図書紹介

「行動ファイナンス入門-なぜ「最適な戦略」を間違うのか?-」

角田康夫著(PHPビジネス新書)

 本書は10年以上前に刊行されたが、行動ファイナンスの教科書的な概念の説明にとどまらず、実務面での応用まで論じている点に特長がある。

 基礎編の投資家心理では、プロスペクト理論(損失の痛みは利益の喜びの2.25倍)をはじめ行動ファイナンスに登場する概念を幅広く、かつ分かりやすく解説している。中には、ノーベル経済学賞を受賞したマーコウィッツは、自分の退職金の運用方法では効率的フロンティアを計算した訳ではないとか、行動ファイナンスでノーベル賞を受賞したカーネマンの講演では、投資家の不快感や後悔を事前に想定し、それに対処することがアドバイザーの中心的役割・職務だと強調したなどのエピソードも折り込まれている。

 応用編では、オーソドックスなファイナンス理論の基にある効率的市場仮説が現実には成り立たないことを行動ファイナンスの視点から解き明かそうとしている。そして著者が最も読者に訴えたかったのは、最終章のライフサイクル投資である。現役世代の資産形成期には人的資本を考慮すべきである一方、退職世代では、物価スライド制の終身年金である程度、長寿リスクとインフレリスクを免疫化できることを前提に、資産価値の安全性を確保するALM枠とハイリターンを追求する投資枠の二極で構成するポートフォリオを提案している。

 プライベートバンカーが、顧客に金融商品の単品セールスでなく、長期にわたりポートフォリオ提案を続けていくには、知っておくべき知識が得られるだろう。

 著者は、三菱UFJ信託銀行年金運用部主任参事役(刊行時)。

 なお、本書は現在出版元では在庫切れだが、電子書籍版は購読可能。

目次

基礎編 投資家心理
第Ⅰ部 意思決定で選択に影響するバイアス
 第1章 フレーム・損失回避・反転効果
 第2章 損失を怖れる
 第3章 リスクを求める
 第4章 後悔はしたくない
 第5章 期間選択と自己コントロール
第Ⅱ部 因果関係と確からしさの判断および信念形成のバイアス
 第1章 因果関係の判断とヒューリスティック
 第2章 確率認識の歪み
 第3章 自信過剰と自己正当化
 第4章 群衆行動
応用編
第Ⅲ部 戦略とプランニング
 第1章 投資戦略への応用
 第2章 新型金融商品の損得勘定
 第3章 ライフサイクル投資

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