プライベートバンカー資格
公共社団法人 日本証券アナリスト協会-The Securities Analysts Association of Japan
Login
マイページ・PB専用ページをお持ちの方はこちら。受験・資格関連情報の閲覧、各種割引の適用などができます。

PB/WMに必要なスキルとは

実際にはインテリジェントでも効率的でもない

北山 自社で、クライアントが上場したり、M&Aで売却したり、MBOしたりという様々な案件を扱っている。PBセミナー用でのディスカッション用ケース作成の際には、コーポレートストーリーをどう組み立てるのか、どうして経営者がそのような行動となったのかを論理的に考えさせるように、ケーススタディーの中で表現したつもりだ。というのもCMAの勉強では、投資家が合理的であるという前提だからだ。

大澤 ポートフォリオ理論では、投資家は合理的に行動することが前提だが。

北山 CMAでは合理的に行動する投資家が前提で、もう一つは、効率的市場が前提だ。しかし、実際のところ企業経営者というのは自らのビジネスに関してはプロフェッショナルかもしれないが、投資に関しては必ずしも合理的ではない。むしろ普通の個人投資家より無理を言うのが成功した経営者であったりする。
 もう一つは、市場自体が本当に効率的かというとそうでもなく、ウィリアム・シャープとかハリー・マーコウィッツの世界だけではなく、カーネマンといった行動経済学の側面もある。
 合理的でない投資家でもビジネスでは成功した、かつ必ずしも効率的ではない市場で、その企業がどうやって勝っていくか、どう投資していくかを、まずは理論的に勉強して理解したが、でも実際のところ違うね、と再度理解するのがPB/WMの世界ではないかと思う。

大澤 PBセミナーは実践的な内容と言われるが、まさしくそういうところなのかと思う。

北山 金融機関の人たちも現場では、合理的ではないがビジネスでは成功して無理を言ってくる顧客に対し、どのようにあるべき方向を説明し説得し、提案していくかというのがポイントかと思うので、それを毎回のPBセミナーで採り上げてきたつもりだ。
 

リスクの取り方

米田 リスク許容度でいうと、主観的リスク許容度と客観的リスク許容度が個人投資家にはある。機関投資家の場合には主観的リスク許容度がない。超富裕層ともなれば、機関投資家クラスの資産額を持っていても、極端に保守的なポートフォリオを作っていたりする。それは、単に投資に関する基本知識がないためだ。ビジネスは分かっていても、有価証券投資で計算されたリスクを取るには、全く違う行動をとることが必要となる。
 更に私のファミリービジネスの研究で判明したが、オーナー経営者が自分のビジネスコミュニティーの中で、後輩からメンター(注1)として祭り上げられ、言われるままに周辺の若手の会社に出資することの問題点だ。出資先が、自分の事業と同じ業種でリスク相関係数が高く分散投資にならず、個人の流動性の悪化要因となるからだ。
 オーナー経営者は自社への最後の貸し手の役割を担っているので、自分のポートフォリオでは、会社にお金を貸すべき流動性を確保しておくべきなのに、現金化すべき事態には、「先輩の会社が厳しい時は私の会社も厳しいので、自社の買取りには応じられませんよ」と未公開株の現金化要請が断られたりするケースをよく見る。本来は流動性やリスク相関性に十分配慮すべきなのに、全くそれらが考えられていない資産運用となっている。
 また金融の知識がないまま金融機関との付き合い程度に商品を購入し、ポートフォリオ運用の観点からは非効率となっている。更に不作為で全て預金になっている極端な場合もある。既に事業収益も安定している企業なら、最後の貸し手としては過大に流動性を持ち過ぎている可能性もある。

(注1) 助言と対話による気付きで本人の自発的・自律的成長を促す指導者。
 

バランスを欠く適合性チェック

北山 どこの金融機関も顧客に対して適合性チェックやリスクに関する説明をするが、それはごく限られた金融ポートフォリオだけに限られているのが現実だ。しかし企業経営者であれば、金融機関担当者に話すポートフォリオ以外の部分が圧倒的に大きく、未上場株であったり、不動産であったりする。今の担当者は目の前の企業経営者の、本当に全体の10%以下でしかない金融ポートフォリオだけを見て適合性チェックをしている。

大澤 顧客の全体を見ていないということか?

北山 通常なら5~10億円の預金があったら、株式等のリスク資産にアロケーションするべきだと思うだろう。しかし中小企業経営者なら、自分のビジネスが苦しいと思ったら、目の前の1億円でも預金でおいておきたいこともある。
 顧客全体を見るというのが、PB/WMの世界だと思う。相手が企業経営者ならどう行動するのか、何が問題かをつかむべきだ。そういう状況を把握せずに、一部の金融ポートフォリオだけで、適合性チェックやリスク許容度の質問をするのは、木をみて森を見ずといった印象だ。本質は全く違う。
 担当者は全体を見る思考がなくなりつつあるのではないかと危惧している。目の前の金融ポートフォリオばかりを見て、顧客のビジネスを見ていない。そのため提案をしてもなかなか相手の心に響かない。そういう状況だと思う。

  • facebook
  • twitter
  • YouTube
検索キーワード:
© 2015 The Securities Analysts Association of Japan.
当ウェブサイト内の文章・画像等の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。