証券アナリストジャーナル賞

第29回(2017年度)受賞者

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  川北 英隆

論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は2017年4月号から2018年3月号に掲載された論文及びノート、計51編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は慣例により本賞の対象外としている。

第1段階:全編集委員(32名)とモニター(7名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2018年3月に実施)。

第2段階:4月9日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員、計6名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった10編の論文につき精査し受賞論文を予備選定。

第3段階:5月11日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

選考結果  山田 徹・臼井 健人・後藤 晋吾(2017年11月号)

「働きやすい会社のパフォーマンス」 PDFアイコン(1,280KB)

選定理由

山田・臼井・後藤論文は、従業員にとってよい企業つまり働きやすい企業が投資家にとってもよい企業なのかどうかを分析している。

論文では、働きやすい企業を特定するデータとして、日本経済新聞社が毎年実施している「人を活かす会社」の調査結果(かつての「働きやすい会社」)を用いている。そのうえで、最初に、働きやすい企業の業績すなわち収益性を分析している。次に、働きやすい企業の株式に投資した場合の超過リターンの有無を分析している。

これらの分析から、働きやすい企業の業績が同業他社に比べて有意に良好であること、株式投資から超過リターンが得られること、これらの効果が将来の数年間という長期にわたること、以上の結果が得られたとしている。

本論文は、ESG投資や働き方改革などが社会的な話題となる中、そのプラスの効果を見出した点で注目される。とくに、従来の多くのESG投資の分析がファンドを対象にするものだっただけに、ESGのうちのSすなわちソーシャルに関する調査結果を直接用いて分析したことに大きな意義があると評価できる。
もちろん、本論文の中でも指摘されているように、データが十分かどうか、働きやすさと業績の因果関係についてどちらが先なのかなどの問題点が残されている。とはいえ、これらの点を差し引いたとしても、本論文の価値は大きいと評価する。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント臼井氏、山田氏、後藤氏

山田 徹 氏 CMA、臼井 健人 氏 CMA、後藤 晋吾 氏

この度は伝統ある証券アナリストジャーナル賞に選出頂き、誠にありがとうございます。本論文を執筆するにあたり、ジャーナル編集委員長やレフェリーの方々をはじめとする多く方々からご助力を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

本論文は、日本経済新聞社が公表する「働きやすい会社」および「人を活かす会社」ランキングを用いて、企業の働きやすさと財務・株式パフォーマンスとの関係を検証したものです。これまで企業のESG(環境・社会・ガバナンス)評価と財務・株式パフォーマンスとの関係について様々な議論がなされてきました。その中で、企業の従業員に対する姿勢に着目することで、そこに正の関係を見出すことができた点をご評価頂けたと考えております。

それではなぜ、働きやすさが高いパフォーマンスをもたらすのでしょうか。これには様々な仮説が考えられますが、一つには企業の競争力の源泉が、工場や生産設備などの物理資産から、研究開発力やブランド力、情報システムなどの知的資産に移行しつつあることが考えられます。人材投資を含めて知的資産が生み出す企業の競争力は外部から見えにくいために、市場から過小評価され、将来の高いリターンにつながることが期待されます。時を同じくして、「働き方改革」をキーワードに日本における労働環境や生産性を見直す動きが急速に起きていることは偶然ではないかもしれません。このように「働きやすさ」は、資本市場の変化と労働市場の変化をつなぐ興味深いテーマであると思われます。

長い歴史を有するファイナンスの研究において、ESGは相対的に新しいテーマです。今後、これまで以上に議論が活発化し、理解が深まっていくことを期待します。我々自身もこの度の受賞を励みに、より一層、研究に取り組み、本当の意味で投資家と企業と従業員が共存できるより良い投資の在り方について考えていきたいと思います。

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