方公共団体に対し、内閣府特命担当大臣(地方創生)が表彰する制度もあり、目に見える形で社会貢献ができる仕組みとなっています。
 わが国には、寄附行為が欧米に比べてあまり根付いていないと言われることもありますが、本来は税金で受動的に徴収されるはずのところを、主体的に使い道とその成果が見える寄附に振り替えることのできる、いわば自分の懐から新たな持ち出しの少ない、ふるさと納税をいままでとは異なる視点で考えてみてもよいでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
総務省 ふるさとの納税ポータルサイト
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html

総務省 令和3年度ふるさと納税に関する現況調査結果
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/topics/20210730.html

内閣官房・内閣府 企業版ふるさと納税ポータルサイト
https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/kigyou_furusato.html

内閣府地方創生推進事務局 令和2年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」受賞者決定
https://www.chisou.go.jp/tiiki/tiikisaisei/pdf/dai3kai_kettei.pdf

2021年 PBマガジン

 現在話題の映画「老後の資金がありません!」を観てきました。笑いあり、涙あり、怒りありと深刻になりがちな話題をコメディ仕立てにしていて楽しめました。原作は2015年出版ですが、2019年の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の中で、老後資金不足額が2千万円と指摘され社会問題となったことが、映画製作の契機となったと聞きます。そこで、改めて2千万円不足について確かめてみました。
 その根拠は、総務省家計調査年報2017年版で、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の家計収支が毎月54,519円不足となっていることでした。これを基に、上記報告書では「不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる」とされ、2千万円の数字だけがマスコミに取り上げられて大問題となりました。
 しかし、その後の家計調査年報をみると、高齢夫婦無職世帯の毎月の家計収支は、2018年41,872円不足、2019年33,269円不足と赤字幅は縮小し、2020年には1,111円の黒字となっています。ただ、2020年の黒字化には、収入面でコロナ対策として国民一人当たり10万円の特別定額給付金があったうえ、支出面では外出自粛もあって教養娯楽費や交際費が抑制されたためと考えられます。ただ、いずれにせよ2千万円不足という金額の根拠は失われているとみるべきでしょう。一部の識者は、この問題点を指摘していますが、マスコミ等ではほとんど報じられていないため、世間一般では、いまだに2千万円不足が固定観念となっているように思います。今一度、冷静に議論すべきではないかと考えられます。
 ただし、そもそも家計の収入、支出のライフスタイルは各世帯で千差万別ですので、世帯平均だけで議論することには限界があることも認識しておくべきでしょう。理想は、各個人が自分の収入、支出の見通しを持ち、それに基づき将来の収支シミュレーションができるようになることだと思います。そのためには、時間はかかっても金融教育の充実が望まれます。
 ところでプライベートバンカーの顧客層にとっては、2千万円不足問題は無縁と思われているかもしれませんが、事業承継をどうするか、相続対策をどうするかを考える際には、その前提として、自身のリタイヤ後の将来生活設計とそれに伴う収支計画があるはずです。プライベートバンカーは、企業オーナーへの後継者育成やM&Aなど事業面や一族の相続税対策等へのアドバイスもありますが、リタイヤ後の生活設計についてもアドバイスできることが求められているように思います。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です。2021年10月21日執筆)

