証券アナリストジャーナル賞

第26回(2014年度)受賞者

証券アナリストジャーナル編集委員会
委員長  川北 英隆

論文審査の経緯

今次の証券アナリストジャーナル賞の対象は2014年4月号から2015年3月号に掲載された論文およびノート、計47編であった。編集委員会では、これらについて、?独創性、?論理の展開力、?実務への応用性、の3つの審査基準に着目して、以下の3段階にわたる審査を経て、受賞作の選定を行った。なお、編集委員およびモニターが執筆した論文(共同執筆を含む)は慣例により本賞の対象外としている。

第1段階 : 全編集委員(33名)とモニター(8名)が書面により1~2編の論文を受賞候補として推薦(2015年3月に実施)。

第2段階 : 4月10日に予備審査委員会(編集委員長、小委員長、学者委員、計7名で構成)を開催、第1段階において3名以上の委員・モニターから推薦のあった7編の論文につき精査し受賞論文を予備選定。

第3段階 : 5月15日に全編集委員による審査委員会を開催、予備審査委員会において絞り込まれた受賞候補論文を中心に最終審議を行い、受賞作を決定。

選考結果(1)沖本 竜義・平澤 英司(2014年4月号)

ニュース指標による株式市場の予測可能性PDFアイコン(4.22MB)

選定理由

本論文は日々配信されるニュースと株価形成の関係についての分析である。

ニュースが株価に対して恒常的な影響を与えているのか、ニュースが過去の株価パフォーマンスの影響を受けているのか、加えて、出来高と、株価にポジティブもしくはネガティブなニュースとの関係を分析することで、これらを、ニュースと株価形成に関する3つの理論(情報理論、センチメント理論、無情報理論)の仮説検定としている。

以上の分析のために、情報端末に配信されたニュースのテキストについて、「企業名、事由、ポジティブもしくはネガティブ」のタグ付きの情報に加工したうえで、銘柄ごとに日次ベースで「ニュースが全体としてポジティブかネガティブか」の指数を作成している。

この指数を用い、上記3つの仮説検定を行っている。その結果、日本市場においてはニュースが翌日のリターンに対して正の影響を持ち、かつ持続的であることと、出来高に対しても正の影響があることが明らかになったとする。

この結果はアメリカ市場での同様の先行研究とは異なっていることから、論文の結論が日本市場だけの特徴なのかどうか、今後の研究を待たないといけない部分があると考えられる。

とはいえ、テキスト情報を定量化し、ニュースと株価や出来高との理論的な関係を堅実に分析している点において、新しい分野での示唆に富む論文として高く評価できる。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント平澤氏(左)/沖本氏(右)

沖本 竜義 氏

このたびは、由緒ある証券アナリストジャーナル賞をいただき、誠に光栄に存じております。本稿の執筆にあたり、編集者ならびにレフェリーの方々から多くの有意義なコメントをいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

本稿の分析手法自体は、米国に関する先行研究を踏襲した部分が多く、あまり画期的なものではありませんでしたが、丁寧に分析を行ったことが評価され、非常に嬉しく思っております。

ビッグデータが比較的容易に入手できるようになった現代において、ニュースなどのメディアで配信される情報と株式市場の関係の分析というのは、重要なトピックだと感じております。

今回の論文は、まだまだ不十分な点も多いですが、そのような分野の発展に少しでも貢献できれば幸いと感じております。私自身も、この証券アナリストジャーナル賞の受賞を糧に、より一層、研究に精進していきたいと考えております。

 

平澤 英司 氏

このたびは証券アナリストジャーナル賞に選出いただき、誠にありがとうございます。

本論文は経済ニュースから作成したニュース指標が株式市場の予測に利用できるかを検証したものです。

結果としては、ニュース指標が翌営業日の株式リターンと出来高に対して有意な説明力を持つことなどを確認し、ニュース指標が株価に対して本源的な情報を有していることを示すことができました。

ビッグデータが世の中に普及していく中で、この成果が従来の株価・財務指標等の数値情報だけでなく、ニュース等のテキスト情報を金融界が積極的に活用していくきっかけとなれば幸甚です。

本論文の執筆にあたり、日経グループ関係各社からデータ利用許諾、匿名のレフェリーの方々より貴重な意見をいただき、感謝申し上げます。

本受賞を励みに、新たな説明変数の提案やデータ分析手法の開発を通して、引き続き証券・金融市場の発展に微力を尽くしていく所存でございます。

選考結果(2)保坂 豪(2014年6月号)

東京証券取引所におけるHigh-Frequency Tradingの分析PDFアイコン(1.57MB)

選定理由

本論文はHigh-Frequency Trading(HFT)が株価形成に与える影響および市場での流動性に与える影響について、東証の板再現データ(上場銘柄ごとの板の変遷を完全に再現できるデータベース)を用いることで、実証分析している。

板再現データには投資家の属性が含まれていないため、HFTの発注かどうかは、一定の仮定に基づいて識別している。このようにして識別したHFTによる発注が、市場に対して流動性を供給しているのか、株価の変動を緩やかにしているのかを検証している。

