証券アナリストジャーナル賞
第28回(2016年度)受賞者
証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長 川北 英隆
論文審査の経緯
今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は2016年4月号から2017年3月号に掲載された論文およびノート、計49編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は慣例により本賞の対象外としている。
第1段階:全編集委員(27名)とモニター(6名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2017年3月に実施)。
第2段階:4月14日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員、計6名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった6編の論文につき精査し受賞論文を予備選定。
第3段階:5月12日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。
選考結果(1)淺田 一成・山本 零(2016年5月号)
「企業の中期経営計画に関する特性及び株主価値との関連性について
―中期経営計画データを用いた実証分析―」 (1,768KB)
選定理由
本論文は、日本企業の中期経営計画を対象とした分析である。
中期経営計画のデータベースについて、既存のものがないことから、自ら構築している。この自作データベースに基づき、最初に中期経営計画を公表する企業と、それを達成する企業の特徴を分析している。その上で、中期経営計画を発表した企業に対する株式市場の評価を分析している。
これらにより、まず、中期経営計画を積極的に発表する企業の特徴として、成長性が低いこと、収益性が低いこと、外国人持株比率が低いことを得ている。次に、中期経営計画の達成に関して、成長性の低い企業、規模の小さな企業は楽観的な計画を公表して未達に終わる可能性が高いことを見出している。第三に、中期経営計画を発表した企業は資本コストの低減効果によって株式市場でのリターンが高いとの結論を得ている。
本論文は、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードに関連して注目を浴びている中期経営計画につき、独自のデータベースを構築した上での労作である。分析の仮説と説明変数の関係について工夫すべき部分が残っている。とはいえ、中期経営計画と企業特性との関係を示し、株式のリターンが中期経営計画の達成度合を反映していることを明らかにした意義は、既存研究の少ない分野でもあり、非常に大きいと評価できる。
受賞者コメント
選考結果(2)菊川 匡・内山 朋規・本廣 守・西内 翔(2017年2月号)
「国内債券アクティブ運用のパフォーマンスとスマートベータ戦略」 (4,842KB)
選定理由
本論文は、国内債券のアクティブ運用のパフォーマンスに関して、クレジット、キャリー・ロールダウン、デュレーションの三つのファクターを用いて分析している。
本論文では最初に、この三つのファクターの特性や相互の関係、株式市場との関係を示した上で、キャリー・ロールダウン効果の重要性を見出している。
次に、実際に運用されている国内債券アクティブファンドを分析している。その結果、アクティブファンド全体を平均した場合のみならず、個々のファンドにおいても、その超過リターンがクレジットのファクターで説明可能な一方で、キャリー・ロールダウン、デュレーションのファクターが活用されていないことを明らかにしている。
その上で、キャリー・ロールダウン効果を活用する仮想ファンドにおいて、このファクターをコントロールすることでファンドのパフォーマンスが向上することと、クレジットや株式リターンとの相関が低いことからポートフォリオに分散効果をもたらし得ることを論じている。
本論文の意義は国内債券運用に対する実務的な示唆にある。もちろん、論文でも言及があるように、キャリー・ロールダウン効果とそれによるリターンが何に対するプレミアムなのかは必ずしも特定できていない。とはいえ、本論文での実証分析を踏まえ、実際の債券運用において、キャリー・ロールダウン効果に着目する価値は十分にあると評価できる。