プライベートバンカー資格
公共社団法人 日本証券アナリスト協会-The Securities Analysts Association of Japan
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筆記試験(投資政策書)

作成の手引き

STEP1 顧客のニーズを探る(顧客とのコミュニケーション)

Ⅰ.顧客を知る

  1. 富の形成の経緯を聴く
    • (1)創業者か2代目以降の経営者か
      ⇒創業者であれば、自ら資産を築いてきたので、一般的に投資に於けるリスク許容度が高い。投資で失っても事業で稼げば良いと考える。
    • (2)完全に引退をして事業を閉鎖するつもりか若しくは第三者に売却するつもりか。
      (=完全に引退し、金融資産だけで生活資金の不足を補うつもりかどうか)
    • (3)違法な業務や手段で形成した資産ではないか、コンプライアンスの観点から審査する。
      ⇒マネーロンダリング問題はないか等。
  2. 財務状況の把握
    • (1)経常資金収支の状況を聴く。
      ①経常資金収支は黒字か
      ②経常資金収支は安定的に黒字か
      ⇒収支動向が赤字であったり、黒字体質が安定しない場合、投資余力もなく、リスク許容度も低い。PL上の過不足資金がBS上の余剰資金の純増純減と対応する。
    • (2)純資産規模を把握する。
      ①純資産規模が大きければ大きいほど、投資に於けるリスク許容度が高い。
      ②個人の純資産のみならず、本人の経営支配する会社の純資産も併せて考慮した広義の純資産を把握する。
    • (3)純資産に占める当座資産比率を把握する。
      ⇒一般に当座比率の割合が高ければ高いほど短期でみた支払能力は高く、有価証券での本格的なポートフォリオ運用への潜在ニーズも高い。
    • (4)借入金の状況を聴く。
      ⇒純資産規模の裏返しであるが、借入金額が大きければ大きいほど、運用に於けるリスク許容度が低い。
    • (5)簿外債務を把握する
      ⇒債務保証の履行を求められるリスクなど存在していないか。同族系企業のオーナーは、しばしば銀行からの要請で、自分の経営する会社の連帯保証人になっている場合があるので、この点を確認することは極めて重要。
    • (6)不良債権を把握する
      ⇒法人への出資、貸付金(未収入金)、簿価から大きく時価評価を落とした不動産・動産(絵画、貴金属等)等純資産価値の実質評価を引下げる要因は存在しないか。
    • (7)未払相続税への対応度合いを把握する。
      ⇒未払相続税 < 当座資産+生命保険受取予定額となっているか確認する。

Ⅱ.家族関係を知る

スリーサークルモデル(所有/経営/家族)

  1. 一族の事業への役割・関与を把握する
    ⇒スリー・サークルモデル(※)を用いて一族メンバーの潜在的問題を把握する
    ※ 経営・所有・家族という3つのサークルの交わりからできる7つの領域に、一族の主要メンバーをプロットしながらおのおのの 利害関係の対立原因を探る分析手法。
  2. 一族の中の、非居住者の存否を確認する
  3. 事業承継者を確認する
  4. 一族の中の不和の有無を確認する
  5. 一族の中での健康状態を確認する
    ⇒特別障害者扶養信託へのニーズはあるか
    ⇒十分な生命保険の確保が出来ているか

Ⅲ.投資目的を明らかにする

(仮に投資が目的であった場合。実際にはより多様なニーズがある筈です)

