セルサイド証券アナリストの利益相反に対処するための原則–序文-

  1. 証券規制当局の主要な目的は、IOSCO(証券監督者国際機構)の「証券規制の目的と原則」に示されているように、投資家の保護、公正・効率的・透明な市場の確保及びシステミック・リスクの削減である。証券発行体及び証券に関する情報の適時かつ正確な流れが、これらの目的達成のための基礎的条件である。しかしながら、情報の量は、多くの投資家にとって過大であり得る。証券アナリストは、幅広い情報を理解しようとする投資家に対し、価値ある洞察を提供することができる。証券アナリストは、会社・業界の研究や原データの分析を行い、また、見通しを示し、証券取引の推奨を行うこともある。
  2. IOSCO専門委員会は、特に、「セルサイド」アナリスト(すなわちブローカー=ディーラーや投資銀行のような総合サービスを提供する証券会社の調査部門により雇用されている証券アナリスト)は、その独立かつ偏りのない意見を投資家に提供する能力を妥協させ得る利益相反に直面し得る。セルサイド・アナリストのみがこのような利益相反に直面しているものではない。しかしながら、セルサイド・アナリストがその所属する組織において複数の役割を果たし得ることから、投資家保護の観点から、特別な問題を生じさせる可能性がある。実際、偏った調査により、投資家が被害を受け、市場の公正性・効率性・透明性が損われることがある。
  3. 本声明に示されている原則はセルサイド・アナリストの活動に焦点を当てているものであるが、これらの原則の多くは、他の種類の証券アナリストにも同様に適用することが可能かもしれない。
  4. アナリストの利益相反が投資家保護上問題を生じさせるとの問題意識に基づき、IOSCO専門委員会は、アナリストが直面する利益相反及び証券規制当局がこれらの利益相反に対処するために拠るべき方法について検討した。
  5. IOSCO専門委員会は、証券アナリストの行為等は、一般に、a. アナリストを雇用する会社、 b. 自主規制機関(SRO)、c. 政府の規制当局その他権限ある証券規制当局、d. 専門団体によるモニター・監督を受けていることを見出した。これら4種類の監督すべてがあらゆる国・地域(以下「国」)で存在するものではない。これらの各主体による監督の程度は、国によって異なり、また一国の中でも個々のアナリストの地位や職務によって異なる。
  6. IOSCO専門委員会はまた、多くの規制当局、自主規制機関や専門団体が、アナリストの直面する利益相反に対処するための法律、規制や規範を提案していることを見出した。新たなガイドライン等を策定するかどうかについて積極的に検討している国もある。
  7. このような取組みから、IOSCO専門委員会は、証券アナリストの利益相反に関する一連のIOSCOの原則は、証券アナリストの監督の改善を望んでいる国にとって有益な手助けとなり、また規制アプローチの収斂に資するであろうと結論づけた。
  8. 規制当局、投資家、会社やアナリストにとっての主な目的は、アナリストがその顧客のために作成する調査が客観的、明確、公正かつ誤解を生じさせないものとなるような環境を整備することである。この目的達成を助けるため、IOSCO専門委員会の原則は、

    a. アナリストが直面する利益相反の識別、及びその排除、回避、管理又は開示

    b. アナリスト及びその調査の誠実性

    c. アナリストが直面する利益相反及びその可能性に関する投資家教育に焦点を当てている。

  9. 本声明に示されている原則は、アナリストの直面する利益相反に関する主要な課題に対処することを意図している。これらの原則は、アナリストが活動するすべての国に適用されるように策定されている。しかしながら、IOSCO専門委員会は、IOSCOメンバーによって、法律・規制の構造及び市場の特徴が異なることを認識している。このため、IOSCOメンバー国は、これらの原則を自らの市場に合わせて実施するべきである。
  10. アナリストの利益相反に対処するための規制や会社の内部ルール等は、各原則に含まれている目的が実態上回避されることのないように立案されるべきである。
  11. IOSCO専門委員会は、アナリストの利益相反に対処するための「すべてにあてはまる(one-size-fits-all)」アプローチは存在しないことを認識しているが、原則の実施に当たり、一定の中核的措置(Core Measures)が非常に重要(critical)であることに合意している。これらの中核的措置(Core Measures)は、法制度や市場の発展度合にかかわらず、すべての国に適用されることを意図している。しかしながら、以下に述べるとおり、中核的措置の実施方法については、各国の固有の法的枠組み、法的権限及び市場の特徴を勘案して、国によって異なり得る。
  12. この声明には、原則に示されている目標を実現するためにIOSCOメンバー国が採用することがあり得る追加的な措置の例が挙げられている。これらの措置は、中核的措置とは異なり、すべての国に適用されることを意図しているものでは必ずしもない。これらの措置は、原則の実施に当たって、会社、自主規制機関や規制当局が各市場や法制度に合わせて検討することを望むかもしれない追加的措置である。
  13. 原則、中核的措置、その他措置のいずれも、それ自体がそのまま規制、ルール、行為規範又は会社の内部ルールとして用いられるために策定されたものではない。むしろ、原則及び措置の基礎をなす目的や概念は、各市場や法制度がいかに機能するかを勘案しつつ規制、ルールや規範を採用するに当たって考慮されるべきである。
  14. IOSCO専門委員会は、必要に応じて、原則及び措置を見直す考えである。
  15. IOSCO専門委員会はまた、IOSCOメンバーによる原則の実施状況をモニターする考えである。
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