英国における証券アナリストの利益相反問題-FSAによるディスカッション・ペーパー 15の公表(2002年7月)-

米国においては、2001年春頃から、証券アナリストの独立性・客観性を巡る問題が、証券会社、投資家、議会、SEC、NASD、NYSEさらには連邦議会、州当局、裁判所まで巻き込んだ大きなニュースとなったが、ニューヨークと並ぶ国際金融市場であるロンドンを有する英国では当初それほど大きなニュースにはなっていなかった。しかし、2002年7月英国金融サービス機構(FSA) は、「投資調査:利益相反その他の問題(Investment Research : Conflicts & Other Issues)」と題するディスカッション・ペーパー 15を発表し、2002年10月末を期限としてパブリック・コメントを求めた。このペーパーの内容は、アナリストを巡る状況および証券・金融行政のスタイルが英国と米国で差があることを反映し、米国とはかなり異なるアプローチが示されていた。
同ペーパーは、まず現状認識として、英国においては、これまでのところ投資家から不公正なリサーチにつき具体的に監督当局に問題提起がなされたということはなく、米国に比べれば問題はそれほど顕著になっていないと述べ、以下のように英米で異なる点があったとしている。

a 英国におけるITブームおよびその破綻は、米国におけるほど劇的ではなかったこと。

b 米国においては、ITブームの過程でスター・アナリストのカルチャーが増大したが、英国ではそれほどではなかったこと。

c 機関投資家が市場で優越している英国に比し、米国では個人投資家の割合が高く、かつこれらの投資家がスター・アナリストに影響を受けやすかったこと。

d 英国の証券会社による投資推奨は、米国の証券会社のそれに比べて、よりバランスが取れていたと見られること。

しかしながら、ペーパーは同時に、ロンドン市場では米国市場で活躍している同じ証券会社が支配的なプレーヤーになっているとし、米国で見られるような問題を生じる可能性もあるとした。
一例として、英国においても投資銀行部門の業務への配慮によりリサーチが影響されている可能性があるとし、アナリストが所属する証券会社が取引関係にある発行会社についての投資推奨は、取引関係がない発行会社についての投資推奨と比較すると構造的に平均よりも積極的であることを示す数字があるとしている。すなわち、FTSE100企業についてのアナリストの投資推奨を見ると、アナリストの所属する証券会社がアドバイザーを努めている企業に対しては、「買い」推奨 が80%、「保持」推奨が18%、「売り」推奨が2%であるのに対し、アドバイザー関係のない企業については、「買い」推奨45%、「保持」推奨38%、「売り」推奨が18%であったとした。
また、利益相反等の問題が生じ得るケースとして、1. アナリストまたは証券会社が自己の勘定で調査対象発行会社の証券に投資する場合、2. 調査対象の発行会社が証券会社やアナリストに圧力を加える場合、3. アナリストが未公開の情報に接する場合、4. アナリストが市場に強い影響力を有し、それを利用してレポートの発表前に投資を行う場合等を取り上げて解説するとともに、個人投資家がこうした利益相反の問題を認識していないことも問題としている。

そして、英国の現行の規制(FSAのハンドブックに掲載されているさまざまの原則、ルールなど)は、アナリストの業務だけを適用対象として想定したものはないが、上記のような問題にも対応するための関連規定を既に有していると述べる一方で、最近の状況に照らし、投資家保護の観点からこれらの見直しをする必要があるかどうか検討が必要であるとした。このような認識を示した上で、ディスカッション・ペーパーは、次のような点、すなわち、1. 英国市場では投資銀行業務との関係での利益相反問題がリサーチの客観性にどの程度影響を及ぼしているのか、2. FSAによる現行の規制体系(業務原則および関連規約)は利益相反問題に十分に対応していると言えるか、3. リサーチはリテール市場に対してはどのような影響を及ぼしているかについてパブリック・ コメントを求めるとともに、今後取るべき措置として以下のように数個の選択肢を示し、これらについてもコメントを求めた。

考えられる選択肢

(1)現状維持
アナリストの利益相反問題は英国市場では深刻な問題を生じておらず、現行の規制は適当であるとする立場。規制による介入は常に適当な結果を生むとは限らないので、市場の力が客観的なリサーチを推進することを期待する。

(2)規制当局による監査巡視(Review Visits by the Regulator)
監査巡視を行い、各証券会社におけるアナリストの管理のあり方を比較し、また、管理方法が適切でない会社があった場合は、業界のベスト・プラクティスの採用を働きかける等を行う。

(3)個人投資家の自覚と理解を向上させるための方策を取る
必要に応じ証券会社や業界団体とともにFSAが投資家の自覚と理解を高めるための施策を検討する。消費者教育の効果には限界もあるが、例えば次のような点につき理解を進めることが考えられる。

  • リサーチは事実そのものではなく、偏向を免れない可能性があること。
  • リサーチが提供する情報に基づく投資の短期的な優位性は、一次的な受け手である機関投資家はこれを享受することができるが、機関投資家より遅れてリサーチに接する個人では享受することが難しいこと。
  • したがって、個人投資家は短期的な利得を目指すのではなく、長期的な観点から投資を行うべきであること。

(4)追加的な規制ルール、ガイダンスの制定
FSAのハンドブックには、既にアナリストの利益相反にかかわる原則やルールが盛り込まれているが、これらの実際の適用については業界で少なからぬ混乱があるので解説やガイダンスを示すことは意味がある。現在、一定の一般投資家向けの商品の宣伝に使用される資料については、内容、正確性、使用等に関しFSAの定める要件を満たすことが求められているが、 アナリストのレポートについてもう少し詳細な要件を定めることも考えられる。EUの指令と整合性のある範囲で、米国SECが導入した措置を取り入れることも考えられる。

(5)調査対象の会社によるアナリストに対する圧力の行使を防止するための措置
アナリストの調査の対象となる会社はさまざまな商業上の関係を証券会社と有しており、これによってアナリストに圧力がかけられることがあり得る。こういった関係をコントロールすることは容易ではない。しかし、投資家の信頼を高めるため、証券会社が調査対象会社から圧力を受けた場合、どのように対応するか等につき規制を及ぼすことも考えられる。

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