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図書紹介

『ヒトとモノを引き継ぐ事業承継講義』

鯖田 豊則 著(税務経理協会)
(税抜定価2,800円)

大塚正民法律会計事務所
弁護士・公認会計士 大塚 正民

「ヒトとモノを引き継ぐ事業承継講義」 PDF (456KB)

本書の特色

本書は、これまでの類書に多く見られる事業承継論とは異なる。「木を見て森を見ず」の類の事業承継論、つまり、モノの承継に関する税金対策論オンリーの事業承継論ではなく、逆に「木を見ず森のみを見る」の類の事業承継論、つまり、ヒトの承継に関する経営論オンリーの事業承継論でもない。本書は、「木を見て」かつ「森を見よう」というバランスのとれた広い立場からの事業承継論である。著者が「はしがき」でも自負されているように、「ヒトの承継を前半部分、モノの承継を後半部分に、全部で30の項目に整理してバランスよくコンパクトにまとめた啓蒙書」である。

著者の経歴

もともと著者は、ファンドマネジャーとして主として上場会社である大企業の財務分析に携わっていたが、後に1990年代初頭から、企業コンサルティングチームに所属し、大企業に対し信託銀行のサービスラインナップに含まれている年金業務や不動産業務の活用を提案することを行うようになった。ところが、大企業も最初から大企業であったわけではなく、どんな会社も、最初は中小企業、あるいはベンチャー企業としてスタートしていくことから、中小企業に対して、事業承継あるいは株式公開を支援するコンサルティング活動も行うようになった。

著者の事業承継に関する立場

著者はいう。「そのなかで、必ずしも大企業になることがいいとは限らず、独自技術を有する優秀な中小企業として存続していくことが、社会にとってもいいと思われるケースを実際に見てきました。これが筆者が、中小企業に対する事業承継対策支援の重要性を今日まで持ち続けているきっかけとなっています。」

著者の事業承継に関する考え方

このように、「社会にとってもいいと思われる事業承継」は、「ヒトの承継」と「モノの承継」の2つの側面を有している。「ヒトの承継」は、まさしく、経営者の交代である。単に、経営者が次世代に若返ればよいという問題ではなく、経営者にふさわしいスキル・ノウハウを、帝王学等を通じて身に付けていく必要があり、また、事業承継の対象となる会社の家訓や経営理念なども、引き継いでいくべきである。したがって、「ヒトの承継」は経営承継と呼ぶこともできる。一方、「モノの承継」は資産承継(財産承継)と呼ぶこともできるが、要するに、経営者の支配権の裏付けである株式をいかに承継していくかがもっとも重要となる。そのためには、株式取得代金をどのように捻出するか、株式の移動に対して発生する税金問題をどのように考えていくかなど、金融面や税制面の対策を考えていくことになる。

本書の構成

「ヒトの承継」に関する前半部分は、15項目からなり、「モノの承継」に関する後半部分も、15項目からなるが、(評者の独断と偏見からすれば)それぞれの部分における重要キーワードは、次のようである。
証券アナリスト読書室ヒトとモノを引き継ぐ事業承継講義鯖田豊則著(税務経理協会)証券アナリスト読書室88 証券アナリストジャーナル 2014.8 まず、「ヒトの承継」における重要キーワードは、「家訓」、「経営理念」、「ファミリーオフィス」である。
次に、「モノの承継」における重要キーワードは、「資産税」、「事業承継税制」、「経営承継円滑化法」、「信託」である。

「ヒトの承継」における重要キーワード

家訓:後継者が一人前の経営者に育成していく過程において、家訓の重要性が取り上げられることが多い。オーナー企業ならではの強みを、100年以上、何代にもわたって維持してきた企業は、長寿企業と呼ばれるが、そのような長寿企業には、家訓がある場合が少なくない。老舗でなくとも、家訓は、オーナー経営者が子息にうまく事業を継承する際の有効な手段の一つとなり得る。ただし、忘れてはならないのが、家訓は書いてある文言を覚えることよりも、むしろそれをつくろうという姿勢、伝えようという姿勢こそが重要であることを理解する必要がある。いくら立派な家訓をつくっても、そこで言っていることと、社長の普段の振る舞いが一致していなければ、「単に書いてあるだけじゃないか」と思われてしまう。自らの体で、その内容を守っていること、自ら体得していることを現社長が身をもって示してこそ、家訓は有効となる。その意味において、事業とは結局、父親(先代)の背中を通じてこそ、円滑に継承されていくといえるのかもしれない。(家訓の重要性:本書32頁。)