(参考)
金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html

総務省 家計調査年報(家計収支編)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/npsf.html

 このところ「分配」がキーワードとして急浮上しています。総選挙でも論戦がなされ、これから来年度予算編成等を通じて具体策が打ち出されてくるとみられます。ただ、分配問題については、それぞれの立場の利害が絡んでくるため客観的なデータ等に基づいた冷静な議論が望まれます。
 まず分配と聞いて頭に浮かぶのは、正社員に比べて雇用が不安定で賃金も相対的に低い非正規労働者が増加する一方で、株価高や配当を享受する富裕層との所得格差の拡大だと思います。この点は、これまでも税制、労働法制、社会保障制度等による再分配が議論されています。
 ここにきて注目されているのは、労働分配率です。岸田首相の所信表明演説の中で、働く人への分配機能の強化と労働分配率向上が打ち出されました。そこで今回は、労働分配率について調べてみました。
 労働分配率とは、企業が事業活動により生み出した付加価値額のうち、どれだけが労働者に分配されているかを表す指標です。財務省「法人企業統計調査年報」を基に、その推移をみると、年により振れはあるものの5年間平均では、2001~05年:72.0%→06~10年:71.9%→11~15年:70.1%→16~20年:68.0%と低下傾向にあります。それ以外の付加価値は、①企業自身と株主向けの営業純益、②金融機関向けの支払利息等、③不動産等所有者向けの動産・不動産賃借料、④国や地方公共団体向けの租税公課となっています。このうち、②~④の比率に大きな変動はありませんが、①の営業純益が付加価値に占める率を上記と同じ5年間平均の推移でみると、10.2%→10.5%→14.0%→17.3%と上昇しています。営業純益は、株主への配当や企業の内部留保に回っているので、配当や内部留保でなく、賃金を引き上げるべきとの主張もあります。
 ただ、21世紀入り後の20年間の付加価値額合計は微増にとどまっています。こうしたことから、中小企業白書(2020年版)では、「収益拡大から賃金引上げへの好循環を継続し、我が国経済を成長・発展させていくためには、起点となる企業が生み出す付加価値自体を増大させていくことが必要であるといえよう」と記しています。そして付加価値額を継続的に増やしていくには、従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の増大が必要とも述べています。因みに、日本生産性本部によると、わが国の労働生産性はOECD加盟37か国中21位と低位にとどまっています。
 今後、国会審議等を経て、分配や生産性向上について、どのような具体的な政策が打ち出されるか予断を許しませんが、賃金政策(最低賃金、春闘ベア等)、生産性向上への投資(DX推進、研究開発等)、従業員への教育など、様々な観点からの施策が考えられると思います。企業オーナーを主要顧客とするプライベートバンカーにおいては、今後も目の離せない話題です。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です。2021年10月21日執筆)

(参考)
財務省 法人企業統計調査
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm

中小企業庁 2020年版中小企業白書
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html

(公財)日本生産性本部 労働生産性の国際比較2020
https://www.jpc-net.jp/research/detail/005009.html

 コロナ禍で人々の生活実感がどうなっているか気になります。内閣府が9月に公表した「満足度・生活の質に関する調査報告書2021~我が国のWell-beingの動向~」によると、2021年3月の生活満足度(総合的な満足度)は、東京圏、女性を中心に低下しました。この調査では13分野別に満足度を聞いていますが、このうち「健康状態」、「社会とのつながり」、「生活の楽しさ・面白さ」の満足度が、コロナ感染への不安、友人等との交流の減少、気分の沈み等によって、地域別には地方圏に比べて東京圏、男女別には女性の方が悪化しました。
 また、年齢別には、65~89歳の高齢層は概ね横這いでしたが、40~64歳のミドル層の低下幅が大きく、15~39歳の若年層では、低下した人と上昇した人の割合がともに35%と高くなりました(つまり若年層で前年と変わらない人は30%)。
 そして「収入減少により困っている」との質問に対して、高齢層の7割は該当しないと回答した一方で、若年層、ミドル層の4割が困っていると回答しています。年金受給者が主体の高齢層の生活は相対的に安定していますが、ミドル層、若年層に悪影響が出ており、世代間格差がみられます。
 こうした中で分野別満足度が上昇した項目もみられます。「家計と資産」、「雇用環境と賃金」といった経済分野が改善しています。上記の回答やGDP、失業率が悪化する中では、一見矛盾するように見えますが、この点について内閣府は、2020年末まではコロナ下でも定額給付金等から可処分所得が増加し、外出自粛で消費支出減・貯蓄増で、金融資産残高が上昇したためと分析しています。しかし、その後の動向のフォローが必要だと思います。
 このほかにも、「通勤時間の減少により満足度が上昇している」、「スポーツ等の健康づくりにより満足度が高まる」、「趣味・生きがいの有無が満足度と大きく関係している」との結果も示されています。
 また、SNSの利用頻度が増加した者の割合は年齢が高くなるほど上がり、交流者数が増加して「社会とのつながり」の満足度が上昇していると報告されています。コロナを契機にデジタル難民とみられていた高齢層にも変化が起きているようです。
 「家にいる時間が長くなり、同居の家族との関係が難しくなった」とのハッとする質問もあって、男女ともに2割強が困っていると回答しています。男性よりも女性が、年齢層が低いほど、そして世帯人数が多いほど、困難との割合が増えています。これは、若年層の約6割が「友人・知人との交流減少に困っている」と回答しているのと深く関係がありそうです。
 以上、紹介した内閣府の「満足度調査」は、コロナ以前の2019年から年1回のペースで実施されています。今後も継続調査されることにより、GDPに代表される経済指標だけでは分からない満足度の動向を長期的に把握できると期待されます。本年6月に閣議決定した骨太方針2021では「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」とありますので、今後もウォッチしていく必要があるでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
内閣府満足度・生活の質に関する調査
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/manzoku/index.html

