『貯蓄から投資へ』

昨年のリーマンショックに始まる動きは、流動性の危機、金融機関の危機、経済の危機と連鎖し、それについての各種の議論が行われ、政策も打たれつつある。これから顕在化する問題もあろうが、政策効果は徐々に現れてきている。
一方、投資という観点から見ると、世界経済がグローバル化し、デジタル化したことにより、マーケットの変動は各段に早く、大きく、かつ流動性の問題もあり各マーケットは相関し、その影響も大きかった。投資の基本である、長期投資、分散投資にさえ一部に疑問を生じさせることとなった。
官民ともに「貯蓄から投資へ」を語り、その流れを背景に投資をした個人も、大きく傷ついた。もちろん今回の危機は特殊なものだったかもしれないが、変動は常に起こるものである。日本の個人金融資産の中での投資の割合が未だ小さいうちに、次の一歩を進めるためにも、投資に関わる問題について議論を進めるべきと思われる。
一般の個人投資家にとって、今回の危機によって投資に近づきたくなくなっているのも無理からぬことである。とは言うものの、価格変動はあるが収益の期待できる投資を嫌って、低金利の預金に資産を置いておいても、老後の資金不足という別の問題が生じるであろう。例えば、単純に0.5%で20 年複利運用すると元本が1.1 倍にしかならないが、2.5%だと1.6 倍、5%だと2.6 倍になる。この差が老後の生活費の差だと大きい。預金金利が高かった昔とは状況が一変しており、20~30 年後になっては手の打ちようがない。要は、皆が投資と貯蓄のプラス、マイナスを理解したうえで、その組合せを考えられる土壌が必要である。
国全体で考えてみても、直接金融の進展と金融機関・企業の株式保有の限界を考えると、有価証券の保有主体として個人の役割は、上がることはあっても下がることはない。ただ個人の有価証券保有が必要なら、諸外国の例を見ても、何らかの背中を押す政策が必要であろう。例えば、一人当たりの投信保有額が世界一のオーストラリアでは、スーパーアニュエーションという一種の年金が大きな役割を果たしている。制度背景が違うので単純には述べられないが、運用益の15%課税は平均30%以上の所得税率に対して、大きな税制優遇と認識されており、個人にとって投資への大きなインセンティブになっている。欧米でも投資に対して、税制優遇措置がついているケースも多い。税収の問題、課税の公平性など議論も予想されるが、環境対策など個別政策目標を狙った経済対策が検討されている現状では、投資への優遇措置を同じ俎上で議論してみても良いのではなかろうか。
資産運用に携わるものは、今回のマーケットの混乱を経て、必要な微調整はするにしても投資の基本を再確認するとともに、投資家に充分に理解してもらう努力をし、今後の施策についても積極的に発言していくことが求められるであろう。
2009年5月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 後藤 俊夫
(三菱UFJ投信(株) 取締役社長 (検定会員))


