証券アナリストジャーナル賞

論文審査の経緯ならびに結果について(論文審査委員会報告)

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  川北 英隆

論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は、2019年4月号から2020年3月号に掲載された論文及びノート、計62編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員及びモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は、慣例により本賞の対象外としている。

第1段階:編集委員(31名)とモニター(6名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2020年3月に実施)。

第2段階:4月10日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員の計7名で構成)をウェブ会議により開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった10編の論文につき精査し、受賞論文を予備選定。

第3段階:全編集委員による審査委員会を書面方式により開催、5月8日、予備審査委員会で選定された受賞候補論文を受賞作として決定。

選考結果(1) 饗場行洋・伊藤健・井辺洋平(2019年5月号)

「ESG格付のネットワーク構造が示す新しい企業戦略―進化する、定性データの定量化技術―」PDFアイコン(1,290KB)

選定理由

饗場・伊藤・井辺論文は、ESG格付と企業が開示する情報の関連性を、文書ベースデータを用いて分析したものである。

分析の方法として最初、ESGに関する文書ベースの開示情報を、サステナビリティ報告書において広く利用されているGRI(Global Reporting Initiative)の枠組みに合わせつつ収集する。次に、ESG格付の評価項目とGRIの開示項目の類似度を、AI技術を用いて計算する。更に、ここで計算した類似度と、先に体系的に収集した開示情報を用い、ESG格付の枠組みの中での企業ごとの開示度を計算、集計する。最後にESG格付(スコア)と集計した開示度の回帰分析を行う。この回帰分析の結果、有意な関係が得られている。

以上の分析から、ESG格付を定量的に予測できるモデルが構築できたとする。また、このモデルを用いれば、企業が戦略的に情報開示する上での指針が得られるとする。

本論文の価値は、文書ベースのデータを体系的に収集したことと、そのデータをAI技術に基づいて処理したことにある。加えて、定性的なデータに基づいて構築された情報(本論文であればESG格付)を、外部者が類似性高く再現したことにある。もっとも、分析結果が十分に記されておらず、ブラックボックスになっている印象を拭えないとの意見があったことを付け加えておきたい。

今後の課題として、単純な情報の再現にとどまらず、例えば、現存するESG格付の構造を分析し、更に質の高い格付けの構築を試みることなどが指摘できる。この点を裏返せば、本論文が発展性の高い分析を試みているからこその課題だとも言える。

選考結果(2) 石川康・長谷川恭司(2019年6月号)

「日本企業の人材投資効率と株主価値」PDFアイコン(3,042KB)

選定理由

石川・長谷川論文は、日本企業の人材投資効率と労働生産性を計測し、これらと株式投資リターンとの関係を分析したものである。 本論文において、労働生産性とは、付加価値(=営業利益+減価償却費+人件費)を人件費で割った値(言い換えれば労働分配率の逆数)としている。人材投資効率とは、従業員数の変化率を説明変数として2年後の労働生産性の変化を被説明変数とした場合の回帰係数としている。本論文ではTOPIX 500構成企業に関して、この労働生産性と人材投資効率を計測し、これらと株式リターンとの関係を分析している。

分析の結果、人材投資効率が高い企業の株式リターンは相対的に高いことと、この傾向は労働生産性が低い(言い換えれば労働分配率が高い)企業において顕著になるとの結果が得られたとする。また、分析の結果は海外を含めた先行研究とも整合的であるとする。

本論文の価値は、人材の効率的な活用が要請されている日本企業に対して、労働生産性の観点から計量分析の結果を示したことと、経営に対する示唆を与えたことにある。

今後の課題は、筆者が指摘しているように、この分析のベースとなる付加価値や労働生産性のデータが単体決算のものであり、海外子会社などのデータが含まれないことにある。株式リターンは連結決算と関連しているため、本論文の分析結果との関係が議論となり得る。ただし、この点は、会計情報が完備していないことに起因しているため、本論文の価値を損なうものではない。

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