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公表している運用状況をみると、2019年度に前年度比▲5.2%と落ち込んだ後、2020年度同+25.15%、2021年度第1四半期期間収益率+2.68%と好調を続けています。マスコミは、マイナスが出た際には大きく報道して年金不安を煽っていますが、プラスの場合はほとんど取り上げないので、多くの人はこの事実を知らないのではと思います。
 今回は、市場運用を開始した2001~2020年度の運用実績を踏まえて、長期運用と国際分散投資の効果を確認していきます。
 この20年を振り返ると、前年度に比べて収益がプラスであったのは13年、マイナスであったのは7年でした。プラスの最大は2020年度の+25.15%、マイナスの最大は2008年度の▲7.57%でした。市場でリスクテイクしながらの運用ですから、大きく変動することは当然であり、注目すべきは20年間累積のリターンが年率+3.70%と目標リターンの賃金上昇率プラス1.7%を上回っていることです。
 それを可能にしたのは、基本ポートフォリオの見直しを図り国際分散投資を進めたことです。市場運用開始前は、年金積立金の全額が旧大蔵省資金運用部に預託されており、預託金利は国債に即していました。市場運用開始後、徐々に国内債券のウェイトを低下させる一方で、国内株式、外国債券、外国株式のウェイトを引き上げてきており、2020年度以降は、4資産のウェイトは各々25%としています。そして各資産の20年間の年率収益率をみると、国内債券1.44%、国内株式3.88%、外国債券4.72%、外国株式6.88%となっており、外国債券・株式が全体の収益率を高めるのに寄与していることが分かります。一定の条件を想定したシミュレーション結果を基に長期国際分散投資を勧める資料をよく目にしますが、これに対してGPIFの運用実績には、より説得力があると思います。
 ただ、それならばGPIFはもっと外国債券・株式のウェイトを高めていたらよかったのではないかとか、一般個人もGPIFと同じ基本ポートフォリオでよいのではないかといった疑問があろうかと思います。前者については、GPIFの公表資料に各資産のリスク(収益率の標準偏差)は示されていませんが、外国資産のウェイトを高めると収益率の振れ幅が大きくなり、安定的な運用の面からは今以上に問題が出てくるように思います。また、後者については、GPIFの場合、目標リターン(賃金上昇率プラス1.7%)を最小限のリスクで達成するとの想定で、運用期間も100年後を展望した長期を前提としています。これに対して、個人の場合は、各人のリスク・リターンの志向や年齢に応じて運用期間の想定もかなり異なると思いますので、GPIFの基本ポートフォリオが誰についてもベストであるとは限りません。やはり顧客のライフプランをよく聴いたうえで、顧客本位の提案をすることが重要であることは肝に銘じておく必要があるでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
https://www.gpif.go.jp/