顧客の財務状況(PL/BS/CFを、個人・法人を統合して)、家族状況を把握して初めて一族の投資目的や選択すべき投資形態は明らかになる。

  1. 投資形態を決定するための条件を確認する
    • (1)運用対象資産規模は何億円以上か
    • (2)在外資産や非居住者一族の有無
      ⇒資産規模が10億円以上であれば法人を通じた間接運用も検討に値する。また、在外資産があり、一族内に非居住者がいれば海外贈与等により効率的な相続税対策が可能なため、海外に資産管理会社を作ることが良い場合がある。
  2. 投資目的は何か。
    • (1)資産保全目的
      ⇒一般に引退すると、給与所得がなくなり経常資金収支が赤字になるため、資産を取崩しながら生活することを強いられるので、運用目的は将来に亘る購買力の維持となる。すなわち、資産保全型運用が投資目的となる。
      同様に、オールドマネーと言われる相続によって得た資産を一般的には次の世代に継承されることが期待されているので、実質購買力を減らさない資産保全型運用が求められる。
    • (2)資産形成目的
      ⇒インカムリッチ・プロフェッショナルや若い創業経営者の場合、現役時代の所得は高いため、リスク許容度が高く、引退後も現役時代に上がってしまった高いライフスタイルコストを維持するには、大きな金融資産を形成する必要があるので、株式を中心としたリスクは高いが、長期でみた期待収益金の高いアセットクラスを中心とした資産形成目的の運用が選好される。
  3. 運用資産の流動性へのニーズは高いか
    ⇒資産形成目的に比べ、資産保全目的の場合突然の配偶者の介護施設への入居など、予想外な要因に基づく多額の流動性ニーズが発生する可能性もあるため、流動性がより重要となる。
  4. インカム・ゲイン型運用かキャピタル・ゲイン型運用か
    • (1)資産保全目的の場合、一般にインカムがより好まれる。一方、資産形成型の場合は課税の観点からも、キャピタルゲインを追求する運用方法が好まれる。
    • (2)経営者の場合、事業経営がリーマンショックのようなグローバルスケールでの大きな景気後退の影響を受けると、突然事業で資金繰りが悪化するリスクがある。そうした場合本来長期投資として設計していた運用も取崩す必要が出てくる場合もあるので、たとえキャピタルゲインを 狙った資産形成型の運用であっても、運用対象資産の流動性には配慮する必要がある。

STEP2 現状分析

Ⅰ.ファミリーミッション・ステートメント

ファミリーの憲法を定義する

  1. ファミリーミッション・ステートメントは特定の個人や夫婦、ファミリー、またはその 同族企業の「行動指針」である。
    ⇒投資運用方針書や事業承継対策よりも上位に位置する。
  2. 3つの資本(財的資本、人的資本、知的資本)のバランスを考えた保全を考える。
  3. ファミリーミッション・ステートメントが目標、投資政策書はそのための手段である。
  4. 長期的なファミリーの成長に対して最も何が重要であるか、項目を書き出してみる。
  5. 20年後のあるべき一族のイメージを具体的に表現する。

Ⅱ.運用目的(ファイナンシャルゴール)の設定

明確なゴールをもつ

  1. リスク許容度分析
  2. ポートフォリオ分析
  3. キャッシュフロー分析
  4. 必要保障額分析
  5. 不動産分析
  6. 税務分析

Ⅲ.問題点の整理、課題の洗い出し

顧客も気づいていない課題が存在する可能性もある

  1. 顧客の描くゴールと現状とのギャップは何か
  2. 問題点は課題として統合できるものがあるか
  3. ソリューションとしてはどんな方法があるか、どこで解決できるか

STEP3 ソリューションの提案

目的(運用、保全、相続承継等)に応じて、様々な手段を組み合わせる

以下、資産運用の例

1. 基本アプローチ

資産規模の大きい富裕層を対象とするプライベート・バンキングにおいて運用の基本方針を考える場合、第1に、ストラクチャーの選択、第2に運用目的の設定が、そして第3に運用にあたっての運用ガイドラインの3つを決定する必要がある。

2. ストラクチャーの選択:

  • (1)運用規模が10億円超の場合、資産管理会社を通じた運用ストラクチャーを検討することが必要となる場合が多い。
  • (2)一族の海外資産の存在や一族のメンバーが非居住者のために、海外贈与等の要請から海外スキームを必要とする場合がある。

