証券アナリストジャーナル賞

第27回(2015年度)受賞者

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  川北 英隆

論文審査の経緯

 今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は2015年4月号から2016年3月号に掲載された論文およびノート、計50編であった。編集委員会では、これらについて、(1)独創性、(2)論理の展開力、(3)実務への応用性、の三つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は慣例により本賞の対象外としている。

第1段階:全編集委員(32名)とモニター(7名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2016年3月に実施)。

第2段階:4月8日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員、計6名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった12編の論文につき精査し受賞論文を予備選定。

第3段階:5月13日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

選考結果(1)工藤 秀明・佐野公紀(2015年8月号) 

日本の株式市場における取引コストの実証分析PDFアイコン(1.584KB)

選定理由

本論文のテーマは日本市場における株式の取引コストである。株式の取引コストは委託 手数料にとどまらず、マーケット・インパクトとタイミング・コストも構成要素と なっている。本論文では、この三つのコストの総和を株式取引コストとして定義している。

その上で、筆者達が所属するアセットマネジメント会社の実際の取引データ(2003年 1月から2014年7月まで)を用い、取引コストの計測と分析を行っている。

この分析により、日本市場での株式取引コストの低下が、特に2012年以降に進み、アメリカと同水準になったとする。また、この日本での取引コストの低下の要因は、委託手数料率の影響というよりも、投資意思決定から取引完了までの時間を短くしようとしていること、電子取引の利用、PTSに代表される代替市場の普及にあると評価している。

本論文の分析について、特定のアセットマネジメント会社のデータであり、正しく分析が行われているかどうかの検証が外部者にとって困難であること、他の投資家の場合はどうなのか対比ができないなどの問題点はある。とはいえ、投資パフォーマンスを左右する実際の取引コストについて、その低下を実際の取引データに基づいて計測、分析したことに大きな意義が認められる。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント工藤氏・佐野氏

工藤 秀明 氏 CMA

このたびは伝統ある賞を頂き、誠にありがとうございます。今回の論文を作成するにあたり、多くの方々にご助力を頂きました。この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。

改めて歴代の受賞論文を振り返ってみると、おのおのの時代の資本市場を反映したテーマ性が浮かび上がるように思います。本論文で取り上げた株式の取引コストに関係する研究も94年に取り上げられています。当時と比較して、機関投資家の取引コストの評価に関する枠組みは大きく変わっていないものの、取引環境は激変しています。本論文における研究は、そうした環境変化が実際の売買にどのような変化をもたらしているのかという実務的問題意識からスタートしました。

投資家の実売買を対象とした分析はデータの取得が難しく、日本の市場を対象とした分析はこれまでほとんどなされなかったと認識しています。本論文では、特定の運用会社の長期間にわたる取引データを対象とした分析を行っています。こうした点については、分析の希少性を評価していただいたものと考えています。

調査・研究を通じて資本市場の進展に貢献できれば望外の幸せです。

 

佐野 公紀 氏 CMA

このたびは名誉ある証券アナリストジャーナル賞を頂きまして、誠にありがとうございます。本論文は機関投資家の目線で日本株式の取引コストを評価し、その推移と構造要因を明らかにしたものです。非常にニッチなテーマを扱った私たちの分析の意義を評価してくださり、大変光栄に感じております。業界の発展に少しでもつながれば幸いです。

共同執筆者の工藤は、私が学生時代、当社のインターンシップに参加した際のインストラクターでもあります。自らのバイサイドトレーダーとしての経験を生かし、こうして共同の成果を挙げることができ、感慨深いものがあります。

末筆ではありますが、この場を借りて本論文に関して査読・指摘を含めサポートくださった関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。今回の受賞を糧に、より一層精進して参ります。

選考結果(2)五島圭一・高橋大志(2016年3月号)

ニュースと株価に関する実証分析-ディープラーニングによるニュース記事の 評判分析- PDFアイコン(4,828KB)

選定理由

本論文ではニュースと株価との関係を分析対象としている。ニュースと株価の関係については近年、多くの分析が行われている。その中での本論文の特徴は、最近注目を浴びているディープラーニング(深層学習)の手法を用いたことにある。

分析のためのニュースに関するデータとしては、特定のメディア(トムソン・ロイター社)が配信する英文ニュース(2003年1月から2015年5月まで)を用い、このデータを加工することによってニュースの影響力を指数化している。その後、株価(収益率)とニュース指数などの関係を計測している。

以上の分析により、ニュース指数が市場に影響を与える一方、市場に対して後追い的に反応している可能性があること、ニュース指数は市場のセンチメントに関する情報も有している可能性があること、小型株に対するニュース指数の影響度は相対的に大きく、かつ長続きすることを見いだしたとしている。

ディープラーニングは、分析プロセスがブラックボックス化されており、その適否の判断が困難ではある。とはいえ、得られた結論は直感的に事前に予測されるものであり、この点で興味深く、また実務的にも意義が大きいと認められる。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント五島氏・高橋氏

五島 圭一 氏

このたびは歴史ある証券アナリストジャーナル賞に選出いただき、大変光栄に存じます。

本研究は、日々配信されるニュースのテキスト情報を指数化し、マーケットとの関連性を分析したものです。分析手法は先行研究に則ったものですが、テキスト情報を指数化する際の方法論について精緻に行った点を評価していただけたことを嬉しく思います。

とりわけ、選定理由にあるようにディープラーニング(深層学習)を用いたことが関心を集めたかと思います。ディープラーニングをはじめとする人工知能技術のファイナンス研究への応用は、可能性だけでなく、適切な用い方や限界について分かっていないことが多いです。基礎研究の方が現在進行形で進展している分野であり、今回用いたモデルも古典になりつつあるようなスピードで進んでいますので、研究課題は多く残されています。

今回の受賞を励みに、今後も研究活動に邁進したいと存じます。

 

高橋 大志 氏 CMA

このたびは名誉ある証券アナリストジャーナル賞を頂き大変光栄に思っております。本研究を実施するにあたり、編集者、レフェリーをはじめとする数多くの方々から、分析に関し有意義なコメントを頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

本論文は、金融市場において配信されているニュースを対象とし、資産価格と情報の関連性について分析したものとなります。分析を通じ、ニュースが市場に影響を与える一方で、市場に対して後追い的に反応している可能性のあることなどを見いだしています。本研究では、国内市場を対象とした分析を行っていますが、特徴の一つとして、計算機科学における成果を取り込んだ点が挙げられます。

本論文は、今後改善の余地が多々ありますが、金融市場に関する研究および実務に少しでも貢献できれば幸いです。本受賞を励みに今後とも意欲的に研究に取り組んでいきたいと考えております。

Get ADOBE READER

※PDFファイルをご利用いただくには、Adobe社 Acrobat Reader(無償)が必要です。最新のバージョンをお持ちでない方は左のバナーをクリックしてダウンロード後、インストールを行ってください。

CMA資格
プライベートバンカー資格
専門性を高める
金融・資本市場への情報発信
協会について

公益社団法人日本証券アナリスト協会は「ASIF(アジア証券・投資アナリスト連合会)」「ACIIA(国際公認投資アナリスト協会)」のメンバーです。
「CMA」「日本証券アナリスト協会認定アナリスト」「Certified Member Analyst of the Securities Analysts Association of Japan」は、公益社団法人日本証券アナリスト協会の登録商標です。

ページ先頭へ戻る

© 2015 The Securities Analysts Association of Japan.
当ウェブサイト内の文章・画像等の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。