 国税庁が7月1日に公表した相続税や贈与税の算定基準となる令和3年分(2021年1月1日時点)の路線価は全国平均で▲0.5%と6年ぶりに下落しました。その背景には、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、在宅勤務で都心のオフィスや繁華街の人出が減少したほか、インバウンド(訪日外国人客)の落ち込みで観光地でも閑古鳥が鳴くようになり、賃料の下落や土地取引の減少などがあったと考えられます。
 都道府県庁所在地の最高路線価をみると、今年は上昇8地点、横ばい17地点、下落22地点で、昨年の上昇38地点、横ばい8地点、下落1地点と様変わりとなっています。こうした中で特徴点を挙げると、地価全国一で有名な東京銀座「鳩居堂」前が▲7.0%と下落に転じた一方で、首都圏では横浜(+3.1%)、千葉(+3.5%)は連続して上昇し、さいたまは横ばい(0.0%)にとどまっています。それに対して、下落幅が全国で一番大きかった奈良(▲12.5%)をはじめに関西圏では大阪(▲8.5%)、京都(▲3.0%)、神戸(▲9.7%)もマイナスとなっており、「東高西低」と言えます。
 因みに、都道府県別の転出入者数をみても、東京への転入者超が大幅に縮小している一方で、神奈川、千葉、埼玉への転入者超は高水準を続けています。この間、大阪への転入者超が縮小する中で、奈良、京都、兵庫からの転出者超が続いており、地価動向と整合的な姿となっています。
 気になる地価の先行きについては、国土交通省の地価LOOKレポートをみると(本年4月1日時点調査)、東京圏(43地区)では上昇10地区(前回1月1日時点、6地区)、横ばい23地区(同26)、下落10地区(同11)、大阪圏(25地区)では上昇6地区(同4)、横ばい8地区(4)、下落11地区(17)と、どちらも前期に比べて上昇が増加の一方、下落が減少しており、全体として下げ止まりが窺われます。
 ご存じのとおり、路線価は、公示地価の約8割と言われますが、地価公示や都道府県地価調査に比べて調査地点数が多いので、気になる土地について情報を得るのに役立ちます。また、地価LOOKレポートは、調査地点が100地区と数は少ないですが、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地について四半期毎に調査し、各調査地点について不動産鑑定士のコメントも掲載されているので参考になるでしょう。

(本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です。なお、都道府県別転出入者数の動向は、地価LOOKレポート参考資料P83を基にしています。)

(参考)
国税庁令和3年分路線価図・評価倍率表(令和3年7月1日)
https://www.rosenka.nta.go.jp/
国土交通省主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~
【第54回】令和3年度第1四半期(令和3年6月)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001407640.pdf

 金融庁は、2017年3月に「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、原則)を公表し2021年1月に改訂しました。さらに4月には、金融審議会市場ワーキンググループ報告書を踏まえて、本原則の採択事業者のリストを公表する際には、各金融事業者の取組方針や取組状況を項目毎に比較できるようにし、金融事業者による好事例と不芳事例を比較分析できるようにしていくと表明しました。
 これに伴い、各金融事業者に対して単に原則2~7について実施するか否かだけではなく、各原則の内容毎にその取組方針の記載内容との対応関係を6月末までに報告するよう求めています。また、「顧客本位の業務運営の取組方針等に係る金融庁における好事例分析に当たってのポイント」(以下、ポイント)も公表しました。
 今回は、金融庁が求める具体的なポイントについて、その内容の一部を紹介します。
 原則2【顧客の最善の利益の追求】では、「顧客の最善の利益」の実現状況を確認するための指標が示されている。当該指標の背景となる「顧客の最善の利益」の考え方が具体的に示されている等々。
 原則4【手数料等の明確化】では、顧客がニーズに合った商品を選択できるような情報提供の仕組みが示されている。例えば、①同一あるいは類似の商品について、対面・非対面等の販売態様で手数料その他の費用の詳細が異なる場合、②同一のベンチマークと連動した成果を目指すインデックスファンドについて、販売手数料率や信託報酬率の異なる複数の商品が取り扱われている場合に、顧客の選択に資する情報提供の仕組みが示されている等々。
 原則6【顧客にふさわしいサービスの提供】では、顧客に販売・推奨等を行った商品や、当該商品の販売・推奨等の方法が、顧客にふさわしいものであることを確認・検証するための方法や基準等が具体的に示されている。金融商品・サービスの販売後において行うフォローアップについて、どのような場合に実施するか・目的・内容等が具体的に示されている等々。
 原則7【従業員に対する適切な動機づけの枠組み等】では、取り扱う金融商品・サービスや顧客へのアプローチ・提案内容と照らし合わせて、営業員に求められるスキル(資格の保有を含む)が具体的に示されている等々。
 以上みてきたとおり、フィデューシャリー・デューティーを実現するには、これまでのともすれば顧客と金融事業者との間の情報の非対称性に基づきがちなビジネスからの徹底的な脱却と厳格な説明責任が求められていると考えられます。
 こうした中で、プライベートバンカー(PB)およびPB資格の持つ社会的意義と優位性が、これまで以上に世間で認められるようにしていくことが重要だと思います。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
金融庁金融事業者における顧客本位の業務運営のさらなる浸透・定着に向けた取組みについて(令和3年4月12日)
https://www.fsa.go.jp/news/r2/kokyakuhoni/202104/fd_2021.html

