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現在位置:ホームの中の協会概要の中の理事からのメッセージの中の2010年2月1日『会計情報の比較可能性と会計基準の品質』
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理事からのメッセージ

『会計情報の比較可能性と会計基準の品質』

 会計基準の国際的な統合(コンバージェンス)は、基本的には会計情報の比較可能性を確保しようとしたものであった。資本市場がグローバル化し、投資家の資金が国境を越えて自由に移動する時代、企業の実態を伝える情報の作成基準が国ごとに違っていたのでは、違う国の企業を比較できないではないかということである。投資家は比較の難しい企業のリスクを保守的に評価するとみられるから、企業の資金調達コストを下げるにも世界中が単一の会計基準(国際財務報告基準;IFRS)を使うのがよいといわれてきた。

 その動きは、欧州の市場統合に伴うインフラの統合を超えて急速に世界各国に広まった。しかし、そこで基準をどこまで統合するのが望ましいかについては、経験的な根拠のある結論は得られていないというのが米国の学界における支配的な意見である。そうした基準統合の最適レベルは事前には誰にもわからないし、完全統合した単一の基準が望ましいという証拠もない。思い込みによる上からの統合でなく、市場の評価と選択による下からの統合が、コンバージェンスの最適なレベルと経路を保証するというのである。

 たしかに同じ基準で事実をコード化した情報は、事実とコードとの対応が画一化されている限り、そこからもとの事実を解読できるという意味では比較可能かもしれない。しかし、問題はその前に、そもそもコード化すべき事実をどうとらえるかである。企業の財務報告を規制する会計基準は、むしろ経営者に一定の裁量を与えることで彼らの持つ優位な情報の開示を促し、企業ごとの事実が投資家に伝わりやすくするものでもある。投資家には(アナリストにも)、それと比較可能性とのバランスこそが重要である。

 情報の企業間比較は、基準の統一が実務の統一を保証してはじめて可能になる。実務は基準を解釈し適用する行為だが、それは会計監査や監督行政の国ごとのあり方だけでなく、個々の企業(ないし経営者)の財務報告をめぐる誘因に左右され、その誘因は企業の行動を制約する各国の周辺制度にも影響される。それらから会計基準だけを切り離して統一を図っても、実務の統一も情報の比較可能性も保証されない(要するに無駄になる)というのが、米国会計学会(AAA)の委員会が出したコメントの要点でもあった。

 その一方で多くの識者が指摘しているのは、基準設定主体のグローバル・モノポリーが資本市場のニーズに対応したイノベーションを妨げて、基準の品質を損なうという懸念である。強調されてきた比較可能性は、皆がどこまで同じ基準に従うかという問題であったが、企業の実態についてどれだけ有用な情報を開示できるかは、むしろ基準の品質という別次元の問題である。社会制度の国際統一は、工業製品の規格統一と違い、品質を高める新しい規格が競争市場に登場する可能性を大きく制約する。米国や日本までが丸呑みしたのでは、IFRSの品質維持は望めないのである。その点を理解して解決を同時に図っていく発想を持てば、世界や日本の進むべき方向もおのずから見えてくるはずであろう。

2010年2月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 斎藤 静樹
(明治学院大学教授)

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