図書紹介
顧客本位の業務運営Ver2
「見える化」を通じた実践に向けた工夫
信森毅博 著(金融財政事情研究会)
著者は、日本銀行、民間コンサルタント会社、金融庁に勤務した経験を持ち、「顧客のため」になる金融機関の取組みを支援してきた。その中で、官民の間にコミュニケーションギャップがあると感じているという。金融庁は、「顧客保護」と「顧客本位」の違いについて分かりやすく伝えきれていない一方、金融機関も「顧客のため」の意味を突き詰めて考えていないと問題提起している。
第Ⅰ編は言わば理論編だが、金融庁の「顧客本位の業務運営に関する原則」の逐条解説からではなく、原則の背景にある顧客本位そのものの考え方から説き起こしている。そして、3つの誤解、①顧客本位のもとで収益を追求してはならない、②投資信託販売では原則に沿った対応を行わなければならない、③顧客本位では顧客ニーズに対応すればよい(顧客満足との相違)を取り上げて、他産業では当然とされる売り手と買い手の双方がwin-win関係を築く努力が必要なこと、商品を提供する販売代理の立場から顧客に解決策を提案する購買代理への意識変革が求められていること、顧客の顕在ニーズへの対応による顧客満足と潜在ニーズ対応による顧客本位との違いを解説している。
第Ⅱ編は実践編で、「顧客本位」実施と2021年に強化された「見える化」活用のポイントを提示している。この中で、営業ツールの技術的な見直し以上に、顧客基盤等を踏まえて試行錯誤しながらカルチャー改革を行うべきと主張している。
第Ⅲ編は顧客本位原則の策定等に長く携わってきた前金融庁長官と大学教授とのインタビューである。金融庁が公表した「定着に向けた取組み」(2017年3月)の重要性や適合性の原則が「説明すれば販売してよい」と誤解されていることを指摘している。
金融商品・サービスを提供する関係者に、今一度、顧客本位について根本から考え直すことを迫っている。
著者は、アクセンチュア所属のコンサルタント。
目次
第Ⅰ編 金融庁が示す「顧客本位」と「原則」の再整理
第1章 顧客本位が目指すもの
第2章 「見える化」が目指すもの
第3章 「顧客本位」に対する3つの誤解
第Ⅱ編 金融機関による「顧客本位」と「見える化」の実践
第4章 顧客本位と原則への対応
第5章 金融機関による「見える化」の活用
第Ⅲ編 インタビュー
顧客本位原則の究極的な目的は、将来に備えた国民の資産形成
―― 前金融庁長官 中島淳一
ビジネスモデル転換を伴う顧客本位の実現は「道半ば」
―― 学習院大学教授 神田秀樹