ESG要因による企業価値分析のフロンティア開拓を

2006年4月に公表された責任投資原則(PRI)によって、欧米の年金基金等の資産保有者、運用機関、情報ベンダーなど資産運用業界では、投資プロセスにESG(環境・社会・ガバナンス)要因を組み込む動きが広まりつつある。
これを受けて欧米のアナリスト協会では、非財務情報であるESG要因は長期的な企業価値に影響するという認識の下、定性的・定量的な評価マニュアル作りを進めている。一方、当協会では、昨年(2009年)、「企業価値分析におけるESG要因研究会」を立ち上げ、ESG要因に関するアナリストの意識調査や、実際のESGスコアを用いた企業価値との関連性の分析を行い、先ごろ(2010年6月)報告書を公表した(以下、報告書)。ここでは、以下の2点から、ESG要因による長期的な企業価値分析のフロンティア開拓を提言したい。
① ESG要因は企業の長期的な価値創造をもたらす
世界経済は、「産業革命」以来の「低炭素革命」が進行しつつあると言われている。その際、環境関連の技術で付加価値を生み出すことが課題になっている。そして、企業は適正なガバナンスの下で、社会への影響にも配慮しなければならない。まさに、ESG要因を如何に実践するかが鍵になっている。
報告書では、企業の非財務情報(ESGスコア)と財務データ等の関係を分析した。分析の結果、ESG要因は、中長期的には企業の付加価値増大につながる可能性があることを示しており、国の政策とマッチすれば、より大きな効果が得られるはずだ。
また、分析によると、環境スコアの高い企業は、環境への配慮のためにコストをかけており、生産性やROAは犠牲になっているものの、固定資産当たりの温室効果ガス排出量が低い傾向が得られている。わが国の企業が環境に配慮して費やしているコストは、現時点では企業価値にマイナスの評価がされているが、「低炭素革命」が進展すれば、評価が見直される可能性がある。
そして、わが国企業の成長戦略は、アジア地域での成長に依存してきており、この地域の成長に伴う環境破壊や公害問題の発生を防止することが、企業の価値増大につながるとともに、最大の世界貢献となる。
② ESG要因にはリスク低減効果がある
報告書では、ESGスコアの高い企業は、株式リターンのボラティリティが統計的に有意に低いことが確認された。これは、企業のESGへの取り組みは将来の経営リスクを低減させる一方で、このような株式への需要は増大することから、企業のリスク当たりのリターンを高めることが期待される。
アナリストは、企業価値分析において、どちらかといえば短期的な投資家のニーズに重きをおいてきたのではないだろうか。今後は、年金基金などの長期的な投資家を意識して、リスクを考慮した長期的な企業価値を提供するようなフロンティアを開拓して欲しいものだ。これは、証券市場における長期投資のインフラとしても重要である。
2010年8月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 宮井 博
(日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社 専務取締役)


