英国における証券アナリストの利益相反問題-FSAによるコンサルテーション・ペーパー 205の公表(2003年10月)-

コンサルテーション・ペーパー 171で提示されたFSAの業務行為規約改正案に対し寄せられた意見に基づき、FSAは、更に、2003年10月にコンサルテーション・ペーパー 205「利益相反:投資調査と証券発行(Conflicts of Interest:Investment Research and Issues of Securities)」 を公表した。本ペーパー 205において、FSAは、業務行為規約の最終改正案を示し、その一部(証券アナリストの個人的取引に関する規則/ガイダンス、企業金融業務における利益相反問題に関するガイダンス)を2004年2月1日に施行するとした。なお、一部項目についてはコンサルテーション・ペーパー 171の提案を修正した新規提案を行い、これについては2003年12月24日を期限としてパブリック・コメントを求めた。
なお、FSAは、これら利益相反問題に関する規則・ガイダンスの導入にあたっては、国際的な規制機関の動きと整合性をとることに配慮しており、最終改正案は、2003年9月に公表された証券監督者国際機構(IOSCO)の「セルサイド証券アナリストの利益相反に対処するための原則」の中核的措置と矛盾しないとしている。更に、EUの市場不正指令(Market Abuse Directive、 2002年承認)および修正投資サービス指令(revised Investment Services Directive)の草案(2002年12月公布)における関連規定の内容にも概ね沿うものであるとしている。また、米国において導入されたアナリストの利益相反問題に関する規制は、これを参考として取り入れる一方で、a. アナリストがリサーチ・レポートにおいてリサーチの客観性について自ら宣誓する“self-certification”制度、b. 独立系リサーチ機関によるリサーチを投資家に提供することを証券会社に義務付けること等は、有効性に疑問があるとして採用していない。

最終改正案の概要
コンサルテーション・ペーパー 205で示された業務行為規約の最終改正案の概要1は次のとおりである。
1 コンサルテーション・ペーパー 205で示された最終改正案には、a. 投資リサーチにおける利益相反問題に関するガイダンス、b. アナリストの個人的取引に関する規則/ガイダンスのほか、c. IPO株割当ての濫用問題(スピニング等)に対応するために策定された、企業金融業務における利益相反問題に関するガイダンスが含まれるが、本稿では、証券アナリスト業務と直接関係しないc. の概要紹介は割愛した。

[投資リサーチにおける利益相反問題に関するガイダンス]

  • 会社の方針として、リサーチの受け手となる顧客の利益と相反する恐れのある職務(法人顧客の資金調達業務など)に就いている者が、次の業務を行うことを許容することは適切ではない。

    - アナリストを監督または管理すること。

    - リサーチの内容またはその発行のタイミングを決定すること(リサーチにおける事実関係を確認する場合を除く)。

    - アナリストの報酬を決定すること。

  • アナリストは、所属会社またはその顧客(発行会社)の利益を代表するような活動(例えばロードショーへの参加)が、投資の客観的な評価または見通しの提供と矛盾すると考えられる場合は、当該活動に参加すべきではない。
  • 会社の方針として、企業金融業務の機会の調査、セールスまたはトレーディング・スタッフへのアイデアの提供、あるいは投資顧客に対する情報・助言の提供のために、アナリストの知識・情報を使用することは許容される。ただし、次の行為を許容することは不適切であると考えられる。

    - 発行会社から業務を獲得するためのピッチ等、マーケティング活動にアナリストを使用すること。

    - アナリストがロードショー等に参加して発行会社を代表するように見える方法で行動することを許容すること。

  • アナリストの報酬体系は、客観的なリサーチの提供に矛盾するような動機をアナリストに与えることのないように設定されるべきである。また、アナリストの報酬は、特定の企業金融取引等にリンクさせるべきではないが、会社の収入全体にリンクさせることはできる。
  • 会社は、アナリストによる、投資または発行会社の評価ないし見通しが客観的なものとなるよう、次のような措置を採るべきである。

    - アナリストまたはその他の従業員が、好意的なリサーチの提供を申し出ること、またはそのような要請を受け入れることを禁止すること。

    - アナリスト以外の者(例えば、発行会社)がリサーチの内容をその発行前に承認することを禁止すること(リサーチにおける事実関係を確認する場合を除く)。

なお、コンサルテーション・ペーパー 171で提案されていた休止期間(quiet period)ルール、すなわち、IPOの(共同)幹事である会社または引受を行う会社が、目論見書発行後30日間、リサーチの発行またはパブリック・アピアランスによる投資推奨等を行うことを禁止することは、ペーパー 205では取り下げられ、各会社の利益相反管理のための内規に委ねるとした。
また、ペーパー 171で提案されていた、会社が、ある投資または発行会社の調査を取りやめることとした場合には、その旨および理由を顧客に通知する措置については、EUの市場不正指令 (MAD)の本件に関する規則実施を待って検討するとした。
更に、ペーパー 171で提案されていた利益相反に関する開示項目については、EUの市場不正指令(MDA)における開示規則の実施(2004年)を踏まえて引続き検討するとし、ペーパー205の業務行為規約最終改正案には含まれていない。

