詳細

1.FDルール導入に対する全般的評価

  • 回答者全体では78%が【高く評価する】または【ある程度評価する】と回答し、【あまり評価できない】または【評価できない】の22%を大きく上回った。 図表1
  • セルサイドの83%、バイサイドの73%が【高く評価する】または【ある程度評価する】と回答した。
  • 『世界の主要な金融市場である日本市場の健全性をアピールすることに繋がる』、『より迅速に情報を開示する動きに繋がる』など株式市場の活性化に資するなどを評価する一方で、『公平性を過大に重視し過ぎると、情報開示の後退を招き、かえって市場の短期志向を助長させる恐れがある』、『FDルールの対象外の情報受領者から二次的に発信される情報により、株価が大きく変動する』というリスクを懸念する声もあった。

2.TF報告書で謳われているFDルールの積極的意義の評価

(1)[発行者側の情報開示ルールを整備・明確化することで、ひいては発行者による早期の情報開示を促進し、投資家との対話を促進する]という積極的意義

  • 回答者全体では56%が【対話を促進する】または【ある程度促進に役立つ】と回答し、【情報後退により対話がしにくくなる】の44%と評価は拮抗することとなった。 図表2
  • セルサイドの58%、バイサイドの48%が【対話を促進する】または【ある程度促進に役立つ】と回答したが、バイサイドにおいては52%が【情報開示が後退し、対話がしにくくなる】と回答した。
  • 『従前に比べ情報開示が促進した』という声がある一方で、『スモールミーティング及びワンオンワンミーティングの取り止めが増えた』、『競争上の観点を理由に従前提供されてきた情報が提供されなくなった』、『従前より開示範囲を狭めたり、または、定量情報をよりアバウトに変更した』など、情報開示後退を懸念する声が相応にあった。

(2)[アナリストによる、より客観的で正確な分析及び推奨が行われるための環境を整備する]という積極的意義

  • 回答者全体では64%が【環境の整備に役立つ】または【ある程度役立つ】と回答し、【あまり環境の整備に役立たない】または【役立たない】の36%を上回った。 図表3
  • セルサイドの64%、バイサイドの67%が【環境の整備に役立つ】または【ある程度役立つ】と回答し、双方とも同様な評価となった。
  • 『取材の機動力ではなく、企業の本源的価値を見出す重要性が増し、企業との対話を通じて合理的な業績予想や企業価値分析を行う環境が整う』と評価する一方で、『情報開示後退により分 析の正確性が低下したり、情報受領者間で情報範囲に関する解釈の違いで情報の非対称性が生ずる影響』などを懸念する声もあった。

(3)[発行者による情報開示のタイミングを公平にすることで、いわゆる「早耳情報」に基づく短期的なトレーディングを行うのでなく、中長期的な視点に立って投資を行うという投資家の意識改革を促す]という積極的意義

  • 回答者全体では60%が【意識改革を促す】または【ある程度促す】と回答し、【あまり意識改革に役立たない】または【役立たない】の40%を上回った。 図表4
  • セルサイドの58%、バイサイドの63%が【意識改革を促す】または【ある程度促す】と回答した。
  • 『早耳情報による株価変動がなくなるため、中長期的視点での投資にならざる得ず意識改革に資する』と評価する一方で、『短期情報で鞘取りを図ろうとする投資家(例えば、ヘッジファンド)が多数存在する以上、当該投資家の志向そのものを変えることはできない』、『投資家の志向を決める要因に対してFDルールは影響を与えるものではない』など意識改革には繋がらないとの声もあった。

3.FDルールの「重要な情報」の範囲から除外すべきと考える情報

  • TF報告書によれば、発行者と投資家との対話の中で何が重要な情報であるかについてプラクティスを積み上げることができるようにするのが望ましいとされており、そうしたことを踏まえ回答者は、以下の情報は業務に支障があり、『モザイク情報』として「重要な情報」の範囲から除外すべきとの回答があった。

(1) 将来情報 ➡回答者は、93名の内、いずれの情報とも70名強

 ① 業績予想変動をもたらす機会とリスク
 ② 業績予想の前提及び中期経営計画の詳細情報
 ③ 業績予想の前提の変化に対する感応度分析
 ④ 業績予想の前提と異なる仮定に基づく考え方の議論
 ⑤ 財務戦略、事業戦略

