図書紹介
「本当のお金持ち」から学ぶ正しいお金の増やし方
篠田 丈 著(小学館)
著者は、外資系金融機関で長年、株式トレーディングやデリバティブの組成・販売などに携わり、2011年に独立して現在は投資銀行業、アセットマネジメント業務を手掛ける金融サービス会社を経営している。こうしたキャリアを通じて、ヨーロッパの富裕層の投資・運用スタイルが多くの日本人にも向いていると感じるようになったという。
第1章、第2章では、こうした見方の背景として、ヨーロッパの富裕層の多くは、「今どんなファッションが流行しているか」などの話にはほとんど関心がない一方、アメリカの富裕層はお金の使い方が派手で、ゴージャスな生活をして、人脈などをひけらかす傾向が強いことを挙げている。そして、ヨーロッパの富裕層が実践している先祖代々受け継いできた資産を守り通すことを重視した長期・分散・ほったらかしの運用スタイルが、多くの日本人にもマッチすると主張している。
ヨーロッパの富裕層は一般的に、目先のお金が増えたか減ったかにはほとんどこだわらず、レバレッジも利用していないという。重要なのは何に投資するかよりは誰に任せるかであり、伝統的なプライベートバンクやファミリーオフィスが資産を守るプラットフォームの役割を果たしている。プライベートバンクやファミリーオフィスは、富裕層の巨大な資産を少数精鋭のプロフェッショナルで運用されているため、収益基盤が安定しており規模の拡大を追求しなくとも生き残れるビジネスモデルだという。
第3章では、一旦、欧米の話から離れて投資の心得を説いている。金融リテラシーの第一歩は、高度な投資理論や財務諸表の分析スキルではなく、まず詐欺に引っかからないことであると説いている。このためには、アンカリング、確証バイアス、恒常性バイアスなどの認知バイアスの理解が不可欠としている。そして証券・金融商品あっせん相談センター(略称フィンマック)のHPに掲載されている事例も紹介して、何に投資するかよりも誰と取引するかが重要と注意喚起している。
第4章で投資戦略の基本とは、20~30年のスタンスで取り組む長期投資であり、ロングオンリーで出口戦略が不要なヨーロッパ・スタイルであるという。ただし、投資対象の流動性は重視し、流動性の低い不動産は不要としている。そして債券よりは株式を中心に、値下がりしそうな銘柄を外すとともに、ボラティリティを抑えるポートフォリオをいくつかのシミュレーションで示している。
第5章では、世界経済のポイントとして、中国の不動産バブル、アメリカの金利動向のほか、高い成長力を持つイスラエル、日本人に人気のシンガポールなどを解説している。
第6章では、若い人は、まずは知識や経験、スキルを高めるため、自分に投資したほうがよいこと、そして本業の仕事で稼げることが先決であること、投資や資産運用は、特に刺激を求めることもなく、普段は意識することもない退屈で当たり前の行為であるとしている。
本書は、ヨーロッパの富裕層を引き合いに出しながら、投資の哲学や基本をわかりやすく解説しており、参考になる。
著者 篠田丈 アリスタゴラ・アドバイザーズ代表取締役会長
目次
第1章 私が見てきたヨーロッパの富裕層たちの「お金の感覚」
第2章 ヨーロッパの富裕層がお金を守り増やしてきた投資哲学
第3章 だまされるな!投資を始める前に知っておくべきこと
第4章 実践!長期的にお金を守り増やすための投資戦略
第5章 これからの世界経済と投資戦略を考える
第6章 投資と資産運用は生涯続けるもの