セルサイド証券アナリストの利益相反に対処するための原則–原則-

アナリストが直面する利益相反及びその可能性は、国ごとに、さらには会社ごとに異なる。しかしながら、IOSCO専門委員会は、利益相反に対処するためには、根本的な問題として、利益相反を排除又は管理する仕組みが必要であることに合意する。したがって、証券規制当局、自主規制機関や会社は、利益相反の種類を分析し、これらの利益相反を排除、制限、管理又は開示するための措置を講じるべきである。
これらの措置の形式は、各国の市場環境と法制度に合わせなければならない。固有の状況に応じて、規制当局、自主規制機関や会社は、制限又は禁止を通じてより適切に管理されるような利益相反がある一方、開示を通じてより適切に対処され得る利益相反もあると判断するかもしれない。同様に、規制当局等は、規制によってのみ適切に管理され得る利益相反があると判断するかもしれない。会社内部の仕組みによって最も適切に対処され得る利益相反があるかもしれない。この場合、会社は、規制当局や市場が満足できるように利益相反が対処されることを確保することについて、責任を有する。結果として、アナリストの利益相反に対処するための仕組みは、以下の形式を取り得る。

  • 政府の規制
  • 独立した、非政府の法定規制機関による規則
  • 自主規制機関による拘束力のあるルール
  • 厳格に適用・執行される業界規範

アナリストの利益相反を排除、回避、管理又は開示するために講じられる仕組みを問わず、以下の原則は、監督システム全体で対処するべき主要分野を示す。

 
  1. アナリストの証券取引及び金融上の利害関係

    【原則1】
    アナリストの証券取引活動や金融上の利害関係が、当該アナリストの調査及び推奨を歪めることのないような仕組みが存在するべきである。

    【中核的措置】

    ○ コンプライアンス部門又は法務部門による事前承認を条件とした特別の状況を除き、アナリストが、調査対象の発行体の証券又は関連デリバティブについて、自ら表明した推奨に反する取引を行うことを禁止する。

    ○ アナリストが、自らが役員、取締役又は監査役会の一員となっている発行体を調査対象とすることを禁止し、アナリストの親族又は関係者が役員、取締役又は監査役会の一員となっている発行体を調査対象とすることについて開示することをアナリストに義務づける。この代替措置として、アナリスト本人またはその親族・関係者が調査対象の発行体の役員、取締役又は監査役会の一員となっている場合に、これを公表することをアナリストに義務づける。

    ○ アナリストが、発行体に関するレポートの公表前に、当該発行体に係る証券又は関連デリバティブを取引することを禁止する。

    ○ アナリストが調査対象の発行体との間に投資関係又は金融上の利害関係を有する場合に、 これを公表することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    【その他措置】

    ○ アナリストが、調査対象の発行体・業界の証券又は関連するデリバティブの取引を行うことを禁止する。

    ○ アナリスト・レポートの発行前後に、アナリストの証券取引について「保持期間(holding period)」を義務づける。

  2. 会社の金融上の利害関係及び事業上の関係

    【原則2.1】
    アナリストの調査及び推奨が、当該アナリストを雇用する会社の証券取引活動や金融上の利害関係によって歪められることのないような仕組みが存在するべきである。

    【中核的措置】

    ○ アナリストを雇用する会社が、アナリストの調査対象の発行体の証券販売の促進をしている場合、又はアナリストの調査対象の発行体と重大な金融上の利害関係を有している場合には、これを公表することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストを雇用する会社に雇用されている又は関連する個人が、アナリストの調査対象の発行体の役員、取締役又は監査役会の一員となっている場合には、これを公表することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストを雇用する会社が、アナリストによる調査の公表前に、調査対象の発行体の証券又は関連するデリバティブについて、不適切に取引を行うことを禁止する。

    【その他措置】

    ○ アナリストが、アナリストを雇用する会社の役職員が役員、取締役又は監査役会の一員となっている会社を調査対象とすることを禁止する。

    ○ アナリスト又はアナリストを雇用する会社が、一定期間経過後に、調査レポートを規制当局、自主規制機関や独立当局に提出するか、又は公表することを義務づける。

    【原則2.2】
    アナリストの調査及び推奨が、当該アナリストを雇用する会社の事業上の関係によって歪められることのないような仕組みが存在するべきである。

    【中核的措置】

    ○ 利益相反の可能性を防ぐとともに、アナリストを雇用する会社の他の者がアナリストの調査に影響を与えようとすることを防ぐために、アナリストと当該アナリストを雇用する会社の他の部門の間に堅固な情報隔壁を構築する。

    ○ アナリストを雇用する会社が、将来又は継続的な事業上の関係・サービス又は投資の見返りに、発行体に対して、好意的な調査、特定の格付又は特定の目標株価を約束することを禁止する。

    ○ アナリストが、投資銀行業務のセールス・ピッチ(売込活動)とロードショーに参加することを禁止する。

    【その他措置】

    ○ アナリストを雇用する会社が、アナリストの調査対象の発行体との間に、投資銀行業務に係る取引関係を模索しているか、有しているか又は最近有していた場合には、これを開示することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストを雇用する証券会社の引受等により証券の募集を行う場合は、その直前・直後に「沈黙期間(quiet period)」を義務づけ、その間、当該アナリストは当該発行体に関する調査レポートを公表することができないものとする。