分析の結果、HFTによる発注は市場に流動性を供給するだけではなく、流動性の拡大に貢献していること、HFTは非HFTに比べて価格変動抑制型発注の割合が多いことを明らかにしている。

とかく話題の多いHFTに関して、東証が保有する詳細なデータベースを用い、HFTの効果を分析した論文として参考になる点が多い。論文では3時点(相場変動の少ない時点、上昇局面、下落局面)を分析期間として選び、比較しているものの、相場変動の激しい時点ではどうなのか、特に価格変動を増幅しないのか、今後の分析課題として残っているだろう。

とはいえ、実態を捉えることの難しいHFTについて、その特徴を的確に描き出した点において、本論文は高く評価できる。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント保坂氏

保坂 豪 氏

このたびは、証券アナリストジャーナル賞に選出いただき、誠にありがとうございます。

本論文は、近年金融市場で存在感が高まっている、High-Frequency Trading(以下「HFT」)が東証株式市場の価格形成および流動性に与える影響について、実証分析を行ったものです。

その結果、HFTはマーケットメイキングを行う戦略が多いこと、価格形成を緩やかにする注文特性を持っていることを示しました。

この分析はHFTの特性の一端を示した結果にすぎませんが、今後も今回の受賞を励みに、本邦の金融市場に対して多様な企業・投資家が参加し、市場がさらなる発展を遂げるよう、尽力してまいりたいと考えております。

最後に本論文の執筆にあたり、熱心かつ丁寧なご指導をいただいた筑波大学大学院ビジネス科学研究科の牧本直樹教授、大変貴重なご意見をいただいた日本取引所グループファイナンス研究会のメンバー並びに2名の匿名のレフェリー、小生を支えてくれた家族に、改めて御礼を申しあげます。

選考結果(3)岡田 克彦・佐伯 政男(2014年11月号)

注意力の限界とPost-Earnings-Announcement-DriftPDFアイコン(2.05MB)

選定理由

本論文は、人間の注意力には限界があることに注目するものであり、プロ投資家の投資対象銘柄への注目度に関する代理変数を作成することで、実証分析をデザインしている。

分析の対象は、プロがあまり注意を向けていない場合にミスプライシング(アノマリー)としてのPost-Earnings-Announcement-Drift(PEAD)が生じることである。

具体的には、日本市場においてプロの投資家に配信される決算発表時点のニュース量の相対的な多寡に着目し、その多寡をプロ投資家の決算情報に対する注目度として用い、この注目度に応じて決算発表時点以降に超過リターンが発生しているかどうかを分析している。

この結果、注目度の低い銘柄群には20日程度にわたり超過リターンが発生していることが明らかになったとする。

現実の市場において効率的市場仮説が完全に成立していると想定するには無理がある。投資家はさまざまな制約に直面している。その一つが情報処理能力の制約である。

本論文は、ニュース発信量に投資家が過剰反応し、その上で情報処理するとの暗黙の仮定に基づいている。

この仮定のもと、従前の研究と比べ、投資家の銘柄に対する注目度をより直接的に把握、数値化し、分析に用いていることは高く評価できる。

また、分析結果は、実務への応用性に富んでいる。

 

受賞者コメント

受賞者コメント受賞者コメント佐伯氏(左)/岡田氏(右)

岡田 克彦 氏

このたびは大変名誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。

最近は、伝統的ファイナンス理論の枠組みで語られる「リスクファクター」だけでは説明できない要因に関する研究が増加傾向にありますが、本研究も、その流れに沿ったものであり、人間の注意力に限界があることから生まれるゆがみに着眼したものです。

マーケットにおける株式評価は、将来キャッシュ・フロー、無形資産、経営者の質など「目に見えないモノ」の評価を含みますので、評価者の心理やバイアスを読むことは重要だと考えています。

今後は、評価者の合理性を前提とした従来ファイナンスの枠組みを超えて、評価者をも科学する学際的アプローチが増加していくことでしょう。

私たちは、資産価格形成メカニズムを解明するだけではなく、研究から得られた知見が実務に生かされてこそ真の研究活動との認識をもっております。

今後も既存の方法論にとらわれず、「役立つ」研究成果を出せるよう精進してまいる所存です。

 

佐伯 政男 氏

このたび、証券アナリストジャーナル賞を思いがけなくもいただき、大変光栄に思っています。

このような賞をいただけたことは、様々な方からのご支援と良い出会いがあったからであると実感しています。

私は社会人経験後、慶應義塾大学の博士課程に入学し、主観的幸福という人々の幸福感の規定要因を探る研究テーマについて実証心理学のアプローチから研究してきました。

心理学を研究している私が証券アナリストジャーナルに投稿できたことも、このような栄誉ある賞をいただけたことも幸福研究の成果を発表した学会において行動ファイナンス研究で著名な岡田克彦先生と出会うことができたからだと言えます。

また、岡田先生に出会えたことも元をたどれば、幸福研究で著名な慶應義塾大学の前野隆司先生、ヴァージニア大学の大石繁宏先生との良い出会いがあったからであると感じています。

今後も良い出会いに期待し、チャンスを逃さないよう歩んでいきたいと思います。

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