社団法人日本証券アナリスト協会創立40周年を迎えて-高度の職業倫理の維持に努め、資本市場の活性化に一層の貢献を-

社団法人 日本証券アナリスト協会 会長 金子 昌資

はじめに
本年10月に社団法人日本証券アナリスト協会は創立40周年を迎えました。この40年の間に、証券アナリストという職業に対する社会の認知度は格段に高まりました。また協会の会員数も大幅に増大しました。会員数の推移を見ますと、第二次レベルの試験に合格したCMA(検定会員)の最初の誕生は1981年でしたが、その時の人数は241名でありました。それが本年10月には 17,000人強に達し、これに個人一般会員、法人・賛助会員を加えますと会員総数は約17,800名となっております。また協会の事業の内容も年々充実してまいりました。かつて証券アナリストとしての仕事を経験した者としてこのような推移を見ると感無量のものがあります。
現在、日本経済は一部に持ち直しの動きが見られるものの、米国景気の先行き不安などもあって依然として厳しい状況にあり、証券アナリストが属する証券・金融界も厳しい経営環境に直面しております。
こうした中ではありますが、私は証券アナリストという専門的職業は、今後これまで以上に重要性を増していくと考えております。間接金融から直接金融へのシフト、すなわち資本市場の拡大という大きな流れは今後ますます加速していくことが確実であり、その資本市場が活性化され十分に機能を果たすためには証券アナリストは不可欠の存在であると考えるからであります。
当協会としては、一段と効率的な事業運営を図りつつ、証券アナリストの育成、地位向上にさらなる努力を続けながら、わが国の証券アナリスト人口をより一層拡大していく方向で協会の関係事業を積極的に見直してまいりたいと考えております。

証券アナリストの役割と職業倫理の重要性
証券アナリストは、投資家のために投資情報の提供、投資推奨あるいは投資管理を行っているわけでありますが、これらの業務を通じ、日本の21世紀を牽引するリーディング産業の担い手企業に円滑な資金供給を行い、他方で高齢化社会において多様で魅力ある投資対象を投資家に提供することに貢献しています。その意味で、証券アナリストは資本の流れに影響を与えることを通じ、現下の日本経済の最大の課題である構造改革と高齢化社会への対応にも深くかかわる役割を果たしていると言ってもよいと思います。
このような重要な役割を証券アナリストが果たしていくためには、投資家からの信頼の確立が前提となります。そして信頼の確立のためには専門家としての技術・知識の向上と並んで、職業 倫理の維持・高揚が不可欠であります。

職業倫理を巡る米国の動き
皆様ご承知のように米国においては、証券アナリストに対する批判が昨年春ごろから始まりました。これに対応し、SIA(米国証券業者協会)などが対応措置を打ち出し、一時鎮静化したかに見えましたが、エンロンの破綻以来の一連の米国企業の不祥事が大きな問題となる中で、証券アナリストも批判の対象になったこと、ニューヨーク州の司法長官が異例にも証券アナリストの利益相反問題の調査に乗り出したこと等から、本年に入ってからも証券アナリストを巡る問題が米国で大きな話題として取り上げられてきました。証券アナリスト批判の高まりに対応し、本年5月にはNASD(全米証券業協会)、NYSE(ニューヨーク証券取引所)が証券アナリストの利益相反に関する新たなレギュレーションを制定しました。
昨年以来の証券アナリスト批判によって、米国のリサーチ・アナリストに対する信頼は大きな影響を受けており、リサーチ・アナリストという専門的職業がかつてのような評価を取り戻すためには今後大変な努力が必要になっている状況であります。エンロンの事件では、ご承知のとおり、公認会計士に対して職業倫理の観点から厳しい批判があり、企業会計の監査のあり方にかかわる大きな制度改革が行われたところであります。このような米国における一連の事態は、証券アナリストや公認会計士といった知的専門職業が社会の信頼を得て、役割を果たしていくためには、専門的知識・能力と並んで高度の職業倫理の実践がいかに大切かを示すものであると考えます。

