2008年12月1日「資本主義の精神」

会員の皆さんは昨年来、金融市場の混乱に振り回されていることだろう。なんでこんな目にあわされたのか、本当に運が悪かったとお思いかもしれない。しかしその一因は、誰がというわけではないが、金融業界全体の驕りにあったように思う。高い報酬に引っ張られて、金融技術を弄び、市場機能を過信して、実体経済から遊離した金融の肥大化を起こした。その結果がこの混乱ではなかろうか。
そもそも金融は新たなキャッシュフローを生み出すものではない。資金を仲介する対価として、事業会社等が生み出したキャッシュフローの分け前に与るだけだ。例えば、いま問題のサブプライムローン。証券化やCDO、挙句の果てはCDOスクエアだ、キューブだと組み替えたところで、キャッシュフローは決して増えはしない。デフォルトのリスクも減るわけはない。むしろ手数料が何回も抜かれるだけ、キャッシュフローは減るだけだ。
ここ数年、爆発的に広がったヘッジファンドにも似たような問題がある。それはキャッシュフローを生み出す本源的証券に投資するのではなく、価格の歪みを利用し、それが是正される過程でリターンをあげるというものだ。その成功は、歪みの解消にほかならないから、収益源泉の枯渇を意味する。ところが現実には、高い実績リターンに惹かれて、大量の資金が流入した。ヘッジファンドは、残された少ない歪みの中で高いリターンを維持するため、何倍ものレバレッジを掛けたり、大きなリスクを取ったりした。一たん逆回転し出したら、大きな混乱を招くことは避けられない。
金融関係者はこんなことはよく分っていただろう。にもかかわらず、サブプライムやヘッジファンドがどんどん拡大したのは、投資家の高い要求に応えんと無理したからか。あるいは高い報酬に目が眩んだからか。いずれにしても、金儲け優先の結果といわざるをえない。
いま大切なことは、改めて金融の機能や限界を認識して、資金提供や仲介の役割を果たすことだ。リターンや報酬は目的ではなく、その結果として与えられる。資本主義を発展させたのは、こうした職業倫理だった。金融関係者にはいま一度、マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理」、あるいは石田梅岩の「心学」に基づく「資本主義の精神」に立ち返ってほしい。
2008年12月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 浅野 幸弘
(横浜国立大学教授)