同 顧客本位の業務運営の取組方針等に係る金融庁における好事例分析に当たってのポイント(令和3年4月12日)https://www.fsa.go.jp/news/r2/kokyakuhoni/202104/fd_point.pdf

 前回、パッシブファンドのベンチマークの代表であるTOPIX(東証株価指数)の見直しについて紹介しましたが、アクティブファンドの運用成績が気になったので調べてみました。とは言えアクティブファンドの設定数は膨大ですので、サンプルとして金融庁が公表しているつみたてNISAの対象ファンドのうち国内株式を中心に運用している7本について、TOPIX、日経平均のインデックス運用と比べてみました。
 つみたてNISAの開始は2018年でしたので、過去3年間のリターン(年率)をみると、アクティブファンド7本中5本はTOPIXを上回り、リスク対比でみたリターンであるシャープレシオも同様でした。参考までに過去10年間で見ても概ねこの傾向は変わりありませんでした。こうしてみると、アクティブファンドは、独自のリスクテイクにより市場平均を上回るリターンを得ており、かなり健闘しているようです。
 ただ、もう1つの代表的なベンチマークである日経平均と比べると、リターン、シャープレシオのいずれで見てもアクティブファンドの運用成績は一部のファンドを除き明確な優位性はありませんでした。日経平均は、日本を代表する225社の株価平均であるため、値の張るハイテク主導の輸出関連企業の影響を受けやすくリスクも大きい一方、TOPIX(2192社)は、株価でなく時価総額ウェイトの大きい内需関連の影響を受けやすいと言われます。
 ここで各アクティブファンドの組入銘柄数をみると、少数集中の30社から日経平均の社数を上回る広範な成長企業268社まであり違いが大きいのが分かります。そして、各々のファンドは独自の運用方針に基づいているため、TOPIXをベンチマークとしてそれを上回るパフォーマンスを目標とするファンドがある一方で、ベンチマークを置かないファンドもあります。中にはリターン5%程度、リスク10%以内を運用目標にしているファンドもあります。なお、今回の7ファンドの中には、日経平均をベンチマークとしたものはありませんでした。
 以上みてきた通り、顧客に日本株での資産運用をアドバイスする際には、顧客のライフプラン、リスク許容度はもとより、アクティブファンドを勧める場合には、単にこれまで市場平均を上回る運用成績を上げているかどうかだけでなく、投資対象企業や運用方針までしっかりと説明して納得を得る必要があるでしょう。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
金融庁つみたてNISAの概要
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/tsumitate/overview/index.html