わが国における職業倫理への取り組み
日本でも昨年夏、ある証券アナリスト(当協会の会員ではありません)の作成したレポートの数字が正確性を欠いたためそのレポートを配布した証券会社が行政処分を受けるという事例があり、折から米国での証券アナリスト批判が話題になっていたこともあいまって、証券アナリストの職業倫理が注目を集めることとなりました。
このような事態を考慮し、私は昨年8月に会長に就任して以来職業倫理の確立を最重要施策として取り組んでまいりました。具体的には、職業倫理高揚のため取るべき施策のあり方につき規律委員会による検討を要請し、同委員会は昨年夏から本年1月にかけて精力的に審議を行いました。規律委員会の検討成果は、「証券アナリストの職業倫理を高めるために」というタイトルの文書にまとめられ、本年4月に全会員に配布されたところであります。その文書で提案された職業行為基準の改正案は6月の総会で承認され既に施行になっております。さらに、その他協会が行うべきものとして提言された施策も着実に実施してきております。
また、本年春には、ある会員が担当する会社の広告に登場するというケースがあったことから、この種のケースを職業倫理の観点からどう考えるべきかを規律委員会において検討を行い、その結果を取りまとめ発表したところであります。
「証券アナリストの職業倫理を高めるために」の中でも触れられておりますが、私は、証券アナリストの職業倫理を高めていくためには、二正面から取り組んでいく必要があると考えております。まず第一に、個々の証券アナリストが職業行為基準を遵守し、公正かつ客観的な証券分析業務を行うよう努めることが基本であります。同時に、その証券アナリストが所属する会社において証券分析業務の独立性、客観性が保持されるよう必要な体制や環境の整備が行われることも不可欠であります。
このため、本年の職業行為基準の改正におきましては、投資推奨等の業務に従事する会員による担当する証券に対する個人的投資の原則禁止、また、いわゆるリサーチ・フロントランニングの禁止の明確化など個人会員の守るべき義務を強化するとともに、法人会員が、その構成員である個人会員による証券分析業務の独立性および客観性が確保されるよう努めなければならないとの規定を設けたところであります。
また、本年1月には日本証券業協会におかれては「証券会社における調査部門の在り方等に関する諸問題検討ワーキング」の検討結果に基づき、理事会決議「アナリスト・レポートの取扱い等について」が制定されました。この決議は、アナリスト・レポートにかかる社内審査、情報の管理、アナリストの意見の独立性の確保等に関し証券会社が守るべきルールを定めたものであります。これらに基づき、個人会員の皆様が職業倫理の実践に努められるとともに、個人会員が在籍する会社において証券分析業務の独立性、客観性を守るための体制や環境の整備が進捗することを切に望むものであります。
なお、日本証券業協会では、本年9月、金融庁の「証券市場の改革促進プログラム」を受け、前記ワーキングを再開され、最近における国際的な動向を踏まえつつ、上記理事会決議の見直しを始められたところであります。当協会としてもこのワーキングに積極的に参加し、証券アナリストの立場から意見を表明していくつもりであります。

投資家の信頼の確保と資本市場活性化への貢献
米国においては、企業会計の不正問題が米国資本主義のあり方の基本にかかわる問題として議論されている一方、わが国においても一部企業におけるスキャンダルが大きな話題となっております。これらの事例を通じ、痛切に感じますのは、信頼の崩壊は一日にして生じ得るが、その回復には年単位の時間を要するということであります。わが国に比し、早くから証券アナリストという職業が確立し、その社会的な地位も高かった米国においても、一連の証券アナリスト批判により証券アナリスト、特にリサーチ・アナリストは、先ほど述べたように難しい状況に置かれております。
証券アナリストを巡る状況は、日米で同一ではなく、米国の状況がそのままわが国に当てはまるものではありません。しかし、グローバル化の進展により世界の資本市場が同質性を高めつつあることを考えると、わが国資本市場関係者は、米国における事態を対岸の火事として見るべきではないと考えます。十分な注意を払わねば、わが国でも米国と同じような状況が生じないとは言えません。証券アナリストが、投資家に対する投資情報の提供、投資推奨、また投資管理を通じて、資本市場の活性化、ひいてはわが国経済の再生に寄与するためにも、職業倫理を実践し社会の信頼を確保していくことは最優先の課題と考えます。当協会としても、今後引き続き職業倫理の確立を最優先の課題として取り組み、必要な施策を進めていくとともに、不幸にして職業行為基準に違反するような事例が生じた場合は、然るべき手続きにのっとり厳正な対応を行っていく所存であります。
40周年という記念すべき機会に、個人会員の皆様が改めて職業倫理の維持・高揚に思いを致され、また個人会員が所属する会社におかれても個人会員が独立性と客観性を持って証券分析業務に従事できるようにするための環境整備に一層の注力をされることを切に望むものであります。

【本稿は、平成14年10月4日に開催された第17回日本証券アナリスト大会における、金子会長のメッセージを収録したものである。】

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