(2) 過去情報 ➡回答者は、93名の内、①は80名強、②~④は70名強、⑤~⑥は70名弱

 ① セグメント別、部門別受注・売上の詳細、販売数量、価格、市場シェアと、その変動要因
 ② 業績予想修正の要因、決算変動要因、月次売上情報
 ③ 各業界特有のオペレーティング測定基準と、その変動要因
 ④ 決算の資産・負債科目の詳細内訳と、その変動要因
 ⑤ 経営陣の事業環境に対する認識(市場規模、競争状況、技術動向、海外企業動向など)
 ⑥ 財務戦略、事業戦略

 

4.情報の公表方法として発行者のホームページへの掲載が認められた点についての評価

  • 回答者全体では95%が【高く評価する】または【ある程度評価する】と回答し、【あまり評価できない】または【評価できない】の5%を大きく上回った。 図表5
  • セルサイドの95%、バイサイドの93%が【高く評価する】または【ある程度評価する】と回答し、双方とも同様な評価であった。
  • 『開示のハードルが下がり、適時性及び弾力性が向上する』と大半の回答者が評価する一方で、『EDINET及び TDnetの利便性の向上が本筋である』、『ホームページでは遡及的修正や抹消が可能となる』、『競合企業への情報漏洩を恐れるため、ホームページでの公表開示が進まない』、『メールによるホームページへの案内が別途必要』など懸念の声もあった。

5.建設的な対話を促進するための環境整備

発行者と投資家との建設的な対話を促進するための環境整備として、関係者に対し、次のコメントがあった。

(1) 企業

  • 情報開示ルール「ディスクロージャーポリシー」の制定と公表
  • ディファレンシャルディスクロージャー(相手レベルに応じた開示)の運用
  • 統合報告書など含む積極的な情報開示への体制整備
  • メディアに対する規律ある情報開示の体制整備

(2) 金融庁

  • 周知徹底を目的とした説明会の開催
  • 「法人関係情報」との関係を含む実務対応を踏まえた極力明確なガイドラインの策定
  • 運用実情を踏まえたタイムリーな制度の改善と見直し

(3) メディア

  • 既にFDルールが実施されている諸外国の報道の事例などを踏まえ、資本市場の健全な発展に資する報道

6.FDルール導入を踏まえたアナリストの業務における変化とそれを受けたあるべき姿

FDルールがもたらす業務の変化や、それを受けたアナリストのあるべき姿は、当協会の会員であるアナリスト、協会そのものの在り方を問う非常に重要かつ議論を呼び得るテーマである。

従って、当研究会のみならず当協会全体、あるいはアナリスト情報の利用者、事業会社、学識経験者など外部有識者の意見も取り入れつつ、慎重に検討、議論すべきであると考える。

他方、今回の当研究会アンケートでは、こうしたテーマについても見解を問うているので、そうした意見の主だったものを紹介しておく。

ただし、以下に記載した内容は現時点での、アンケート回答者の個人的見解をまとめたものであり、当研究会の総意として発信するものではないことを留意されたい。

(1) 業務における変化

前向きな変化を想定する意見

  • より高い分析や経営陣との建設的な対話が出来るよう技術の向上や必要知識の習得、維持が求められる。
  • 「早耳情報」がなくなることから投機から投資への回帰など前向きな変化がある。

否定的な影響を懸念する意見

  • 発行者の消極的な情報開示姿勢により、分析力や判断力が表面的なものに終始することで、資本市場を混乱させる。
  • 短期志向の投資家ニーズも強いことから、短期の業績予想の有用性は逆に高まる。
  • 短期志向・長期志向の様々な市場参加者が存在することで資本市場は健全に機能するため、過度に短期志向の投資家を排除する方向は市場の多様性の阻害要因となる。

(2) あるべき姿

あるべき姿については、より中長期的視点が重要とのコメントが多かったが、他方、投資家ニーズに即して短期・中長期とも重要とのコメントも相当程度あった。

  • 企業の本源的価値の評価と市場における評価との差額を分析し提示することを通じて、株式市場の効率性及び透明性を向上させること。
  • インベストメントチェーンの中での企業の成長とステークホルダーの利益拡大という命題に対して、客観的且つ独立した分析や意見の必要性が求められること。
  • 公開情報を徹底的に分析、仮説を立て企業側と対話を通じて企業の生み出すキャッシュフローに基づいた企業価値を推定すること、こうした作業を通じて成長性のある企業や市場が不当に低い評価を与えている企業の妥当株価を発見することに貢献すること。
  • 個人投資家及び機関投資家に対して適切な収益機会を提供すること。
  • 短期・中長期ともバランスを持ったリサーチ活動の心がけが求められること。
  • 投資家ニーズがある以上、短期的な決算の着地などの情報発信も必要なこと。
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