経営理念:経営理念は、会社経営を行うにあたって、経営の基本的なあり方を表明したもので、会社経営に不可欠なもので、会社のミッションでもある。何のために経営を行っているのか、どのような会社をめざしているのか、などの根源的な問いに明確に答えられないのであれば、改めて経営理念をつくる必要がある。改めての意味は、既に経営理念が策定されていても、その内容に問題があれば、必要に応じて見直す必要があるということである。複数の人たちからなる人間集団である組織を正しく存続させるためには、企業の目的や使命を明らかにし、共通の行動基準や価値観を明確にする必要がある。経営理念とは、例えていうと、大樹の根のようなもので、根が弱いと経営上の問題という強い風が吹いたら樹木はすぐに倒れてしまうことになる。会社経営を行うにあたっては、しっかりとした経営理念が必要となる。ただし、経営理念を作成すること自体が目的ではなく、作成した経営理念に基づく行動や実践が必要である。社員に経営理念を理解させ浸透させるためには、絶えず説明や唱和をするとともに、外部にも積極的に発信し、会社の姿勢を理解してもらうことが重要となる。(経営理念の必要性:本書69頁。)

ファミリーオフィス:日本では、ファミリーオフィスという考えは目新しく、まだなじみの薄いものといえる。日本国内では一族の人間が兼務で資産を管理するケースが多く、一族の資産を一箇所に集中して管理、保全、運用するケースはまだまだ少ないようだ。また、それらの資産は、持ち株、不動産、その他の比較的流動性の低い資産として保有されているケ-スも多く、また、流動性の高い資産で保有していても、圧倒的に現金が多く、株、債券などの資産に配分するケースは少ない傾向があるとされている。その結果、一族の資産管理の中心は国内での節税や保険に加えて不動産となっている。しかし、咋今世界経済は密接に相互作用し、おのおの何らかの形で連動するようになってきているので、日本に限った範囲での資産管理や保全ではいろいろな面で、そのニーズに対応することができなくなっているのが現状といえる。(日本でのファミリーオフィス:本書95頁。)

「モノの承継」における重要キーワード

資産税:ヒトの承継の場合は、いわゆる経営ノウハウ、見えざる資産が対象となるため、特に相続税の対象にはならないが、モノの承継の場合は、相続税の課税対象となるために、その評価をどのように行うか、また課税された相続税をどのように納付するかの納税資金づくりも検討する必要が生ずる。(資産税とは何か―相続税、贈与税、譲渡所得税の理解―:本書116頁。)

事業承継税制:事業承継税制とは、事業承継に関連する税制にほかならない。しかし、農地については、いわゆる農地の相続に関する租税法上の特例措置が、早くから設けられているのに対して、いわゆる事業主に対する租税法上の特例措置が設けられたのは、平成20年10月に施行された経営承継円滑化法に伴う取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度の創設、及び取引相場のない株式等に係る贈与税の納税猶予制度の創設まで待たざるを得なかった。(事業承継税制とは:本書151頁。)

経営承継円滑化法:平成20年2月5日、政府は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律案(以下経営承継円滑化法)」を国会に提出した。これは、中小企業の事業承継対策の目玉として、制定をめざしたもので、平成20年の第169回通常国会中の5月9日に成立、16日に公布され、平成20年10月1日から施行された。経営承継円滑化法は、遺留分に関する民法特例、金融支援等、相続税の課税についての措置の3つの課題で構成されている。(経営承継円滑化法:本書159頁。)

信託:2006年12月に約80年ぶりに、信託法の大改正が行われたが、新たな信託スキームも可能となり、相続対策に付き、以下のような各種信託スキームが活用できると考えられる。・・・事業承継信託としてのスキーム、株式管理信託としてのスキーム、遺言代用信託(遺言に代わる生前信託)としてのスキーム・・・(相続税対策―信託の活用―本書202頁。)

評者の結論

本書の帯紙に書かれている広告文は、そのまま評者の結論である。―「後継者が知るべきこと」「経営者がやるべきこと」をコンパクトにまとめた実践的解説書。企業コンサルティングの実務経験と研究者としての視点から事業承継の全体像を俯瞰する。―まさに一読に値する良書である。

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