ディスクロージャー研究会としての企業への要望

(1) IR見直しにあたっての基本的要望

各企業が、公平かつ公正な情報提供を推進するという観点からIRの見直しをされていく場合には、現在提供されている情報の質と量を全体として維持・充実する方向で進めて頂きたい。すなわち、これまで説明会・ミーティング等の機会を通じて証券アナリストに提供されていた情報については、一般投資家と証券アナリストの衡平を図るためにその提供を取りやめるといういわば縮小均衡の方向ではなく、これを一般投資家にも提供することにより情報提供の公平性・公正性を図るという拡大均衡の方向で進めて頂くようお願いしたい。それにより市場における企業の評価も適正に行われることになろう。米国では一部関係者の間に、企業がFDの規制を遵守することを重視するあまりに企業の情報発信に水が掛けられ、市場に発信される情報が減少してしまう効果(chilling effect)を生ずるのではないかとの懸念が示されているが、わが国においても公平性・公正性を重視する結果、市場に提供される情報量が減少するというようなことにならないよう注意していく必要があると考える。

証券アナリストは、企業にとって良い情報も悪い情報も含め企業に関する情報を客観的、体系的、総合的に分析・評価し、一般投資家の投資判断に資するような形で提供する。多くの場合、企業が市場に発信する情報は、 それだけではその意味するところが一般投資家に分かりにくいことがある。企業が発信する情報を企業の価値判断ができる資料とするためには、 専門家である証券アナリストが専門的な技術を発揮し、それまでに蓄積した情報と照合し、さらに場合によっては追加的な開示を受けて分析・評価する作業が必要と考える。企業のIRは、企業価値を高めるための方策を考えていく市場との対話の過程であるとも言われるが、このような対話において証券会社や機関投資家の証券アナリストは、当該企業に関してはもとよりその企業が属する産業全体についての知識を持ち、また財務や証券市場の分析のための専門的な技術・知識を持った重要な対話の相手方である。各企業におかれて、IRの見直しをされる場合には、このような証券アナリストの役割を十分に認識して進めていただくようお願いしたい。選択的情報開示を回避するという点を強調するあまり、結果的に証券アナリストに対して提供される情報の質・量が後退することになれば、それはアナリスト・レポートなどを通じて投資家に提供される情報の質や量が低下することにつながり、むしろ資本市場にとってマイナスとなることが懸念される。

(2) 証券アナリストとのミーティングや工場見学について

最近幾つかの企業において説明会等を証券アナリストと報道関係者合同で行うという動きがある。当研究会は、このような合同会議の開催によりできる限り一般投資家にも同じ情報を伝えられるようにしたいとの考え方を理解するものである。しかしながら、説明会等は常に合同で行い、証券アナリストのみのミーティングは行わないというようなことにされるのは、効率的な情報提供の観点から必ずしも適切とは言い難いと考える。 証券アナリストは、企業分析の専門家として一般にはあまり興味の持たれない、あるいは細部に亘る数字なども分析上必要とすることが多い。合同の会合があっても然るべきであるが、アナリストとのミーティングは行わないとするようなことのないようにして頂きたいというのが当研究会の希望である。一般投資家への情報提供の拡充という観点から、証券アナリストとのミーティングの模様をインターネットでリアルタイムで流し、あるいは、ビデオで録画しオン・デマンドでインターネットを通じアクセス可能にするというような方法を取る企業も増えてきているが、これは拡大均衡の方向でのIRの改善という観点から望ましいことと考える。

合わせて、アナリストと経営者とのミーティングやインタビュー、IR担当者への取材訪問、工場等の企業施設見学についても選択的開示を排除するという理由でこれらの機会が縮小されることのないよう要望したい。証券アナリストが、企業価値の評価を行う場合、財務諸表等の資料の分析が基礎になることはもちろんであるが、経営トップをはじめとする企業の方々との不断のコミュニケーションによって企業の現況を把握しておくことが不可欠の要素である。とりわけ、現在のように経済環境が急激に変化しつつある状況では、状況の変化に適切に対応する経営者のリーダーシップが重要性を増しており、経営者がどのような識見と経営方針をもって経営にあたっておられるかを知ることが企業評価の重要な鍵になっている。わが国でも近年、企業の経営トップがIR活動の前面に立たれる機会が増大しつつあり、選択的開示の回避という理由によってこのような望ましい動きが後退しないよう要望したい。

FDが問題としているのは、企業とアナリスト等のコミュニケーションの過程で株価に影響を与えるような未公表の重要情報が提供されることであって、コミュニケーション自体を規制するものではない。わが国においても、未公表の重要情報が提供されるのでない限り、企業とアナリスト等との間のコミュニケーションを活発化することが公平かつ公正な情報開示の精神に何ら反するものではないと考える。

(3) その他の情報提供について

期中の売上げや受注に関する情報、あるいは記者発表等の諸情報のE-mail、ファクシミリ等による証券アナリストへの提供については今後も続けて行くよう要望したい。これらについても一般投資家がアクセスできるようにするため、インターネットをより活用するような方向に進むとすればそれは望ましいことと考えられる。もっとも業種によっては、月次の売上げ等については、それが利益にどのような影響を与えるかが一般投資家には分かりにくくかえってミスリードすることがあるとして開示を躊躇される企業がある。そのような場合には、月次にはこだわるものではないが少なくとも四半期の情報については提供をお願いしたい。四半期であれば、売上等の増減要因を分析し一般投資家にも誤解を招かないような形での発表が可能であると考えられる。

(4) 内部者取引規制との関係について

当研究会は、上記のように企業が証券アナリストに対する情報提供を維持・充実することを強く要望しているが、これは(2)でも述べたとおり証券取引法の内部者取引規制の対象となる情報、すなわち証券取引法第166条第1 項に規定する未公表の重要事実まで求めるということではない。未公表の重要事実が証券アナリストに開示された場合、アナリストもリスクを負うことになる。証券アナリストは、証券分析業務に従事する専門家として内部者取引規制に関する法令の遵守義務を十分に承知している。日本証券アナリスト協会の職業行為基準も未公表の重要事実に該当するような情報の証券分析業務への利用や伝達について厳しく規制している。したがって未公表の重要事実については、企業が然るべき手続き(通常は東証のTDネットへの登録および記者発表)を経た後に、証券アナリストに情報提供するということとされるのは当然と考える。
証券アナリストが企業に要望したいのは、早耳情報として証券アナリストに重要事実を伝えることではなく、企業による然るべき手続き後のフォローアップとしての追加・補足説明、関連資料の提供等を十分に行って頂きたいということである。未公表の重要事実に該当しないような情報については今後もその提供を維持・充実されて行くようお願いしたい。

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