2009年2月2日

金融危機の勃発を契機に、近年市場が急拡大した新しい金融商品・取引に対して厳しい批判がなされている。金融機関のビジネスモデルを全面的に見直すと同時に金融規制を再強化しようという動きも急である。CDO、CDS、ヘッジファンドなどが特に厳しい批判の矢面に立たされており、金融工学全般に対する風当たりも強い。批判の中には、確かに的を射たものも存在する。
その一方で、正しい事実認識に基づかない批判も少なくないと思われる。例えば、オリジネートした貸付債権を証券化商品として転売する"originate-to-distribute"というビジネスモデルが今回の金融危機の重要な原因になったという主張がしばしばなされている。証券化が金融機関のモラルハザードを誘発したという主張である。この主張が正しいとすれば、証券化を規制すべきということになる。
しかし、この主張は必ずしも事実に即していない。その証拠に、米国における過去30年以上の証券化の歴史においてプライム住宅ローンを証券化した伝統的なMBSやクレジットカード債権などを証券化したABSに関してサブプライムの証券化商品と同様の問題は発生していない。そもそも証券化によってオリジネーターがリスクを完全に投資家に転嫁できるのであれば、証券化ビジネスを展開していた大手銀行や投資銀行に今回のような巨額損失は発生しなかったはずである。真の問題は証券化自体にあったのではなく、借り手の返済能力よりも米国の住宅価格バブルの継続に融資返済の原資を求めるサブプライムローンの商品デザインにあったと言えよう。また信用リスク管理に関する金融技術が未熟であったことも認めなければならないだろう。
この例にみるように、金融危機の中で過去の金融イノベーションを全面的に否定するかのような経済評論家の主張が最近にわかにマスコミを賑わしているが、それらの主張は行き過ぎである。「羮に懲りて膾を吹く」ことのないように慎重に金融危機の原因を解明し、正しい事実認識に基づいて真に改めるべきものを改めるようにビジネスモデルや金融規制の見直しに取り組むべきである。また、今回の金融危機で弱点が明らかになった金融技術の改良も緊急の課題である。高い専門知識を持ち冷静に実態を分析する証券アナリストの果たすべき役割は今後ますます大きくなろう。
2009年2月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 新井 富雄
(東京大学教授、検定会員)


