株式投資とコーポレート・ガバナンス

個別銘柄の売買判断において、投資先企業のコーポレート・ガバナンスの質がどこまで考慮されているか? 言うまでもなく企業の成長は、主として優れた経営戦略や商品開発力等に依存するだろう。資産運用の世界でガバナンスへの関心が必ずしも高くないのも無理はない。事実、ガバナンス問題で積極的に発言しているのはほとんど法律の専門家である。株主や取締役の権利・義務に焦点を当てる以上、ある意味でこれも当然と言える。
しかしこの点を、世界でも代表的なアクティブ運用のマネジャー、デヴィッド・フィッシャー氏(キャピタル)に聞いてみると、「投資先企業のガバナンス状態には常に注目している。ガバナンスに問題があると、遅かれ早かれ何か決定的な問題を起こし、長期リターンにダメージを与える可能性が高い。だからそうした企業は投資対象から外す。」
またパッシブ運用に軸足を置くチャールズ・エリス氏はビジネス・コンサルタントとしての経験を踏まえ、「ガバナンスの卓越した企業は、優秀な人材を引き付けるので、平均以上の成果を上げる可能性は高い」と言う。
アメリカにおける運用のトッププロは、コーポレート・ガバナンスの要素を重視していることが伺える。
翻って我が国の場合、直近はともかく、過去5年、10年、25年と長期にわたって日本株のリターンがマイナスかゼロで、債券利回りをかなり下回るという現実を目にした時、一般論として株式投資とそれを支える証券分析がこれまでワークしていたか、という疑問が浮かんでくる。株式リターンが長期的にほとんどゼロであったということは日本企業が総体として利益を出していないことを意味し、これは90年代半ばから日本経済の名目成長率がほぼゼロであったこととも符合する。もちろん結果論としては、こうした環境で機関投資家が日本株に資産を配分してきたこと自体にも問題だったのは確かだ。しかしだからリターンの低さはファンドマネジャーの責任ではなく、日本経済や投資政策の責任だと言うわけにもいかない。それでは何故ゼロリターンの日本株を買い、持ち続けているか? という問いに十分には答えていない。
これまでのガバナンス論の枠組みは、投資資金が巨大になると売りにくい、といういささか単純な前提のもとで、リターン向上のために議決権行使に注力せよ、というものだ。それはそれで重要なことではあるが、日本では特に持合いの影響もあり、ほとんどの場合機関投資家の議決権行使は過半数に達しない。そうした環境下で単に「売りにくい」から仕方がないですむだろうか? 本来投資家の持つガバナンス機能には、議決権行使のほかに、個別銘柄の「売買」という機能があるはずだ。ここに資本市場における市場規律の源泉があり、企業経営に対する収益性向上の刺激にもなる。今後日本企業と株式投資のリターン向上に向けて、ファンドマネジャーの役割も大いに期待されるところである。
2010年5月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 鹿毛 雄二
(リスクメトリックス・グループ 特別顧問)