[アナリストの個人的取引に関する規則/ガイダンス]

  • アナリストは、顧客に公表または配布される、投資または発行会社に関するリサーチを作成する場合には、これらに係る個人的取引を行うことを禁止される。ただし、次の場合を除く。

    - アナリストが行った投資推奨に反しない個人的取引

    - 事情により、保有する投資またはポジションを現金化するために行う個人的取引で、会社が書面により許可した場合

  • 会社は、利益相反の性格を考慮して、次のような決定を行うことができる。

    - アナリストの個人的取引を全面的に禁止すること。

    - アナリストが投資または発行会社に関するリサーチを作成する場合には、これらに係るアナリストの個人的取引を禁止すること。

    - リサーチ発行前後の一定期間についてアナリストの個人的取引を禁止すること。

また、会社の自己取引に関しても、会社が顧客に対するリサーチの公表または配布を予定している場合は、会社は、顧客が当該リサーチに基づき行動する適切な機会を有するに至るまで、当該投資に係る自己取引を意図的に行うことは禁止される。

新規提案
FSAは、コンサルテーション・ペーパー 171に対して寄せられた意見を踏まえて、新たに次のような提案を行い、コメントを求めた。
リサーチの定義
利益相反問題の管理の対象となる「リサーチ」とは、投資価値について客観的な評価を行っているリサーチであると対外的に示される(held out to)、もしくはリサーチの受け手によってそのように認識されるリサーチであるとすること。
これは、リサーチの定義が広すぎ、明らかにリサーチとはいえないもの(マーケティング資料等)まで含まれてしまう恐れがあるとの意見を受けて、修正されたものであるが、具体的に何が「客観的な」リサーチに該当するかは会社の経営幹部(senior management)の判断に委ねるとしている。
利益相反を管理するための会社の方針
リサーチを提供する会社に対し、リサーチについて生じる恐れのある利益相反問題を管理するための方針を予め文書化して実施させることとするとともに、当該方針を一般からの求めに応じて提供可能とすることを義務付けること。そのような方針は、会社の規模、組織体制、顧客の知識水準、投資対象の性格等を含む、会社のビジネス・モデルにとって適切なものでなければならないとし、会社の方針として最低限規定しなければならない項目(注)を定めている。
(注)(a)利益相反の認識、(b)アナリストの監督・管理、(c)アナリストの報酬体制、(d)アナリストがリサーチ作成以外の活動に関与することが可能な範囲、(e)アナリスト等が、発行会社またはリサーチの内容に重要な利害を有するその他の者から受け取ることが可能な誘引 (inducements)の範囲、(f)リサーチの公表前にリサーチ案についてコメントできる者およびそのコメントを考慮するプロセス、(g)リサーチの発行・配布のタイミングと方法、(h)リサーチに含めることが適切な情報または開示。
 FSAは、当初から、利益相反問題を適切に管理する責任は会社の経営幹部にあるという考え方を基本としているが、この新たな修正によって、会社および経営幹部の責任の比重を一層高めた。
適用対象となる会社および投資の種類
顧客に公表・配布するための投資リサーチを作成、または顧客に投資リサーチを公表・配布する会社(firm)を適用対象とし、また、「投資」対象には株式のほか、債券、デリバティブを含む。ただし、会社内での利用を目的として作成されるリサーチは除外される。
これは、投資リサーチにおける利益相反問題はセルサイドに限定されるものではなく、広範かつ多様な状況において発生し得るため、投資リサーチに関する改正業務行為規約が様々なタイプの会社に柔軟に適用されることが可能となるよう、敢えて“sell-side firms”とせず、上記のように規定し直すこととしたものである。また、投資対象についても、利益相反問題は株式に限定されるものではないとして、債券、デリバティブまで含めるとしている。これらは、EU指令およびIOSCO原則(第1章の脚注1)における内容とも合致するとしているが、米国ではセルサイドおよび主に株式について規制が導入された点と比べると適用対象がより広範になっているといえる。
コンサルテーション・ペーパー 205で公表された業務行為規約の最終改正案のうち、投資リサーチにおける利益相反問題に関するガイダンスについては、上述の新規提案に関するパブリック・ コメントを受けて更に検討が行われているもようである。また、アナリストの個人的取引に関する規則/ガイダンスは2004年2月1日に施行される運びである。

【本稿は、『証券アナリストジャーナル』2002年10月号、2003年4月号の「職業倫理を巡って」欄に掲載された 記事を再編し、最近の状況を補完して収録したものである。】

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