はじめに

(1) 2000年10月米国SECはいわゆる選択的開示規制に関するルール(レギュレーションFD、以下FDという。)を施行した。これは米企業の役員やIR担当者が、アナリストや機関投資家等に未公表の重要な情報を選別的に開示することを禁止したものである。すなわち意図して未公表の重要情報を公開しようとするときは、特定の者に選別的開示を行ってはならず、広く一般に公表しなければならないとし、また意図せず未公表の重要情報を選別的に開示してしまったときは、直ちに一般公開しなければならないとするもので、その違反にはSECが排除命令を発し、あるいはSECが差止命令や民事制裁金の賦課を求める民事訴訟を起こすことができるとされている。

(2) SECは、企業情報は資本市場の生命線であり、その提供に際しては公平性・公正性が確保されなければならないが、株価に影響を与えるような重要な情報の選別的な開示が行われると、特定の者のみが利得を得る機会をつくることになり、多数の投資家の資本市場に対する信頼を損なうことになるのでこれを規制する必要があるとしている。〈注(1)〉SECは、 今回のFD制定について個人投資家を中心に多数の国民から強い支持があったとしている。他方で、法的制裁をもって情報開示を規制すると企業が情報開示に慎重となり、かえって提供される情報が減少する結果になるのではないか〈注(2)〉、そのため株価のボラティリティが高まるのではないかとの懸念も示されている。〈注(3)〉

(3) 当研究会としては、一般投資家とプロフェッショナルとの情報格差を縮小するため、情報開示の公平性・公正性を図るというFDの基本理念は高く評価すべきであると考えている。ただ今回制定された具体的ルールが、指摘されているような副作用を起こすことなく当初の目的を達成することが出来るかどうかについては、なお規制施行後の状況を注意深く見守る必要があると思われる。また、後掲の補論で述べているように 米国と日本ではアナリストと企業の関係、インサイダー規制の法制度に違いがあることなどを考慮すると、わが国においても米国と同様の新たな法的規制をすぐに導入すべきとすることは早計であると考えている。
しかし、FDが目指している方向は資本市場の発展のために正しいものであり、今回のFD制定を機に、わが国でもIRのありかたについて関係者の間で議論が深められ、より公平かつ公正な情報開示を進める方向で改善が行われて行くことになればそれは望ましいことである。当研究会としてもそのような動きを積極的に支援したいと考えている。FDは外国企業には適用されないが今回のFD制定を機に、わが国でもIRのあり方の見直しをされる企業も出てきている。このような見直しが上記のような方向での情報開示の改善につながることが望まれるが、見直しにあたっては以下のような点が重要である。

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