 皆様の資産運用アドバイスは、市場に連動するインデックスに軸を置いたパッシブ型でしょうか、それとも個別銘柄を選別してインデックス+αまたは絶対リターンを狙うアクティブ型でしょうか。あるいはコアをパッシブにしてサテライトをアクティブといった混合スタイルもあるかもしれません。
 現状をみると、常にインデックスを上回る成果を挙げ続けることは難しいため、パッシブ運用が主流になっているようです。因みに、金融庁のつみたてNISAの対象商品をみても、全193本のうちアクティブ運用投信は僅か19本で、大多数がインデックス投信とETFとなっています(2020年12月23日時点)。
 日本株のインデックスは、日経平均株価(日経225)とTOPIX(東証株価指数)の2つがメインとなっていますが、TOPIXが東証の市場構造の再編に伴い見直されることとなりました。今回市場再編を行うのは、①現在の5つの市場区分が曖昧で、特に市場第二部、マザーズ、JASDAQスタンダード、JASDAQグロースの位置付けがわかりにくいこと、②市場第一部へのステップアップ基準が低いほか、降格や上場廃止基準も緩いため、持続的な企業価値向上への動機づけが乏しいこと(換言すればいわゆるゾンビ企業が滞留)、③この結果、市場第一部の全ての銘柄で構成されるTOPIXには時価総額や流動性の低い銘柄が多く含まれ、インデックス投資の対象として機動性や市場代表性を有していないこと、が理由として挙げられています。
 この結果、2022年4月にプライム、スタンダード、グロースの3市場に再編されることになりました。各市場に上場される銘柄は、時価総額、流動性、ガバナンスを基準に来年1月に決定される予定です。
 しかし、プライム市場の株価指数が直ちに新TOPIXになる訳ではありません。今回の市場再編に伴い、市場区分とTOPIXの範囲は切り離されることになり、現在のTOPIXとの連続性も考慮しつつ、より流動性を重視して選定することになります。具体的には、2022年10月以降、流通株式時価総額100億円未満の銘柄を四半期ごとに10段階で低減させていくとしています。これまでTOPIXが日本の株式市場全体を代表するものとして、別格扱いする向きもあるようですが、今後の見直しにより現在の市場第一部の約2,100社から銘柄数は減少すると予想されます。
 日本銀行では本年3月の金融緩和の点検で、これまでETFの買入れはTOPIXと日経平均を中心に実施してきましたが、今後は、個別銘柄に偏った影響ができるだけ生じないように指数の構成銘柄の最も多いTOPIXのみに変更しました(ただし、設備・人材投資に積極的に取り組む企業を対象としたETFの買入れは継続)。このため、TOPIXの見直しが今後の金融政策にどのように影響するのか否か目が離せないと思います。
 また、投資家にとって魅力の高い会社として時価総額、売買実績、ROEなどを基準に選定した上位400社から構成される「JPX日経インデックス400(2014年公表開始)」と、TOPIXの見直しとの関係はどうなるのかも気になるところです。
 これまでパッシブ運用のインデックスについては、外生的な与件として深く考えることはなかったとすれば、これを契機にインデックスの具体的な内容や意味合いを改めて考えてみる価値はあると思います。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
日本取引所グループ「市場構造の在り方等の検討」
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html

日本取引所グループ「TOPIX算出ルールの見直しの概要」
https://www.jpx.co.jp/news/1044/nlsgeu0000057d2k-att/j_data1.pdf

当協会証券アナリストジャーナル「特集株価指数」2021年4月号
https://www.saa.or.jp/learning/journal/each_title/2021/04.html

 令和3年度税制改正大綱では、「諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」と表明されています。これを受けて、生前贈与や相続税対策について関心が高まっています。
 今回は、この大綱に先立って昨年11月に開催された政府税制調査会の資料や議論をご紹介します。
 まず、財務省から資料に基づき、以下の説明がありました。わが国の相続税と贈与税の関係をみると、贈与税は相続税の累進回避を防止する観点から相続税よりも重い税率となっています。このため、財産が比較的少ない層にとっては生前贈与をするメリットがありません。しかし、相当に高額な財産を有する層では、相続財産に適用される限界税率を下回る金額を連年贈与することによって、相続税の累進を回避しながら、多額の財産を生前に移転することが可能となっています。例えば、相続財産(法定相続分)が6億円超(限界税率55%)と見込まれる方の場合、毎年4,500万円以下(限界税率50%)の財産を長期間にわたって生前贈与し続けていれば、生前贈与の相続財産への持ち戻しは3年以内に限られますので、大幅な節税が可能です(詳しくは、下記の(参考)税制調査会説明資料23ページ以下をご覧ください)。
 一方、先進諸外国では、贈与税と相続税は統合されており、米国では一生涯の累積贈与額と相続財産額の合計額に対して一体的に課税されます。また、ドイツでは生前の10年間、フランスでは15年間の累積贈与額と相続財産額の合計額に対して一体的に課税される制度となっています。
 これを受けて税調委員の中では、暦年贈与を廃止して、資産移転の時期に中立的な相続時精算課税制度を基本に考えるべきとの意見が多く聞かれています。生涯の累積贈与額の把握にはマイナンバー制度といったデジタル技術の利用も考えられるといった意見もあります。その他、1949年のシャウプ勧告の中でも生涯累積課税制度が提言されていたとの発言や、人生後半の年齢で支払う相続税と、より若い段階で支払う贈与税では、経済学的には、税負担額の総額の現在価値総額が同じにすべきであるとの指摘などもありました。
 税制調査会での議論は始まったばかりで、今後議論が本格化する見通しですので、目の離せないところです。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
内閣府第4回税制調査会(令和2年11月13日)
説明資料 https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai2.pdf
議事録 https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/2zen4kaigiji.pdf

