2008年9月1日「アダプションと連単分離」

「国際会計基準」と聞くとちょっと前までは「コンバージェンス」を連想したものだが、ここにきて急に連想ゲームの正解が「アダプション」と「連単分離」に変ってしまったようだ。コンバージェンスは「収斂」で、国際基準と概ね一致するように国内の会計基準を整備していくことを指す。これに対し、アダプション(adoption)は「採用」で国内基準を放棄し国際基準を丸呑みすることを意味する。丸呑みすると国内の会社法や税法との整合性が問題になり、これらの整備には時間がかかるので、単独決算は国内基準で行い連結決算は国際基準に従うというのが「連単分離」であると定義しよう。欧州の国には既にこれを用いているところがある。連想ゲームの正解が急に変ってしまったのは、従来はコンバージェンス路線を走っていると思われていた米国がアダプションの方向に転じたことが主因と言えよう。
世界中で金融商品は同じものが同じように取引されている。工業製品や天然資源も製造者の寡占化が進み、グローバルな価格付けと取引が行われている。同じようなビジネスをしているのに会計基準の相違によって結果としての業績が異なるというのはおかしなことかもしれない。また、コンバージェンスが実現した後に、コストをかけて自国基準を維持していくことに意味があるのかという疑問も生じる。世界中の国が国際会計基準をアダプトすれば、世界中の企業の財務諸表を調整作業なしで比較できることになり、これはアナリストあるいは投資家にとっては夢の時代の到来と言えるだろう。夢の実現にとって障害となるのが、各国毎に異なる会社法、税法との関係である。連単分離はこの問題を早期に解決する魔法の杖である。
国際会計基準の設定主体である国際会計基準審議会(IASB)は2011年半ばまでに、現在懸案となっている多くの点につき新たな会計基準を出す予定である。財務諸表の表示様式、収益の認識、時価評価、業績の表示等を含め、今後数十年間の会計基準の骨格がこれからの3年間で決まるといっても過言ではないかもしれない。アダプションと連単分離で夢の時代が到来しても、アダプトする対象に問題があったら悪夢の時代になってしまう。IASBに対し効果的に意見を提出し、ユーザーが真に必要としている会計基準を実現させていくのがユーザーの代表であるアナリストの責任である。当協会としては勉強会や講演会等を通じて国際会計基準の開発動向について情報提供していくとともに、会員の意見をアンケート等を通じて把握し、これに基づいてIASBに対して積極的に意見発信をしていきたいと考えている。
2008年9月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 教育第二企画部長
金子 誠一


