図書紹介
「変わる事業承継」
森・濱田松本法律事務所編著(日本経済新聞出版社)
日本の事業承継は、世界的にみても厳しい相続税制の影響もあり、節税対策主導でアドバイスが行われている。しかし、本来重視すべきポイントは、いかに企業価値を向上させ、事業の永続性を確保するかにある。
本書は、こうした問題意識を基に従来型の事業承継対策の問題点を指摘し、多くの企業が同族経営のファミリービジネスであることを踏まえて、ファミリーガバナンスを重視する新しい事業承継の仕組みを提案している。
具体的には、これまでの1人の後継者のみに承継させる権力集中型からファミリー全体で事業を支える集団統治型への移行と、そうした下でのファミリーガバナンスのあり方として、民事信託の活用やアドバイザリーボードの必要性を説いている。
ただし、本書で提起する集団統治型は、2018年に創設された事業承継税制の特例措置が、従前の権力集中型を前提としており、信託の活用も排除していることから、両立しないことは留意すべきである。このため、本書は従前の仕組みを否定するものと受け止められるかもしれないが、著者らは、事業承継策に唯一の正解がある訳ではなく、むしろ新たな選択肢が加わったと理解されるよう促している。
なお、本書は、2019年4月に開催されたセミナーをベースにしていることから、各章に創業家出身者の講演や親族内紛争に関する対談などが組み入れられおり、最終章には専門家4名によるパネルディスカッションもあって、内容に具体性と深みを与えている。
編著者は、税理士事務所も持つ大手法律事務所で、法務・税務を統合した戦略的なアドバイスを提供。
目次
第1章 変化の時を迎えた事業承継
基調講演:ファミリービジネスの現状と課題
第2章 従来型事業承継対策の問題点
特別講演:次世代経営者に求められるファミリービジネスの経営革新①
第3章 ファミリーガバナンスの歴史
特別講演:次世代経営者に求められるファミリービジネスの経営革新②
第4章 新しいファミリーガバナンスの仕組み① 民事信託の活用
対談:親族内紛争の実情と対策①
第5章 新しいファミリーガバナンスの仕組み② アドバイザリーボード
対談:親族内紛争の実情と対策②
第6章 パネルディスカッション「いかにファミリーの分散を防ぐか」