政権交代と金融制度の変更

英国においては、本年5月、それまでの労働党政権から保守党と自由民主党の連立政権に交代し、様々の分野で政策見直しが行われている。金融分野では、銀行課税導入、高額ボーナス規制等の改革が検討されているが、中でも最も注目を集めているのは、金融監督制度の大改革であろう。
これは、①業界横断的な監督機関であったFSA(金融庁)を解体し、Bank of England(中央銀行)の下に、二つの監督機関、Prudential Regulation Authority(PRA,金融監督庁)とConsumer Protection and Markets Authority(CPMA,消費者保護・市場監督庁)として組み入れるとともに、②BOEの中に、Financial Policy Committee(FPC,監督政策委員会)を設置しマクロプルーデンス政策を担当させる、というものである。
この金融監督制度改革は、1997年、当時のブラウン蔵相の主導により導入された”tripartite regulatory system"(FSA,BOE,財務省の3者で監督責任を分担する制度で、BOEから個別金融機関に対する監督権限を奪い、FSAを統合的監督機関とする)を廃止するものであり、本年の下院選挙において、ブラウン首相が率いる政権を打破するための手段の一つとして保守党マニフェストに取り上げられた。このように党利党略的な動機に基づく政策であったが、キャメロン保守党首の強力なリーダーシップにより、連立政権政策合意に取り入れられた後、政府施政方針演説、シティにおけるオズボーン蔵相演説によって大綱が明かにされ、先日の財務省議会提案(A4版、69ページ)で詳細が開示された。この提案によると、これまでの監督制度は、3者の共同責任とされた結果、①金融制度に累積して来た問題点の認識が遅れ、②それらに対し解決策が取られなかったため、③金融危機勃発後も適切に処理できなかった(とりわけ、2007年夏のノーザンロック銀行破綻という危機の初期段階において)と指摘されている。この点は、ターナーFSA会長も責任回避(underlap)現象が起きたと反省している。さらに、FSAの監督手法も、金融危機が深まっていく過程で立ち入った形での戦略的リスク分析を行うことなく、規則や指令に対する遵守状況のチェック(tick-box compliance)するに止まるとの欠陥がみられたと認めている。
財務省提案では、BOEはシステミックリスクに関する情報を多く保有しているため、マクロプルーデンスを行うに適した主体であるとしたうえで、"underlap”を避ける見地からミクロプルーデンスを担当するPRAを下部組織として持つべきとしている。また、BOEの中に金融政策を行うMPCと監督政策を行うFPCを抱え込むことに伴い予想される懸念に関しては、それぞれ担当の副総裁を置き、それを総裁が統括することでコントロール可能であるとみている。この点について、キングBOE総裁は「この監督体制は、未経験でテストされていない点も多いが、それは、試さないでいいという理由にはならない」と発言している。
このように英国では、金融監督体制の変更が選挙に勝つための手段の一つとして使われたことは事実ながら、一旦政権交代が実現すると、整然としかも周到な準備の下に取り進められている。
翻って、我国における郵政民営化の変更を見ると、同じ政権交代に伴う制度改変ではあるが、検討の手順、深さにおいて格段の差があると言わざるを得ない。
アナリストとしては、対象自体を的確に分析することは当然ながら、その背景についても、理解を深めていくことが求められよう。
2010年9月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 原田 靖博
(フューチャーアーキテクト(株) フューチャー経済・金融研究所 所長)


