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現在位置:ホームの中の協会概要の中の理事からのメッセージの中の2010年7月1日リスク管理と危機管理
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理事からのメッセージ

リスク管理と危機管理

 「危機管理」という言葉はむろん、以前から安全保障や軍事用語として使われていたが、我々が日常的に目にするようになったのは、やはりバブル崩壊後の「失われた10年」においてであろう。その直接的な原因としては金融を初め経済・社会のいたるところで歪みや問題が噴出したことが挙げられるが、他方情報システムの発達による面も大きい。社会の隅々にまでコンピュータが導入され、システムダウンや誤操作が起きたときの影響が計り知れなくなってきていることの外、インターネットの普及で誰でも瞬時に世界に情報発信できるようになったことが危機事態を加速する側面を持つことも見逃せない。

 

 「リスク管理」のほうは危機事態の発生を予防し、あるいは発生したときの影響を最小化するために、そうしたことが起きるリスクの計測・管理を行うもので、リスクの把握・特定→評価→リスクが顕在化した時の影響を最小限に抑えるマネジメントを指し、企業の経営では日常的に不可欠なものとなっている。

 筆者が昔外務省の研修所で聞いた話に次のようなものがある。 フランスの駐ソ大使が、あるパーティーで出会ったロシア美人から誘惑され次第に深い仲となった。帰国も近づいた頃、案の定KGBの紳士が現れ、証拠写真を見せた上で、「閣下はいずれ本国に帰任され政府の要職に戻られる。そこでちょっとした情報でいいから我々に教えてもらえないか。」と丁重に要請された。さすが外交にたけた国フランスの大使は、迷うことなく、直ちに夫人と本国政府にすべてを話し、その結果大使はソ連の大物スパイになることなく、任期を終えて何事もなかったかのように本国に戻った。練達の大使は、初めはささやかでも一旦情報を流せば、それが新たな脅迫の要因となり次第に抜き差しならなくなることを知っていたのである。大使は後に仏ソ協会の会長に就任して両国の友好に尽くしたと言う。 外務研修所では、この話はむろん新米外交官に「赴任後は甘い話に気をつけよ。」という趣旨で話されたものであるが、筆者にはむしろ、リスク管理に甘かった大使だが、危機事態が勃発した後の危機管理は絶妙で、これによって仏ソ両国とも救われたという教訓話として記憶に残っている。

 私達が従事する金融・証券の仕事もこうしたリスク・危機管理なしでは一日も過ごせないが、それは行政も同じで、筆者が「失われた10年」の後半―それは大銀行ですら経営判断を誤れば市場から退出を迫られるまさに危機事態であったが―に金融行政に携わっていたとき、常にリスク管理と危機管理を意識して仕事をしていた。

 翻って、国家・社会のリスク管理・危機管理を行うことこそが政治の最重要の責務であるが、昨今の情勢を見れば、政治自体のリスク・危機管理が一番遅れているように思えるのは筆者だけであろうか。自らのリスク・危機管理ができない人達に国の危機管理を委ねていたというのでは、ブラックジョークではすまないと考えるが、いかが?

2010年7月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 乾 文男
(社団法人 投資信託協会 副会長・専務理事)

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