図書紹介
お金のむこうに人がいる
田内学 著(ダイヤモンド社)
本書執筆の切っ掛けは、経済に関する2つの疑問であったという。1つは、「政府の借金の謎」である。日本政府は1,000兆円もの借金を抱えているのに、どうして破産しないのか。著者の債券トレーダーの経験から、世界中のヘッジファンドが日本の破産に賭けて日本国債の空売りを仕掛けたが、ほとんどが大損をして去っていったことがある。もう1つは、「ざるそばの謎」である。著者の実家は蕎麦屋を営んでいたが、1階ではお客がお金を払って偉そうにざるそばを食べ、2階では著者が同じざるそばを無料で食べていたことである。お金がそんなに偉いのか?働く人は偉くないのか?不思議に思っていたという。
本書の目次を一覧すると、この2つ以外にも普通に感じる疑問が並んでいる。これだけでは、一般教養的なハウツーもののように思われるが、本書の特徴は、表層的な貨幣や価格の背後にある、モノやサービスから得られる効用やそれを生み出す労働にこそ真の価値があることを強調しているところにある。
読者にそれを気付かせるため、各話の冒頭に3択の問題を載せて、常識的な解と著者の考える解とを対比させながら話を進めている。その論の進め方には、目から鱗と膝を打つものもあれば、やや説明不足ではないかと思われるものもある。ただ、いずれにせよ素朴な疑問について、自分ではどう考えるのかが試される刺激に満ちた著作である。
なお、蛇足ながら本書には直接の言及はないものの、経済学に馴染みのある読者には、古くはアダム・スミスの国富論、マルクスの資本論から、現代の貨幣価値の裏付けには政府の徴税権があるとする物価水準の理論(Fiscal Theory of Price Level<FTPL>)、財政赤字に問題なしとするMMT(現代貨幣理論)を想起させる部分もあり、そうした謎解きの楽しみもある。
著者は、元ゴールドマン・サックス金利トレーダー
目次
第1部 「社会」は、あなたの財布の外にある。
第1話 なぜ、紙幣をコピーしてはならないのか?
第2話 なぜ、家の外ではお金を使うのか?
第3話 価格があるのに、価値のないものは何か?
第4話 お金が偉いのか、働く人が偉いのか?
第2部 「社会の財布」には外側がない。
第5話 預金が多い国がお金持ちとは言えないのはなぜか?
第6話 投資とギャンブルは何が違うのか?
第7話 経済が成長しないと生活は苦しくなるのか?
第3部 社会全体の問題はお金では解決できない。
第8話 貿易黒字でも、生活が豊かにならないのはなぜか?
第9話 お金を印刷し過ぎるから、モノの価格が上がるのだろか?
第10話 なぜ、大量に借金しても潰れない国があるのか?
最終話 未来のために、お金を増やす意味はあるのか?