 家計の保有する金融資産は、日本銀行から4半期ごとに公表される資金循環統計によれば昨年9月末で1901兆円(前年同月比+2.7%)と増加しています。その背景には、新型コロナウィルスの影響から消費が抑制されて現預金が増加したほか、株価の上昇により投資信託の時価評価の値上がりも寄与しています。こうした金融資産の多くが高齢者世帯に偏在しており、しかも金融資産に占める現預金比率が54.4%と高いままで、なかなか貯蓄から投資(最近は資産形成という)が進んでいないのは周知の事実です。

 今回は、野村総合研究所が昨年12月に公表した、①各種統計から推計した「日本の純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」および②全国の企業オーナー経営者(本人と配偶者の保有する金融資産が1億円以上)を対象に実施した「NRI富裕層アンケート調査」結果を紹介し、プライベートバンカーに期待される役割をみていきましょう。

 まず、①によると2019年時点での預貯金、株式、債券、投資信託、生命保険、年金保険などの金融資産合計額から金融負債合計額を差し引いた純金融資産保有額が1億円以上の富裕層は133万世帯,純金融資産総額は333兆円と、アベノミクスが始まった2013年以降一貫して増加を続けています。なお、本推計が開始された2005年時点での富裕層は86万世帯、213兆円でしたので、それと比較すると現在は5割増となっており、富裕層の厚みが増していると言えるでしょう。

 また、②でコロナを契機に資産管理・運用に関する考え方に変化があったか質問したところ、変化したとの回答が一番多かったのは「個人資産より所有する事業や法人の先行きが以前より心配になった」でした。ただ、第2位「複雑でわかりにくい商品よりもシンプルでわかりやすい商品を好むようになった」、第5位「自分の考えだけで資産の運用・管理するのは限界があると感じた」、第6位「資産の管理・運用に関するアドバイスをしてもらえる信頼できる専門家が必要だと思った」との声も多く聞かれ、資産運用アドバイスへの期待は高まっているようです。

 今回紹介した統計やアンケート調査を見ると、日本の富裕層は着実に増加しており、その主体とみられる企業オーナーは、まずその事業をよく理解したうえでリスク・リターンの指向に叶う最適なアドバイスを期待していることが改めて確認できると思います。また、事業の先行きについての不安には、高齢な企業オーナーでは事業承継や相続についての悩みもあると思われますので、こうした点での相談にも乗ることが望まれていると言えるでしょう。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
日本銀行:資金循環統計
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/index.htm/

野村総合研究所:日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2020/cc/1221_1

 昨年末に令和3年度税制改正大綱が閣議決定され、国会審議を経て改正の運びとなります。大綱の内容は広範多岐にわたりますので、改正のポイントは税理士法人等専門家による解説をご覧いただければと思います。本稿では、閣議決定とその基になった与党の大綱の中から、税制が今後目指す方向について紹介します。

 まず大綱では、ウィズコロナ・ポストコロナ下の経済再生が喫緊の課題としており、中小企業支援、地方再生や固定資産税の評価替えの繰延べなどが挙げられています。また、働き方の多様化を含む経済社会の構造変化への対応や所得再分配機能の回復の観点から個人所得課税の検討を進めることや企業年金・個人年金等に関する税制上の取り扱いについて、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制の構築に取り組むとされています。

 例えば、私的年金等の給付については、一時金払いか年金払いかによって税制上の取り扱いが異なり中立的でないことや、退職金では勤続期間が20年を超えると一年あたりの控除額が増加する仕組みが転職の増加に対応していないことから、イギリス、カナダでの各種私的年金共通の非課税拠出限度枠や私的年金等の個人退職年金勘定の検討を挙げています。

 また相続税・贈与税関係では、教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について、孫等が受贈者である場合に贈与者死亡時の残高に係る相続税額の2割加算が適用されないことが節税につながっていることから、世帯間格差の固定化の防止等の観点から見直した上で、2年間延長するとしています。なお、結婚・子育て資金については、贈与の多くが扶養義務者による生活費等の都度の贈与や基礎控除の適用により課税対象にならない範囲にあること等から、先行き制度の廃止を含めて検討するとしています。

