図書紹介
アドバイスが変える 資産運用ビジネス
オリヴィア・S・ミッチェル、ケント・スメッターズ 編
楽天投信投資顧問会社 訳/森祐司 奥山英司 監訳
(幻冬舎)
本書は、米国においてファイナンシャル・アドバイザーが何をするのか、どのように報酬を得るのか、彼らのパフォーマンスや影響力はどのように評価されているのか、そしてどのように顧客を不適切なアドバイスから守り、有益なアドバイスへと導くかを検証し、そこから得られた考察を紹介している。そして、よりよい退職年金プランの策定を求める消費者、研究者、雇用主、金融システムの監督と強化を行う政策立案者向けの内容となっている。
第1章「退職者向けファイナンシャル・アドバイス市場:序論」で本書の問題意識が示されている。米国では4,600万人以上の団塊世代が引退期を迎えているが、多くは以下のような準備ができていないという。いつ退職するのか、社会保障年金やDB(確定給付型年金)プランの受給をいつから開始するか、退職後の貯蓄やDC(確定拠出型年金)プランからどの程度引き出すのか、退職医療保険の支出をどのように管理するのか、資産の年金化をするのかどうか(あるいはいつから開始するのか)である。さらに若年層では、住宅購入や退職後の貯蓄を念頭に置いたローン返済、最適な預貯金水準の設定、生命保険への加入、遺産贈与の有無、リスク選考に適った資産投資も加わる。
こうした選択は複雑で、専門のファイナンシャル・アドバイザーのサポート無くして、十分な情報に基づいた投資判断はできないことから、多くの人は、オンライン・ツールや一般向けのセミナーではなく、信頼のおける専門家との対面相談を望んでいるという。しかし、その一方で、ほとんどの人は、アドバイザーには金額的にも手が届かず、利害が矛盾し、不明瞭な提案を行うものだと見なしているともいう。こうした状況は、日本でもほぼ同様と思われる。
米国では、大手の登録投資顧問会社(RIA)は、米国証券取引委員会(SEC)の監督下にあり、対人アドバイザー(投資アドバイザリー外務員)は、顧客の利益を第一とするフィデュ―シャリー(受託者)責務を果たさねばならない。RIAは、顧客から直接手数料を徴求してファイナンシャル・プランの策定や運用資産(AUM)に比例した手数料を対価として受け取っている。それとは対照的に、全米大手の証券ディーラー外務員は、顧客の利益を第一とする必要はなく、投資アドバイスが顧客に「適合する」ことを確認することだけが求められている。証券ディーラーは、米国金融業規制機構(FINRA)に登録しており、通常、投信会社から受け取る販売手数料から報酬を得ている。
問題は、多くのファイナンシャル・アドバイザー会社が、RIAとFINRAの両方に登録しており、自在に入れ替える「帽子の交換」ができるために、顧客を混乱させていることにあると指摘している。
こうした問題意識に基づき、第1部「ファイナンシャル・アドバイザーは何をするのか?」、第2部「パフォーマンスとその影響の計測」、第3部「アドバイス市場と規制上の考慮事項」について、各専門家による議論を幅広く紹介している。
日本では、顧客本位の業務運営が標榜されながら、顧客からではなく系列会社から受け取る手数料で成り立つビジネスモデルが大半である。米国での実情を詳しく知ることは大いに参考になるだろう。
編者は、ペンシルバニア大学ウォートンスクールPension Research Council 所属
目次
第1章 退職者向けファイナンシャル・アドバイス市場:序論
第1部 ファイナンシャル・アドバイザーは何をするのか?
第2章 ファイナンシャル・アドバイザーの市場
第3章 顧客へのリスクの説明:アドバイザリー(ビジネス)の視点
第4章 ファイナンシャル・アドバイザーやDCプラン・プロバイダーは、顧客や加入者へどのように社会保障年金の教育をしているのか
第5章 アセット・アロケーションは米国人の退職後収入保障にどれほど重要か?第6章 職場におけるファイナンシャル・アドバイスの進化
第7章 個人年金保険への意思決定におけるガイダンスの役割
第2部 パフォーマンスとその影響の計測
第8章 ファイナンシャル・プランナーの影響評価
第9章 助言の要請:ファイナンシャル・アドバイスと行動変容に関する 研究調査と実験的証拠
第10章 ファイナンシャル・アドバイス市場を機能させる方法
第11章 ファイナンシャル・アドバイスは変化をもたらすか?
第12章 ミューチャルファンドの投資家は、いつ、なぜ、どのようにファイナンシャル・アドバイザーを利用するのか?
第3部 アドバイス市場と規制上の考慮事項
第13章 ファイナンシャル・アドバイザーに関する規制の調和
第14章 ファイナンシャル・プランナーに対する規制
:現行システムの評価と代替的手法