証券アナリストジャーナル賞

論文審査の経緯ならびに結果について(論文審査委員会報告)

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  加藤 康之

1.論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は、2025年4月号から2026年3月号に掲載された論文およびノート、計60編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の3つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は、慣例により本賞の対象外としている。

第1段階: 編集委員(32名)とモニター(6名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2026年3月に実施)。

第2段階: 4月10日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、研究者委員および実務家委員の計9名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった10編の論文につき精査し、受賞論文を予備選定。

第3段階: 5月8日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

2.選考結果

今回の選定では、以下の5編が僅差で最終候補に残った(掲載順)。

  • 2025年4月号「株式ファクター投資戦略の再検討」西内翔氏
  • 2025年9月号「日本企業を対象とした機械学習による利益変化の符号予測の有用性」鄭民雋氏
  • 2025年10月号「政策保有株式の解消が短期株価に与える影響」松尾美沙氏
  • 2025年11月号「ESG時代における企業D&Iコミュニケーション―統合報告書の視覚的表現と人的資本管理評価―」崎濱栄治氏
  • 2026年3月号「ファンド・レーティングは有用か?―投資家行動とパフォーマンス予測性の実証分析―」阿南晏樹氏

いずれも興味深い内容であったが、最終的に次の2編を受賞論文として選定した(掲載順)。

  • 2025年4月号「株式ファクター投資戦略の再検討」西内翔氏
  • 2025年9月号「日本企業を対象とした機械学習による利益変化の符号予測の有用性」鄭民雋氏

今回の審査では、編集委員の間でも意見の集約が難しかった。その中で、この2論文は、それぞれファクター投資や機械学習による利益予想という読者の関心あるテーマに意欲的に取り組んだものとして最終的に選定された。

選考結果(1) 西内翔(2025年4月号)

「株式ファクター投資戦略の再検討」PDFアイコン(1,561KB)

選定理由

 西内論文は、日本市場における株式ファクター戦略のパフォーマンスを検証したものである。本稿でも指摘されているように、一時期、大きな注目を浴びたファクター投資やスマートベータについては最近聞くことが少なくなっている。筆者は、その理由として、ファクター投資のパフォーマンスが必ずしも期待通りでなかったためではないかと考えた。本稿はその背景にある理由を明らかにしようとする意欲的な取り組みである。筆者は、その理由を検証するために、米国の先行研究を参考に選んだ16個のファクターを対象にして、4つの要因を取り上げた。それらは、取引コストの不適切な扱い、リスクプレミアム水準の変化、ファクターリターン時系列構造の変化、そして、ファクター選択のための過去データ参照期間、であり、一般に関心の高いと思われる項目を選択している。そして、これらの要因がパフォーマンスに負の影響をもたらしたかどうかを実証的に分析した。その結果、取引コストを控除すると長期的に有効なファクターが少なかったこと、一部のファクターについてアルファの反転が観測されたこと、時系列構造を仮定したモメンタム戦略に負の効果があったこと、そして、過去数年間のみの参照期間では投資開始後の分布と大きな乖離が生じること、を示した。以上のように、多面的な実証分析を行い興味深い結果を示したことが高く評価された。また、読者の関心も高かった。一方、本稿で対象としたファクターは米国市場の先行論文で使われているファクターをベースにしたものであり、今後は日本市場固有のファクターについても研究を期待したい。

 

選考結果(2) 鄭民雋(2025年9月)

「日本企業を対象とした機械学習による利益変化の符号予測の有用性」PDFアイコン(456KB)

選定理由

 鄭論文は、日本の上場企業を対象として、機械学習を用いた利益予測の精度を検証したものである。日本では利益予測に機械学習を導入した研究例は多いとはいえず、新しい分野の先駆的な研究として評価された。本稿の目的は、機械学習を利用した利益変化の符号の予測精度を検証し、その結果を投資戦略に応用することである。さらに、ブラックボックスになりがちな機械学習による予測の背後にある論理的構造を明らかにし、その実務的有用性を高めようとしている。予測に利用された変数はベンチマークである経営者予想に加えて、財務諸表に基づく定量的なデータ等である。機械学習はランダムフォレストを採用し、過去の時系列データを時間軸に沿って丁寧に学習させている。分析の結果、予測精度の高い観測値に限定すると経営者予想に比較して高い精度を示し、機械学習による予測に基づいたヘッジポートフォリオは有意な超過リターンをもたらした。また、予測プロセスに影響を与えた変数としては、経営者予想に加えて、株価関連指標や会計指標も影響していることが示された。これは、経営者予想を客観的な数値情報が補足していると考えられる。一方、ヘッジポートフォリオの超過リターンを含め、結果の妥当性については追加的な頑健性の検証が望まれる。加えて、経営者予想は企業の政策的な判断も含まれる可能性があり、ベンチマークとして検討の余地がある。さらに、機械学習の必要性や優位性についての議論も期待したい。本稿を、機械学習を利用する研究のスタート地点にしてさらに研究を深めてほしい。

 

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