3. 運用目的とキャッシュフローニーズでみた投資戦略の決定

運用目的とキャッシュフローニーズでみた投資戦略の決定

資産運用での投資政策書(IPS)例

1.IPSの役割

  • 顧客とポートフォリオマネジャーとの間で作成される書面であり、投資運用目的とその実現のため、ポートフォリオマネジャーが守るべき運用戦略が記されている。
  • 投資の目的・戦略・運用上のガイドライン(リスク許容度、リバランス許容度、用いるべきアセットクラス等)を明らかにする。

2.運用上でIPSを利用することのメリット

  • (1)一貫した長期運用戦略への集中
    投資家が短期の市場変動に惑わされることなく、長期の運用戦略に集中出来る。
  • (2)実効あるポートフォリオのモニタリング
    現実のポートフォリオ全体のパフォーマンスやアセットクラスごとのファンドマネジャーのパフォーマンスが当初の運用戦略から乖離している場合、迅速、且つ速やかに実態を把握することを可能にする。
  • (3)投資家と運用者のコミュニケーションツール
    投資家と運用を委託された運用者、運用評価や運用意見決定に於いてより効果的なコミュニケーションを可能とする。

⇒この結果、一貫した中長期投資戦略維持が可能となり、より良い且つ安定し た運用パフォーマンスが可能となる。

3.IPSの主な要素

  1. 金融資産に関する基本情報(どの金融機関に、いくら、どんな金融商品で保有しているか)
  2. 投資目的
  3. 投資期間
  4. リスク許容度
  5. ポートフォリオ構築に際し、利用可能なアセットクラスに関するガイドライン
  6. 目標となるアセットアロケーション
  7. 投資モニタリングに関するガイドラインや手続き
    • (1)モニタリングの頻度
    • (2)運用パフォーマンス評価で用いるべきベンチマーク
    • (3)許容出来るベンチマークからの乖離の程度(金額と期間)
      ⇒リバランスの方針を決めるのに必要
    • (4)IPSを変更する際の理由(財務・ライフスタイルの変更等に基づくアセットアロケーション)

4.具体例

① 投資目的
(含む運用)
私の主な運用目的は次の通りである。
  1. 65歳で退職するために十分な資金を形成すること
  2. 運用元本から毎年10百万円の税引後現金引出をしても100歳まで金融資産が涸渇しないこと。
  3. 運用益に対する課税を極小にするストラクチャーと金融商品を選択すること
  4. 子供への十分な相続財産(○万円)を遺すことが可能であること。
② リスク許容度
  1. 流動性リスクはどの程度取ることが出来るのか
  2. キャピタル・ロスの許容度はどの程度か
⇒現在価値でみた純資産規模の大きさのみならず投資家が経営する企業の経常資金収支も含めたCFがどの程度プラスで且つ安定的か十分検証する必要がある。
③ 目標アセットアロ ケーション 現金 5%
日本株 10%
米国株 20%
欧州株 15%
新興国株 20%
先進国債券 20%
世界リート 10%
④ 投資配分制限 現金 (5~ 20%)
日本 (5~15%)
米国株 (10~25%)
欧州株 (5~20%)
新興国株 (5~ 30%)
先進国債券 (0~40%)
世界リート (0~ 10%)
⑤ 金融商品選択基準
  • 投資信託のexpense ratioが一定水準以下であること
  • 投資信託の運用残高が50億円以上であること
  • 5年以上の実績あるファンド(ファンドマネジャー)であること
⑥ ポートフォリオの見直し
  1. 健康状態に著しい変化が発生した時やその他ライフスタイルの変更で生活費に大きな変動が生じた時
⑦ リバランス方針 目標アセットクラスから10%以上乖離している時、リバランス頻度は2年に1度

