2008年7月1日「インサイダー取引に思う」

わが国の証券市場における本格的なインサイダー取引規制が刑事罰として導入されてから本年4月で20年目になりました。もとよりインサイダー取引は証券市場の信頼を損ねる代表的な不公正取引の一つであり、このような取引が野放しにされると、投資家が安心して証券投資を行うことができる市場の健全性と公正性が損なわれることから必要不可欠な制度として導入されたものであります。
不公正取引の監視当局は、インサイダー取引の具体的摘発事例をその都度公表し、不公正取引防止の警告を発しているものと思われますが、その件数は増加の傾向にあることは残念に思うところです。当事者の中には、取引時は単に耳寄りな好材料が入手できたといった重要事実の認識は薄いまま取引を実行している者もあるかもしれません。しかしながら、最近の公表・報道事例では、報道機関で企業の法定公告等にかかわる部門、証券会社でM&A等を担当する部門、ディスクロージャー関連等の印刷会社に所属する職員(含む元職)等の事案が指摘されていることには大変驚きを感じます。これらの者は、その業務上、周辺にはインサイダー取引の構成要件たる、企業の未公表の重要事実が常にあふれていることは自らが十分に認識しているはずであり、自分の取引だけは発覚するはずはないとの確信の中で実行しているのでしょうか。20年も経過しようとするこの不公正取引の監視はそれほど甘いものではなく、信頼される証券市場を維持するためにも今後も厳しい監視を強く望むところです。
さて、証券アナリストは、証券分析のために企業情報に接する機会が多い専門職であります。証券アナリストが未公表の重要事実を利用して、インサイダー取引を行うことは他と同様に禁止されることは言うまでもありません。加えて、証券アナリストは、入手した未公表の重要な情報の利用等に関し、当協会の証券アナリスト職業行為基準において、証券分析業務に利用する行為や当該情報を他者に伝達する行為が禁止されているほか、当該企業に対し早期の公表を促すよう求めていることに十分留意する必要があります。
証券アナリストは、高度の知的専門的職業でありかつ重要な市場参加者の一人であります。ゆえに投資家に信頼される高いモラルが求められ、これに応えることがさらに社会的地位を高めることになると確信しています。
2008年7月
社団法人 日本証券アナリスト協会
理事 規律・企業情報開示部長
片野坂 親二


