証券アナリストジャーナル賞

論文審査の経緯ならびに結果について(論文審査委員会報告)

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  川北 英隆

論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は、2020年4月号から2021年3月号に掲載された論文およびノート、計63編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は、慣例により本賞の対象外としている。

第1段階:編集委員(29名)とモニター(5名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2021年3月に実施)。

第2段階:4月9日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員の計7名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった10編の論文につき精査し、受賞論文を予備選定。

第3段階:5月14日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

選考結果(1) 土屋志聞(2020年9月号)

「グローバルサプライチェーンを介した業績伝播効果」PDFアイコン(1,421KB)

選定理由

土屋志聞氏の論文では、企業のグローバルなサプライチェーン(カスタマーもしくはサプライヤーとの取引関係)に着目しつつ、企業間に生じうる業績の連動性を分析している。

本論文での分析対象は1社以上のカスタマーもしくはサプライヤーを有する企業である。このカスタマーもしくはサプライヤーについては、直接の取引関係のみならず、カスタマーのカスタマーもしくはサプライヤーのサプライヤーという間接的な取引関係も扱う。その上で、営業利益の増減が、四半期のラグをもって取引先へ伝播するのかどうかを回帰分析によって分析している。

分析の結果、直接の取引関係のみならず、間接的な取引関係においても業績が伝播することを明らかにした。同時に、製造業と非製造業では伝播の仕方に差異があることを見いだしている。また、重要性の高い取引先にウエイトを付けた分析と、株価への影響の分析も行っている。

本論文の価値は、新型コロナウイルスの影響や国際的な緊張の高まりによって注目度が増しているグローバルサプライチェーンを扱ったことにある。その中で、直接的な取引先だけではなく間接的な取引先に対しても業績の変動が伝わることを明らかにした点で、大変意味深い。

今後は、筆者自身も述べているように、取引関係や波及経路をきめ細かく定義し、企業間のグローバルな依存関係についてより一層深い分析がなされることを期待したい。

選考結果(2) 飯岡靖武(2020年10月号)

「プライベートエクイティファンドの価値創造機能に関する実証分析」PDFアイコン(574KB)

選定理由

飯岡靖武氏の論文では、プライベートエクイティ(PE)ファンドが投資した企業の業績(ここでは売上高と税引後当期利益率)を扱っている。この投資先企業の業績パフォーマンスが良好なのかどうか、良好だとすれば何が要因になっているのかが、本論文の分析のテーマである。

分析対象となるPEファンドの投資先を国内企業とした上で、非公開化された企業のデータを筆者自身でセットした。これをベースに、投資先企業と対比する企業(コントロール企業)を選定し、投資先企業とコントロール企業の業績パフォーマンスを被説明変数とする回帰分析を行っている。

分析の結果、PEファンドの投資先企業の業績パフォーマンスがコントロール企業との比較において高いことと、この業績パフォーマンスの高さはPEファンドのハンズオンによるバリューアップ効果やエージェンシーコストの解消効果だとの示唆が得られたとする。

本論文の価値は、日本において実証研究の少ないPEファンドを分析の対象としたこと、分析用のデータベースを独自に構築したこと、そのデータベースを用いて注目度の高まるPEファンドが生み出す効果を明らかにしたことにある。

今後の課題としては、筆者自身が指摘しているように、より多くのサンプルと、そのサンプルの属性を多面的に得て、分析の精度を上げることにある。もっとも、この課題は日本市場全体に向けられるべきであり、とりわけPEファンドを分析するためのデータベースの充実が待たれる。

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