    ○ 調査対象とする発行体の選択基準を開示するとともに、発行体を調査対象とすることを止めた場合に速やかに通知することをアナリストに義務づける。

    ○ 調査レポートであれ、公の場であれ、アナリストが表明する意見及び推奨は、自ら実際に持つものである旨を宣誓認証することをアナリストに義務づける。

  3. アナリストの報告体系及び報酬

    【原則3】
    アナリストの報告体系と報酬枠組みは、利益相反及びその可能性を排除し、又は厳しく制限するように構築されるべきである。

    【中核的措置】

    ○ アナリストが投資銀行機能に対して報告を行うことを禁止する。

    ○ アナリストの報酬を特定の投資銀行取引に直接関連づけることを禁止する。

    ○ アナリストの独立性を確保するために、報告体系及び報酬構造を守るための仕組みを会社内で採用する。

    ○ 投資銀行部門がコンプライアンス部門又は法務部門の監督の下で調査レポートの事実関係の正確性をその公表前にレビューする場合を除き、投資銀行部門がアナリストのレポート又は推奨を事前承認することを禁止する。

    【その他措置】

    ○ アナリストがどのように報酬を受けているか、また誰に報告しているかを開示することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストの受け取る報酬が投資銀行業務の収入と完全に又は部分的に連動している場合に、これを開示することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストが投資銀行活動に参加することを禁止する。

  4. 法令遵守システム及び経営幹部の責任

    【原則4】
    アナリストを雇用する会社は、アナリストの利益相反及びその可能性を識別するとともに、これを排除、管理又は開示するための書面による内部手続又は内部統制を構築するべきである。

    【中核的措置】

    ○ アナリストの利益相反及びその可能性に対処するための書面による内部手続を持つことをアナリストを雇用する会社に義務づける。(主規制機関又は業界団体により要求されるものもある。)

  5. 外部からの影響

    【原則5】
    発行体、機関投資家その他外部の者からのアナリストに対する不当な影響は、排除又は管理されるべきである。

    【中核的措置】

    ○ 発行体又は第三者が、調査レポートに関連して、報酬その他の利益を提供したかどうかを開示することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ 法律又は規制により具体的に認められる場合を除き、発行体が、重要な情報を一部のアナリストに対してのみ開示し、その他のアナリストには開示しないことを禁止する。

    【その他措置】

    ○ 標準的な内部手続に従って調査レポートを幅広く又は一斉に配布することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ 調査レポートの配布に係る方針及び手続を開示することをアナリスト又はアナリストを雇用する会社に義務づける。

    ○ アナリストが、調査対象の発行体、機関投資家その他外部の主体から、別途報酬を受け取ることを禁止するか、又は別途報酬を受け取ることを開示することを義務づける。

  6. 開示(ディスクロージャー)の明瞭性・特定性・顕著性

    【原則6】
    利益相反及びその可能性の開示(ディスクロージャー)は、完全、適時、明確、正確、 詳細、特定かつ目立つものであるべきである。

  7. 誠実性及び倫理的行動

    【原則7】
    アナリストは、高い誠実基準を保持するべきである。

    【中核的措置】

    ○ 顧客に対し誠実かつ公正に行動するよう、アナリスト及びアナリストを雇用する会社に一般的な法的義務を課する。

    ○ アナリスト及びアナリストを雇用する会社が、誤解を招くような、又は詐欺的な方法で活動することを禁止する。

    【その他措置】

    ○ アナリストに適性要件を課すか、さもなければ、犯罪歴のある者又は明らかに誠実性が劣る者がアナリストとして雇用されることを永久に又は一定期間禁止する。

    ○ アナリストとしての法的・倫理的義務に係る知識を試すための定期的な試験を受けることをアナリストに義務づける。

    ○ アナリストの懲罰に係る記録を公表する。

    ○ 投資家に配布される調査レポートにおいて専門的履歴を開示することをアナリストに義務づける。

    ○ メディアを通じて発行体に関するコメント又は推奨を行う場合に、本名及び資格状況を開示することをアナリストに義務づける。

    ○ 推奨を行うときに用いる用語を定義することをアナリストに義務づける。

    ○ 一定期間内に行う様々な種類の推奨(例:「売り」、「中立」、「買い」)の数値の内訳の比較(パーセンテージ又は割合)を開示することをアナリストに義務づける。

    ○ 過去に見通した目標株価と見通した日から一定期間の実際の株価との比較を開示することをアナリストに義務づける。

    ○ アナリストのレポートに、推奨の基礎となる仮定についての吟味を記載するとともに、仮定の変更がアナリストの出した結論に与える影響についての投資家の理解に資するためにセンシティビティー・アナリシス(感応度分析)を記載することをアナリストに義務づける。

  8. 投資家教育

    【原則8】
    投資家教育は、アナリストの利益相反に対処するために重要な役割を果たすべきである。

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