証券アナリストジャーナル賞

論文審査の経緯ならびに結果について(論文審査委員会報告)

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  加藤 康之

1.論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は、2023年4月号から2024年3月号に掲載された論文およびノート、計61編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は、慣例により本賞の対象外としている。

第1段階: 編集委員(32名)とモニター(6名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2024年3月に実施)。

第2段階: 4月12日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、研究者委員および実務家委員の計8名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった8編の論文につき精査し、受賞論文を予備選定。

第3段階: 5月10日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

2.選考結果

次の2編を受賞論文として選定した(掲載順)。

  • 新倉広子・内山朋規・角間和男「サステナブル投資の機能とポートフォリオ選択への応用」(2023年10月号)
  • 島田俊寛「国内株式投資信託のパフォーマンス継続要因―保有銘柄データを用いた分析―」(2023年11月号)

    今回は、審査第1段階でこの二つの論文に審査員の高い支持が集まった。双方ともオーソドックスなテーマを扱っているが、それぞれ独自の付加価値を提供している点が評価された。

選考結果(1) 新倉広子・内山朋規・角間和男(2023年10月号)

「サステナブル投資の機能とポートフォリオ選択への応用」PDFアイコン(544KB)

選定理由

新倉・内山・角間各氏の論文は、サステナブル投資という最も関心の高いテーマの一つを扱っているが、その貢献はサステナブル投資におけるポートフォリオ選択の理論的な枠組みを与えようとしたことにある。

昨今のサステナブル投資に関する研究では、ESG関連データと企業価値等との関係を実証的に検証するデータ分析が多い。その中で、本論文が理論的なフレームワークの構築に挑戦したことは高く評価できる。筆者らはまず、企業価値をキャッシュフロー割引モデルで表現し、ESG選好がモデルのキャッシュフロー経由あるいは割引率経由で企業価値等に与える影響を分かりやすく整理した。次に、ポートフォリオ選択の理論的枠組みを提示し、ベンチマークを想定した上で、ESG選好の度合いから最適ポートフォリオを解析的に求めた。ポートフォリオは、通常のリスク回避度に加えてESG選好度によって決まり、それがニュートラルの場合は、通常の平均分散ポートフォリオと同じになり扱いやすい。また、①ESG選好を考慮したCAPM、②市場ファクターとESGファクターからなる2ファクターモデルの二つを導出し、ESGベータによるポートフォリオ管理を提案した点は、実務的に有用であろう。

最後に、応用例としてカントリーアロケーションを取り上げて理解度を高めている。
本論文では非金銭的なESG選好を持つ投資家を想定しているが、ESG投資の主力であり受託者責任を有する機関投資家の多くは、長期的ではあるが金銭的なESG選好を持っている。筆者らには、次の課題として、その場合の理論的枠組みの考察も期待したい。

選考結果(2) 島田俊寛(2023年11月号)

「国内株式投資信託のパフォーマンス継続要因―保有銘柄データを用いた分析―」PDFアイコン(711KB)

島田氏の論文は、株式投資信託のパフォーマンス評価という古くからあるテーマを扱っているが、その貢献は投資信託の保有銘柄データまでさかのぼり、丁寧かつ厳密に分析したことである。また、パフォーマンスの継続性の要因分析にも応用し、ファンド選択上の知見に結びつけるという追加的な価値を提供した。

筆者は、まずGrinblatt and Titman[1993]が提示した銘柄選択能力指標、および、Daniel et al.[1997]が提示したスタイル効果を分離するための指標を取り上げた。これらの指標で、母集団の698ファンドを分析している。その結果、スタイル調整前の銘柄選択能力を表す指標は負の値を示したが、スタイル調整後の銘柄選択能力を表す指標は正で有意であった。この結果は、投資信託の投資家にとって重要な知見を提供するだろう。

次に、パフォーマンスの継続性に資する要因を明らかにして、ファンド選択の方法を見いだす分析を行った。まず、パフォーマンスの継続性を分位ポートフォリオで検証し、パフォーマンスの継続性が有意であることを示した。その上で、継続する要因を見いだすため、前半で分析した各指標の継続性への貢献を評価した。その結果、スタイル調整後の銘柄選択能力が継続性に貢献している一方で、スタイル選択は貢献していないことを示した。これらの結果は、アクティブ運用の価値やその採用方法に重要な示唆を与えている。

なお、筆者も指摘しているように、低いデータ更新頻度など課題はあるが、それを補う十分な知見が示されていると言えるだろう。また、昨今、パッシブ運用に押され気味のアクティブ運用に対する関心を高める追加的な効果も期待できる。

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