図書紹介
DX時代の日本企業の戦い方
幸田博人 編著(中央経済社)
本書は、アクセンチュア株式会社が幹事となり、京都大学経済学部で行った特殊講義「資本市場とデジタル社会」の内容を取りまとめ、座談会「ポストコロナ時代のデジタルトランスフォーメーション」を加えたものである。全体の構成は、序章(導入)の後、第Ⅰ部「デジタル社会編」、第Ⅱ部「金融機関編」、第Ⅲ部「将来編」であるが、第Ⅱ部と第Ⅲ部の間に、金融関係者を中心とした座談会を配置している。
序章では、デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を使って、企業の組織、ビジネスモデル、あるいは働き方を変えていくことを指し、単に効率化だけではなく、これまで提供できなかった新たな価値を生み出すことだと言う。
第Ⅰ部では、アクセンチュアが手掛けるDX部分を補い活用することを目的とした「デジタルM&A 」や農業機械のクボタが自社だけでは無理な農家の収益アップのために、加工販売や物流業者などとデータを繋げてソリューションを提供する「農業プラットフォーム」、スシローの食材の調達から商品に至るサプライチェーンの川上、川中も含めて一体改革する計画など実例を挙げて解説している。
第Ⅱ部では、これまで伝統的な金融機関で独占されてきた金融機能がアンバンドル化され、流通系、通信系、航空系、プラットフォーマーといった異業種からの参入が相次いでいること、一方、守勢にある金融機関からもオープンイノベーションや異業種との連携に活路を見出そうとしていることを紹介している。
海外では、スペインのBBVA、シンガポールのDBS、香港HSBCといった先進行ではコロナによってデジタルサービスの重要性を再認識し、新しいサービスを打ち出しているほか、国内でも、ふくおかフィナンシャルグループのみんなの銀行や伊予銀行には新しい動きがみられると言う。
第Ⅲ部では、今やデジタルを効率化やコスト削減で既存事業をうまく行うためのものとの考え方は成り立たず、新たな差別化要素であり、事業に溶け込んでいる存在と捉える必要があると指摘している。その実例として、PayPayは2020年には4千万を超えるユーザーを有するが、これは三菱UFJ 銀行の口座に匹敵する規模である。しかし、同社のシステム開発の第1弾リリースには僅か3か月しか掛かっていなかった。これは小さな細胞のようなサービスを外部のクラウド上で自動増殖させて動く仕組みを採用したためだという。このようにテクノロジーを熟知したCEOが陣頭に立って大胆な意思決定をして企業を変えていくケースが増えてきている。
DX人材については、社内の人材不足を挙げる企業が多いが、社内人材の発掘とともに外部の専門事業者との戦略的パートナーシップの活用を勧めている。
編著者は、京都大学経営管理大学院特別教授、京都大学大学院経済学研究科特任教授。
目次
序章 ポストコロナ時代の「資本市場とデジタル社会」
第Ⅰ部 デジタル社会編
第1章 コロナ禍の働き方改革
第2章 デジタルの進化と企業価値
第3章 ポストコロナ時代のデジタル化の加速
第4章 デジタル社会とM&A
第5章 スマートシティによる自律分散社会の実現
第6章 クボタの中長期戦略とデジタルトランスフォーメーション
第7章 スシローにおけるDX
第8章 デジタル社会と法務
座談会 ポストコロナ時代のデジタルトランスフォーメーション
第Ⅱ部 金融機関編
第9章 金融機関とFinTech
第10章 デジタル社会と金融機関
第11章 FinTechの進展と投資動向
第12章 デジタル通貨と暗号資産そしてWeb3
第13章 ニューノーマル時代の住まいと金融
第14章 地域金融機関のデジタル化に向けた取り組み
第Ⅲ部 将来編
第15章 テクノロジー進展が与えるビジネスインパクト
第16章 デジタル時代の人材問題