 また、資産移転の時期に中立的な相続税・贈与税に向けた検討も課題に挙げています。現在、高齢世代に資産が偏在しており、相続による資産の世代間移転の時期も高齢期にシフトしています。その結果、若年世代への資産移転が進んでいません。しかし、現状の贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から、高い税率が設定されており、生前贈与に対して抑制的に働いている面があります。諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税することにより、資産移転のタイミングにかかわらず、税負担が一定になるような工夫が講じられています。このため、相続税と贈与税をより一体的に捉える観点から、相続時精算課税制度と暦年課税制度の見直しなどを本格的に検討するとしています。

 顧客にアドバイスするプライベートバンカーにとって、今後、税制改正でどのように議論が進んでいくのか目が離せないと思います。

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

(参考)
財務省:令和3年度税制改正の大綱(閣議決定)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2021/20201221taikou.pdf

自由民主党・公明党:令和3年度税制改正大綱
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/200955_1.pdf

 プライベートバンカーの皆様、明けましておめでとうございます。コロナの終息が見通せない中、晴れやかな新年とは言い難いところですが、お屠蘇やおせち料理には、長寿への願いが込められています。今回は、老年学と訳されるジェロントロジーを取り上げます。

 日本老年学会(The Japan Gerontological Society)は、1959年に発足していますが、世間でジェロントロジーという言葉が見られるようになったのは、人生100年時代と言われるようになった最近のことだと思います。長寿社会で生じる課題は、加齢による身体機能および認知機能の低下です。これまでも主として平均寿命(生命寿命)と健康寿命の乖離に着目して、寝たきりや痴ほう症への対応に世間の関心が高かったように思います。さらに一昨年には「老後資金2千万円不足」が社会問題化する中で、公的年金制度が抱える課題にとどまらず、高齢になると適正な消費、資産管理、運用が困難になり、平均寿命と資産寿命の乖離が大きくなり、老後の生活資金が枯渇するいわゆる老後破綻問題が浮上してきました。こうした中で、金融面に焦点を当てた「金融ジェロントロジー」という分野が浮かび上がってきています。

 金融ジェロントロジーには、公的年金、医療保険、介護保険等社会保障制度のあり方や財政、マクロ経済への影響など幅広いテーマが含まれますが、現在、特に注目されているのは、①認知判断能力低下時の金融サービスのあり方、②人生100年時代の資産寿命の守り方・延ばし方の2つであるとみられます。

 ①については、金融庁も金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書(2020年8月)で取り上げており、その中で、顧客本位の観点から、安心で利便性の高い対応の充実を掲げ、いわゆる金融商品販売での適合性の原則に加えて、デジタル技術を活用した個々の認知判断能力の研究や本人以外でも金融契約の有無を照会できるシステムの検討を求めています。言い換えれば、これまでの通常の認知判断能力を有する顧客を前提とした金融投資教育の充実と丁寧な情報開示・説明だけでは不十分だと言えるでしょう。

 ②については、キャッシュフローがプラスの現役世代を前提とした山登りの資産運用によって住宅・教育・老後資金を積み上げていく局面と、キャッシュフローがマイナスのリタイヤ世代が資産を取り崩しながら運用する局面では、考え方が異なると考えられます。現役時代では、一般にドルコスト法と言われる毎期定額の積立投資が推奨されますが、リタイヤ後の資産取り崩しでは、資産総額の一定比率での取り崩しの方が毎期定額での取り崩しよりは資産寿命を延ばしやすいとの主張がなされています(米国では4%引き出し)。その背景には、現役時代にはあまり問題とはならない投資リターンの順序(SOR:Sequence of Returns)が重要であり、リタイヤ後の運用をしながらの資産取り崩しでは、資産寿命に大きく影響するからと言われています。

 高齢者の支援としては、民事信託の活用、法定・任意後見人などが挙げられますが、金融のプロフェッショナルからできるアドバイスも今後増えてくるように考えられます。

(参考)
金融庁:金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告(2020年8月5日)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20200805/houkoku.pdf

駒村康平編:エッセンシャル金融ジェロントロジー(2019年9月30日)慶応義塾大学出版会

日本証券アナリスト協会:証券アナリストジャーナル「金融ジェロントロジー」(2018年8月号)

(なお、本文は協会の見解ではなく、編集子の個人的な意見です)

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