5.IPS作成に当っての留意点

  1. 短期でみた支払い能力(=流動性)の確保
    • ①ライフスタイルから導き出される年間の固定性支出を明らかにする
    • ②現状の税引き後の所得やその他CF流入要因(不動産賃貸収入、個人年金受給等)を明らかにする
      1. 一族会社等からの手取の給与所得
      2. 一族会社からの配当収入
    ②-①を経常資金収支尻として把握する。
    不足額があれば支出の見直しや 一族運用資産からの短期借入、若しくは運用資産の取崩しで対応する。

STEP4 モニタリング

Ⅰ.総括効果検証

  1. 中長期でみた企業(資産)価値を増大させるための戦略と戦略投資資金の確保
    次の5要素に基づいて5年単位で長期資産形成のシミュレーションを行う。
    • ① 初期運用元本
    • ② 目標リターンの設定
    • ③ 毎年の資金引出率(対元本)の設定
    • ④ 投資元本への年間純増投資額
    • ⑤ 予想インフレ率 ⇒ 毎年ロール・オーバーして見直す
  2. 相続税のインパクト・シミュレーション
    • ① 予想相続税額(=未払い相続税額)を試算する
    • ② 流動性資産への変換可能な資産額を試算する
    • ③ 上記②-①による、突然の相続税支払いの短期支払能力へのインパクトを予想する

Ⅱ.リスクの検証

  1. 市場環境の変化による影響
  2. リーガルリスク

Ⅲ.ファミリーミッション実現の可否

  • 最低3-5年ごと、またファミリー内で大きなイベント(本人の病気、親族の死去、子供の結婚、孫の誕生、本人の離婚、本人の再婚、事業売却、株式公開等)があればその都度見直す。

(参考)ファミリーオフィスについて

  1. 担う7つの役割
    • (1)一族のメンバーとして、また企業として基本的理念や価値観を共有し、強化して次世代に引き継ぐ教育の場を提供する。
      ⇒Family Cohesion (一族一体性)の強化の場
    • (2)一族株主として共同行動が取れるように、一族会社の重要な取締役会や株主総会の前にpre-board meeting を開き、そのファシリテーターの役割を担う。
      ⇒一族株主の結束と意思形成の場
    • (3)一族資産の共同運用と資金繰り管理の場を提供する
      主に以下の具体的役割を担う。
      • ① Family Mission Statement(FMS)に基づいてInvestment Policy Statement (IPS)を作成の上、一貫した戦略方針で投資を運用し、報告して、適宜見直す。
      • ② 一族の資金繰り管理を行う。
    • (4)一族への貸付や一族からの資産(一族会社の株式)買取のルールを決め、運営する。
    • (5)一族の保険購入を含むリスク・マネージメントサービスを提供する。
    • (6)一族間の揉め事を協議する場を提供する。
      • ① 一族の人間の一族会社への就職の機会提供
      • ② 一族株の売却や借入条件の調整
      • ③ 株主として異なる意思決定を調整
      • ④ 新規事業の提案
      • ⑤ 資産運用方針や一族会社の再投資等に関する意見対立の調整等
    • (7)寄付行動についての学習と協議の場を提供する。
  2. 一族合同運用会社の必要性
    • (1)運用効率の改善
      • ① 運用資金当たりの取引コストや管理コストの引き下げ効果
      • ② 運用単位が合同運用を通じ、大きくなることで、PEや大型不動産有効活用等、個人が単独ではアクセス出来ない、より有利な投資機会へのアクセスが可能となる
    • (2)一族の流動性の改善
      • ① 流動性の高い資産を共有することで、一族間の流動性資金の融通手段の提供が可能となる。
      • ② 運用資金を担保提供することで、より有利な合同借入が可能となる。
      • ③ 一族株式を散逸させることなく売却先の提供が可能となる。
    • (3)Single Family Office運営コストの負担力の改善
    • (4)合同運用の受皿として何が最適か
      • ① 法人を利用(国内法人、海外法人)
      • ② 組合・パートナーシップを利用(国内、海外)
      • ③ 信託を利用(国内信託、海外信託)

以上

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